ネコ戦士
朔太郎さんはビビリ王と言われたのに、怒るでもなく、なんならちょっと目がキラキラしていた。キングならなんでも良いのか? 単純な人だ。
「ど、どんなチャンスですか? できれば怖くなくて、体力を使わないことなら嬉しいです……」
《ネコちゃんだぜえええええええええ》
……ネコ? ん? 聞き間違え? あの、にゃあにゃあ鳴く猫のこと?
「ネコを僕たちの仲間にするということかい……?」
流石の三浦さんも戸惑い顔だ。
《そうだぜええええええええ!! 朔太郎はネコちゃんに好かれる才能の持ち主なんだぜえええええええ》
「はい、ネコちゃん大好きです。家でも三匹飼ってます。名前は――」
とろけそうな顔で、話し出そうとする朔太郎さんを止めた。きっと長くなる。
「空っぽはネコアレルギーとかなの?」
真面目に聞いた。それくらいしか思いつかない。創作者全員がネコを飼うようにしたら憑りつかれないとか、ネコの毛をお守りにするとか、そういうことを真剣に考えた。
《違うんだぜええええええええ。そこら辺のネコじゃだめだぜえええ。墨田んちの近くに、“回猫院”っていう寺があるんだぜええええ。そこに――住み着いてるネコちゃんのことなんだぜええええ》
確かに『回猫院』という変わった名前のお寺があるのは知っていた。信心深くないのでお参りに行ったことはないが。
「回猫院のネコはどう特別なの?」
よくぞ聞いてくれたと言った風に友くんがいつもに増して勢い良く言った。目は炎メラメラだ。
《あそこのネコはよおおおおおおおおお、昔『空っぽ』と戦ったことのある元戦士だぜえええええええ!!!!》
「え! ネコが戦士なの?」
「そんな逸話、文献には一切記録されていません」
歴史オタクの朔太郎さんが余計なことを言う。
《ネコの姿で戦ってたんじゃねえ。あいつらはれっきとした“戦士”だったんだぜ。戦いに疲れて、癒しと平穏を求めて――“ネコに転生する”ことを選んだんだにゃ》
ネコに転生――。友くんを受け入れておきながらなんだが、さすがに、それはファンタジーが過ぎる気がする。
「だとして、それを僕にどうしろと――」
朔太郎さんも困惑している。
《ネコちゃんたちは、自分たちが戦士だったことをすっかり忘れているんだぜえええええええええ。朔太郎、お前、ネコちゃんと話せるだろ? 思い出させてやるんだぜえええええええ。そして一緒に戦うんだにゃんだぜえええええええええ》
なんと――アイコンに猫耳と尻尾まではやしている。勝手にアイコン変えるな。それにしても朔太郎さんがネコと話せるとは?
「友くんが思い出させることはできないの? 一緒に戦った仲なんでしょ?」
《あいつえらはネコ期間が長すぎて、俺のこと忘れちまったんだぜええええええええ泣。俺はネコ語が話せねえから、あいつらを目覚めさせるのは、お前だ!!!! 朔太郎!!! だぜええええええ》
朔太郎さんがびくっとして、友くん、そしてわたしと三浦さんをゆっくりと見渡した。
「僕はネコ語が話せるんでしょうか? 自信がないけど、なんとなく話せるような気がしてきました。いや、僕はネコ語が話せます。僕はネコです」
後半はもう、よくわからない。頼られ慣れてなくて、混乱しているのかもしれない。
「なるほど、今、何時だろう? 九時半か――。これから行ってみようか。そのネコ戦士のいる回猫院へ」
キリッとしたナイトの顔で三浦さんが言った。ええっと怯える朔太郎さん。おい、しっかりしろ。
「わ、わかりました。でも、さっきの神社でも十分怖かったのに、今度は夜のお寺なんて――僕、本当に怖いの苦手で……」
「朔太郎さんがいないと仕方ないんですからっ」
イライラしてきてつい強めに言ってしまう。
「は、はいっ」
この人から、どうやってあんな侍の冒険活劇が生まれるのか――でも、わたしの説が正しければ、創作はその人の外見も、心も超えたその先からやってくるもの。朔太郎さんの心にも、絶対に侍の魂があるはずなんだ。
《よっしゃああああああああ!! 行くぜええええええ!! いざ、回猫院だああああああああ!!》




