友くん、飛ぶ1
「朔太郎さん!!」
三浦さんがその背中を追う。わたしも後に続いた。こんな所に一人残されてはたまらない。
「すみません、朔太郎さん閉所恐怖症みたいなんです!!」
捨て台詞に訳の分からないことを叫んで走った。そんなに長くないはずの岩屋の出口までが異常に遠く感じられた。
「ああああああ、あれです、僕が前見た三人衆……夢じゃなかったんだ……!」
外に出て、やっと少し歩調を緩めた朔太郎さんが、震えた声で言った。
「僕も見ました。でも、朔太郎さん、あれはまずいんじゃないですか。江戸川先生も、『ペトリコール』のメンバーも怒らせてしまったのでは……って走って!!!」
冷静に話していた三浦さんが突然叫んだ。わたしの手を引いて走り出す。何だっていうんだ。そして後ろを振り返って、失神しそうになった。
後ろから音もなく、『ペトリコール』のメンバーが走って来ていた。無表情、本体、無表情の同じ顔三人がセットで。それがはっきり見えた訳ではない。
……見えたのは、先頭の無表情だけ。
でも、私の脳は勝手に“あの三人組”を補完した。
――想像は、時に現実より恐ろしい。
奇跡的に転ばずに太鼓橋を渡り切り、鳥居に向かう。ここを出たら住宅街だ。いざとなったら、古典的だが大声で「火事だ!!!」とでも叫ぼう。鳥居でいったん振り返ると、思った通りの同じ顔三人セットが次々に岩屋から出て、わたし達の方へ走ってきていた。
「墨田さん、大丈夫? 大通りに出れば、あいつらもさすがに動けない……はずだ!」
「はい。大丈夫です。今日は嫌な予感がしてスニーカーを履いてきたので」
実は学校のマラソン大会で、いつも上位入賞しているくらい、走りには自信がある。
既に駅前の方へ走り出しながら、朔太郎さんを見た。
あ、わたしより彼の方がまずい。もうゼイゼイしていて、倒れそうじゃないか。どれだけ体力がないんだ。
「朔太郎さん、大丈夫ですか。あの橋を渡れば大通りまで直ぐです。何とか頑張ってください!」
……こんな時に限って、誰一人、通りを歩いていない。
世界が、わたし達だけを置いて消えてしまったみたいに。
この近辺で一番大きな橋が見えてきた。少し遅れ気味の朔太郎さん。このままでは後ろの三人衆セットメンバーズに捕まってしまう。肩越しにチラリと振り返ると、さっきより確実に距離を縮められていた。くそ――。わたしと三浦さんなら全力疾走で振り切れるのに。朔太郎めええええええええ!!! わたしに友くん語が憑依したその瞬間だった。
「てめえらチンタラしてたら、空っぽの餌食だぜええええええええ!!!!!!」
友くんが現れた。画面越しではなく、実体を持って――。
「うわああああああああああああああ」
なんと、三浦さんと朔太郎さんにも見えるのか、二人が驚愕の表情を浮かべている。叫んだのは朔太郎さんだ。もうこの人、今なら猫を見ても驚きかねないほどの怯えようだ。
後ろのセットメンバーズ、総勢三十名も、もう橋を渡ってきている。あと数秒で追いつかれる。
「朔太郎、てめえは俺の背中に乗れええええええ!!!!」
「えっ、そ、そんな――」
「迷ってる暇はねええええええ!!!」
バッと身を沈めた友くんの背中に、朔太郎さんが猫のように飛びつき、しがみついた。




