オカルティックナイト1
「昼間はコンセプトカフェ、夜はバーとして営業してるんです。さ、どうぞ」
何のコンセプトですか? と尋ねようとしたが、一歩店内に入って理解した。オカルトだ、そしてホラーだ。
薄暗い店内には見えない煙が漂っているようで、その陰から見えてはいけない何かが今にも飛び出してきそうだ。
ざっと見た感じ、カウンター席を入れても二十席あるかないかの広くはない店内。
ホラー映画の名作ポスターだけじゃない。UFOやUMAについての文書、さらに宗教儀式を模した像や絵画まで、所狭しと並んでいる。
「こ、これは……」
思わず震えた声を出したわたしを、三浦さんが無言でニヤニヤと見ている。こんな人だとは思わなかった――。
「……さ、最高です」
「でしょ? 絶対に墨田さんとは趣味が合うと思っていたんですよ」
本当に最高だ。古今東西のオカルトやホラーのモチーフがあふれているのに、不思議とごちゃごちゃした印象がない。
デコレーションを手がけた人のセンスが、よほど良いのだろう。それにしても――
「どうして、わたしがオカルトマニアだってわかったんですか!?」
勢いよく聞いてしまう。まるで怒っているみたいだっただろうか? 三浦さんが少し身を引いた。
だって不思議だ。学校にオカルトグッズを持っていったことなんてない。ホラー映画の話だってしていない。私物の本にはブックカバーをつけていたし、部活では表向き、芥川龍之介好きを公言していた。
そもそも、そんな話をするような人がいない。女子同士のキャーキャー馬鹿騒ぎは、もしかしたら虫の次にこの世で嫌いかもしれない。
「類は友を呼ぶっていうじゃないですか。空気でわかるんですよ」
三浦さんが、ソファ席の一つにゆっくり腰を下ろしながら言った。
「え? じゃあ三浦さんも?」
「はい、僕も大好きです」
まるで自分のことを大好きだと言われたように熱くなった。とにかく、三浦さんの向かいの席に落ち着く。
「お勧めのモクテルがあるんですよ。モクテルっていうのは……ノンアルコールのカクテルなので安心してください。『エクソシスト』ってやつなんですが、それで良いですか? フルーティー系ですが」
エクソシストがフルーティー? まったく意味がわからない。でも、女子向けに選んでくれた気遣いを無下にはできない。
「はい、是非。『エクソシスト』大好きです」
「良かった。僕は『カラス神父』をもう一杯もらおうかな」
三浦さんが軽く手を上げ、店員さんを呼ぶ。穏やかな声で注文を告げた。
おどろおどろしいコンセプトに反して、店員さんは黒髪短髪で、むしろ金髪の三浦さんよりもすっきり爽やかな中年男性だった。
「あの、それで相談というのは、やっぱりオカルト系のことですか?」
気になって仕方なかったので、単刀直入に聞いた。
「いえ、違います。この店は前から墨田さんに紹介したかっただけで……。相談は、うーん、言いにくいな。モクテルを飲みながらでもいいですか?」
何故か急にドキドキしてきた。これはもしかして、もしかしてだけれど、三浦さんがわたしに気があるということではないか。
高揚する気分を押さえるために、水差しの水をカップに注いでぐびぐび飲んだ。変わった店なのに水差しがあってよかった。
三浦さんが少し心配そうな表情でわたしを見ている。喉が渇く病気か何かだとでも思われただろうか。
その時、タイミングよくモクテルが運ばれてきた。
「……」
三浦さんの『カラス神父』の黒はまだ良い。わたしの『エクソシスト』の緑色は何だろう? まさか――吐物を表しているのか?
「……じゃあ、そろそろ打ち明けようかな」
わたしが口を付けるか迷っていることには気づかず、三浦さんが言った。良い声で溜息のように言うものだから、妙に色っぽい。思わずゴクリと唾を飲み込んだ。……今の、気持ち悪いと思われていないだろうか。
「はい、なんでしょうか」
「僕、墨田さんの小説のファンなんですよ」




