おしゃべりネコ2
朔太郎さんがお墓の後ろに向かって呼びかける。
「うるさいな、なんだこんな時間に」
なんだ、誰か人がいたのか。
ところが、出てきたのはサバトラの猫ちゃん。ぽってりボディに、まん丸の目がキラキラしてて、なんとも愛らしい。
「かわいい~」
思わず中腰でゆっくり近づいた。掌を上に向けて、そっと差し出すと、丸っこい頭をすり寄せてきた。三角の耳がぺこんと折れても気にせず、頭をぐいぐい押し付けてくる。
「やあ、君、名前はなんて言うんだい?」
ネコが話す訳ないのに、三浦さんも腰をかがめて目を細める。
「サブロウ」
「……ん?」
今、結構渋めの男の人の声がした。三浦さんのマイルドボイスとも朔太郎さんの少年ボイスとも明らかに違う。
「猫の名前ですよ。……今、僕が力を開放しているから、あなたたちにも聞こえてるんです」
朔太郎さんが突っ立たままポツリと呟いた。
「子どもの頃はみんなネコと話せると思ってたんだ。でも、みんなは違っていて――いや、僕がみんなと違っていて、薄気味悪がられた。親も最初は笑って見ていたけど、幻聴が聞こえてるって言って、そのうち病院に連れていかれた。それからは、猫の声が聞こえても、聞こえないふりをするようになりました。今は一人暮らしで、江戸ネコと住んでます。代々江戸に住んでるネコちゃんです。昔の面白い話を間近で見てきたんだ。例えば、奉行所で密会していた武士とか……あと、赤猫と忍者の話も面白くて……あ、すみません!」
「帰るぜ」
また渋い声がして、すりすりしていたネコちゃんがぷいっと向きを変えた。……やっぱりこのネコ、喋ってる。おしゃべりネコ、正式登場だ!!!
「待って!!」
「なんだ?」
ネコが振り返った。
「さっきのネズミはなんですか?」
自分でもなんでそんなことを聞いたのかわからない。このネコちゃんがネコ戦士なのか、普通の野良ネコなのか、確かめたかったのかも知れない。
「そいつの中にある、臆病の化身だ。祓ってやったぜ」
ネコは朔太郎さんの方を見てさらりと言うと、右手を舐めた。
ネコ――いや、サブロウさんだ。
「僕の中の臆病は、あんなに醜かったんだな――。ははは……」
突っ立っていた朔太郎さんが砂利道に膝をついて頭を抱えた。
背の高い朔太郎さんの急な動きにも、サブロウさんは全く動じない。じっとビー玉のような目で見つめている。
「朔太郎さん……大丈夫ですか」
うずくまって小刻みに肩を揺らしている朔太郎さんに声を掛けた。
「うっははははははぁ――!!! なんだか、僕もう無敵の気分です!!! 臆病を退治してもらったから。ねえ、サブロウさん、このお寺に住んでいるあなたの仲間のところに連れて行ってもらえませんか?」
サブロウさんが金色のまん丸目で私たちを交互に見る。……いや、可愛すぎる。あの渋声とのギャップ、どうなってんの……。
「なんでお前らを。お前らいったい何者だ?」
でも、やっぱり声はめちゃくちゃ渋い。
「申し遅れました、僕たちは――」
言いかけたナイト三浦さんの言葉をさえぎって、朔太郎さんが叫んだ。
「僕らは『エンプティシスト』です!!!」




