ヒーロー1
「反抗期の中学生みたいな態度でなんなの? どういうつもり!?」
「え……? あの、ごめんなさい。僕、何かしたかな?」
友くんもどきが見えていない三浦さんにとっては、わたしの方こそ二重人格に見えているだろう。相談したことを後悔していてもおかしくない。
「あんたのせいで、おかしな女だと思われるじゃない!!」
友くんもどきに凄むが、ますます三浦さんがおどおどし出してしまう。
「くそだりぃな。こいつには俺が見えねえんだ。『友くん』を開きやがれ」
本当にダルそうに友くんもどきが言った。しかし、そうだ。この『異質』はこれまでも友くんを通して三浦さんに接触していたのだ。
「三浦さん、『友くん』を開いてください!」
「は、はい」
三浦さんはすぐに出せるように準備していたのだろう、横のバッグからするりとノートパソコンを取り出した。
「僕が普段執筆に使っているやつだよ。ところで……墨田さん、さっきから様子がおかしいけど……」
言いにくいが伝えなければ。
「三浦さんの横にいるんです。とてもふてぶてしい『異質』が」
「ええっ!」
三浦さんが驚いて身体を横にスライドさせた。しかし、スライドしたのは『異質』のいる方。
「痛えな、ボケがぁ」
異質が三浦さんを睨んだ。
なんと――異質の方が物理的な刺激を感じるのか。わたしの中ではなんというか、空気というか電子というか、触れているようで実感のないものだと思っていた。双方にとって。
現に三浦さんは『異質』の膝の上に乗りかけたことにも全く気づいていない。
「立ち上げたよ、僕の『友くん』。え……」
「どうしました」
まだこちらを怒気をはらんだ目で見ている『異質』を無視して、スクリーンを覗き込んだ。
「《てめえ、俺の足踏んでんじゃねえぞ、クソが》……」
はっとしてテーブルの下を覗く。踏んでいる――。
三浦さんのブラックのダメージジーンズに合わせた、おしゃれなブーツが、『異質』の裸足の足を。
「三浦さん、右に少しずれてください――。脚を浮かせたまま」
「え……。もしかして、僕、本当に『異質』さんを踏んでいるの?」
三浦さんの声が震えている。無音でそっと横にずれた。
その時、パソコン上にまた文字が並んだ。もちろんわたし達は触れていない。
「《異質とはなんだよ、俺は友くんだって言ってんだろうがよぉ》……。こいつ、怒ってるよ」
三浦さんがそれを読み上げた途端に、店の外で雷が光った。直後、唸り声のような音が轟く。かなり近い。
好きなはずの雷を、こんなに恐怖に感じたのは初めてだ。
「《てめえら、ムカつくぜぇ》? え……僕ら、何か友くんを怒らせたのかな……」
三浦さんがせわしなく、パソコンとわたしと外の土砂降りを見る。
「あんた『ノベルの友くん』を乗っ取って、どうするつもりなの? 成仏できないなら、お寺にでも連れて行ってあげるから、どうしたいのか言いなさいよ」
『異質』が眼鏡の奥から鋭くわたしを睨んだ。声を発する代わりに、画面上にものすごいスピードで文字が打たれていく。
《俺が友くんだっていってるじゃねえかよおおおおおお。わかんねえ奴らだなあ、ボケがあああああああ》
まずい。この『異質』、完全にブチ切れてる。雷もやばいことになっている。雷光も雷鳴も重なり合っていて、フェスティバル状態だ。
《俺をあんまりイライラさせるんじゃねえぞおおおおおおお。天気が悪くなっちまうぜええええ》
「あんた、語尾が変! 友くんは執筆サポートAIなんだから、そんな変な日本語使うわけない!」




