おしゃべりネコ1
二度電車を乗り換えて、わたしの最寄り駅まで着いた。
駅から回猫院までは徒歩五分ほど。わたしの家は、その回猫院から逆方向に七分ほど歩いた場所にある。
わたしの住んでる街は、都心まで電車で三十分以内。それなのに驚くほど静かで、治安もいい。ファミリー層に人気があり、夜は特に人通りが少ない。スマホで時間を確認すると、十時半を回っていた。
街灯の明かりだけで、ネコの子一匹いない。
「なんか、怖いですね……」
まだお寺にも到着していないのに朔太郎さんが既にへっぴり腰だ。
「あそこです。大きな赤い門のお寺」
「ひいい」
朔太郎さん、ほんとにどうにかならないかな。門を見ただけでビビるとはさすがビビリ王。
「なるほど、都内にはまだまだ知らない立派なお寺があるものだね。門が開いてなかったらと心配したけど、あれなら無理に侵入しなくて済みそうだ。それにしても、どうして門の前にネズミの像があるんだろう。やけにリアルで、ちょっと気味が悪い」
三浦さんは全く怯えていない。まあ、何も怖いことが起きていないのだから当然だけれど、それにしても冷静だ。
《それはネコ戦士たちが前回の空っぽ戦で、マウスを奪って勝利したことに由来するぜええええええ。コントロール権を握ったってことだぜええええええ》
友くんが今度はネズミ耳になって話しているが、どこまで本気かわからない。
「じゃあ、入ろう。友くんとはつないだままで。もし、僕のバッテリーがヤバくなってきたら、墨田さんが友くんとつないでくれるかい?」
「はい、わかりました。さあ、入りますよ」
二人で朔太郎さんの両腕を掴んで、半ば引きずるようにお寺の敷地に入った。
す――っと冷たい空気が肌を撫でた。気温が三度ほど下がったように感じた。
悪寒ではない。清涼感が背筋をすり抜けた。
「両側が竹林になっているせいかな? 涼しいですね」
竹林と呼ぶにはささやかだけど、夜の暗闇の中ではその木々が何倍もの存在感を放っていた。
ざわざわと風でそよぐ葉の音まで昼間の三倍は大きく聞こえる。周囲が静かなせい、だけだとは思えない。本当に草木は夜、大きくなるんだ――。
「うわあああああ!!!!!!」
「はい、どうしました」
朔太郎さんの悲鳴にだんだん慣れてきて、驚かなくなった。
「ね、ね、ね、ね、ね」
「もう、ネコを見つけたんですか? 流石、ネコと話せる朔太郎さ――きゃあああああ!!!!!!」
ネコに負けないくらい大きな――いや、それ以上のサイズのネズミが、誰のものかわからない墓石の裏に走り去った。
「僕も飲食店でバイトをしていた時、大きなネズミは見たことがあるけど、あれほどのは初めてだ。中型犬くらいあったぞ。しっぽも太かったし、目が光ってた……」
「ほ、ほ、ほ、ほ、本当にネズミでしょうか? もしかしたら、空っぽがネズミに化けて、俺たちを追ってきたとかじゃないですよね!?」
朔太郎さんが怖すぎることを言う。友くんの意見を聞こう、そう思った時だった。
「うにゃあああああああああああああ!!!!!!」
友くんばりに語尾を伸ばしたネコの唸り声がした。
「うぎゃあああああああああああああ!!!!!!」
ネズミの消えた墓の前でフリーズするわたし達には何が起こっているのかわからない。数秒間、化け猫のような恐ろしい鳴き声と埃っぽく石の上を何かが転げる音がしていたが、急に闇に静寂が戻った。
《さっそく一人見つかったなああああああああ!!!!》
友くんがスマホの中で言った。
「ね、ネコ戦士さん?」




