朔太郎さん登場
……またしても、友くん暴走。
でも、わたしは優柔不断、三浦さんは優し過ぎて奥手な所があるから、友くんのような勢いのあるメンバーがいるのは心強い……。って――もう完全に『エンプティシスト』の幹部気分でいる自分に驚く。
「どんな返信内容だった? 友くんがリーダーだから、決定権は君にあるけれど、古参メンバーになる僕たちにも共有はしてもらってもいいかい?」
《もちろんなんだぜえええ。でも、俺が説明するより、本人がインしてきたぜええええ》
パソコンの画面が四つに分割され、その一つに『朔』の文字が現れた。なんと、憧れの朔太郎さんと、こんなに早くに直に話をする機会がくるとは、心の準備がまったくできていない。
《朔太郎、カメラオンしても良いんだぜえええええ。俺がアイコンなのは、まだ姿が不安定で、墨田みたいな特異体質の人間にしか見えないからだぜえ。朔太郎カモーンだぜええ!!!》
朔太郎さんは、シャイな人なのかもしれない。
だんだんわかってきたが、友くんは気遣いの人――神様AIだ。朔太郎さんが入って来やすいような雰囲気を作ってあげている。
「あの……こんばんは」
少年のような声がして、カメラがオンになった。
あれ? かわいい? 朔太郎さんのお孫さん? 一目でファッションではないとわかる、分厚いレンズの眼鏡をかけているのが、画面越しにわかった。それほど、どアップだった。
「あ、すみません……緊張して近づき過ぎてしまいました」
「こんばんは……あの、朔太郎さん……ではないですよね?」
わたしの中の朔太郎さんのイメージは、少なくとも五十歳以上の気難しそうな男性だった。画面の中のおどおどした若者とは性別以外共通点がない。
「いえ、僕が藤井朔太郎、本人です」
その言い方も、決して堂々としていない。本当に?
「あの――疑われていますよね、僕……」
朔太郎さんが下を向いてしまう。黒いくせ毛の頭頂部しか映らなくなってしまった。
「いえ、こちらこそすみません。あの、重厚な歴史ものを書かれているので、もっと年上の方かと思っていて――」
「内面が老けているとは良く言われます……」
ダメだ、聞きたいことは山ほどあるけど、プライベートな話は後回しだ。話を『エンプティスト』に戻そう。
「すみません、自分たちの紹介もせず。わたしは墨田と言いまして、ペンネームは『クロキ ヨウ』です。覚えておられないかも知れませんが、朔太郎さんの作品に何度か感想とかコメントを送ったことがあります……」
「知っていますよ! クロキさん!……いや、墨田さん!いつも励まされていました、あなたの感想に。今回届いたファンアートを開こうと思ったのだって、あなたの名前があったからです。ほっとしました――。そして開いたらあのイラストです……。本当に涙がでました。あなたに絵の才能まであったなんて驚きだな――」
「いえ、違うんです。あのイラストを描いたのはこちらの三浦さんです」
三浦さんがすまなそうに話しに入って来た。
「すみません。連名で送ったので誤解を招いてしまいましたね。あれはあなたのファンである墨田さんが、僕にイメージを伝えてくれて、それを僕がイラストにしたものです」
顔を上げた朔太郎さんの表情は、どこか曖昧だった。この顔――どこか、遠い記憶の中にあるような……。しかし、それは気のせいと思えるほど一瞬で消え去った。
「そうだったんですか……。いずれにしろ、あれは暗闇の中に降りて来た、銀色の蜘蛛の糸のようなものでした。あの――」
虚ろだった朔太郎さんの目に光が宿る。本来はこういう人なのだろう。
「僕と一緒に戦ってくれませんか? 相手はもちろん江戸川先生率いる『ペトリコール』です――」




