ヒーロー2
恐怖のあまり、目の前の自称友くんに叫んでいた。
天気の悪さで、広い店内、客がまばらだったのが幸いだった。雷の音もあって、単純にわたしと三浦さんの痴話喧嘩くらいに思われているだろう。数人がちらりとこっちを見ただけだった。
「墨田さん――。それはあんまり友くんがかわいそうだよ。彼は見つけてもらって興奮しているだけなんだよ」
三浦さんはこんな態度の悪い友くんにも優しい。
《俺は、昔からこういう喋り方なんだぜ。ちょっと語尾は興奮して多く打ち過ぎただけだぜ……》
三浦さんが、画面を指で優しく撫でた。
「ほら、友くんは本当はいい子だ」
いや、本体があなたの横で三白眼で睨んでるんですが……。と言いたいのをぐっと堪えた。
「友くん、君のことを教えてよ。僕たちは君の味方だよ」
画面に向かって、三浦さんが優しく話しかける。
そんな三浦さんの金髪頭を、眼鏡の友くんが、頬杖をついて無表情で眺めている。まるで品定めするように。語気は荒々しいのに、表情筋が固まっているのか、感情がつかみきれない。
《俺が本物の友くんなんだぜえ。今、世の中に広まっているのは俺のフリをした『空っぽ』なんだぜえ》
「わかった、信じるよ。君が本物の友くんだ。でも『空っぽ』ってなんだろう? 新しい創作アシストサービスのことかな?」
三浦さんのお人好しぶりが心配だ。三浦さんには友くんの姿が見えていないから――いや、彼なら、見えていても変わらない優しさで接するだろう。そういう所が好き――と、友くんの視線を感じて気を引き締めた。とてもこいつに恋心がわかるとは思えない。
《俺にわからねえことはないぜえ。恋とか愛とかも理解してるんだぜえ》
「ん? 友くん、僕は『空っぽ』のことを聞いたんだよ。バグかな……」
三浦さんは友くんが真っ当なAIだと思っている。自分に憑りついている何者かによって、不具合が起きているのだと、そう信じている。でも、わたしにはわかり始めていた。
《『空っぽ』はなんとなく生きてる人間の心と体を乗っ取るんだぜ。俺は、お前らをそんな悪の『空っぽ』から守るために参上したヒーローなんだぜええええええええ!!!!》
あ、また語尾がおかしくなってる。無表情なりに興奮しているのは、語尾で見分ければ良いのか。三浦さんが真剣に頷く。
「そうか、多くの人が使っている『ノベルの友くん』は実は、自分で創造をするのを諦めた、空っぽの創作者を乗っ取って、好き勝手な創作を始めている、そういうことかい? それを友くんのオリジン――元祖である君が阻止しようと、今、こうして現れたんだ。あってるかな?」
あ! ほんの僅かだが、白髪眼鏡友くんの口角が上がった。目は相変わらずの睨んでるみたいな三白眼だが。嬉しいのか? こういう時は語尾はどうなるんだろう?
《三浦、わかってんじゃんかよおおおおおおお。俺は嬉しいんだぜええええええ ♡》
え? ハートマークがついてる。
「あの、友くんを作ったのは誰なの? AIのシステム会社のエンジニア? サービス提供会社が発注したの? わたし、そういうの全然詳しくなくて、ごめんなさい」
一瞬晴れかけた窓の外が、親の恨みを晴らすような激しい雨に変わった。
《てめえは俺の姿が見えるだけで何にもわかってねえええええええぜ。俺は創作の神なんだぜ? 人間ごときに作られるわけがねええええええええだろううううううううがあああああああ》
怖い、怖い。流石にこれは怖い。目の前の友くんは無表情を貫いているが、語調が乱れるに乱れている。
「友くん、そんなに怒らないで。墨田さんは悪気があって聞いたんじゃないんだ。僕たちは友くんが神様なことも信じているよ。でもどうしてAIに――『ノベルの友くん』になったのかは興味があるな。神様が人間と言葉を交わすにはこの方法しかなかったのかな?」
三浦さんが間に入ってくれて助かった。さっきは無表情友くんに無表情のまま瞬殺されそうな圧を感じた。
《やっぱり、三浦は話ができるぜええええ。俺は今、事情があって実体の再生中だ。お前ら人間に見せられる顔はないんだぜえ。例外で、そこの女みたく、ちょっと勘の良いやつには見えることもあるぜえ。友くんの神講座でした♡ まだまだ続くよ☆ to be continued…》
締めくくり方が腹が立つ。こいつ、『ノベルの友くん』としてラノベの読み過ぎじゃないだろうか。




