人気作家の悩み2
今日は久しぶりに『ノベルの友くん』を頼らず、独立した文書作成ソフトで書いてみた。最初は不安だった。最近は、展開も偽友くんが提示してくれる選択肢から選ぶだけだった。
それを自分の言葉で書くことで、自分の作品だと思い込んでいた。でも、完成後の推敲まで友くんにやってもらっていたことを考えると、あれは友くんの作品だったんだ。正確に言うと偽友くん、つまり『空っぽ』にわたしは空っぽにされるところだったんだ――。
ところが書き始めると楽しいことに気がついた。
全然楽しい――。久しく忘れていた気持ちが溢れてきた。
次々と物語が目の裏を駆け巡る。空っぽに飲み込まれ、ブラックホールに吸い込まれる直前だった遺伝子が目を覚ました。
わたしは創造者だ。
時間が経過することも忘れ、キーボードを打ち続けていたら、あっと言う間に十時近くになっていた。
三浦さんに呼び出される前に、鏡を見直さないといけない。
ギリギリ、五分前に顔を整え終えた。整えても知れているけど、カメラの位置も、少しでも可愛く見えるように調整した。実物を先に知っている人に無駄な抵抗とは思いつつ。
三浦さんから《準備できたよ》という呼びかけがあり、入室した。画面の向こうの三浦さんは、全く疲れを感じさせなかった。
疲れを上回る充実感、まさにクリエイターズハイだ。
「墨田さん――さっき完成したよ。朔太郎氏に送るファンアート。描いていてとても楽しかった。子どもの頃、初めてクレパスを手に持った時の気持ちになった。久しぶりに完全に絵の世界に入って描いたんだ」
普段はおっとり話す三浦さんが、珍しく早口だ。
「スゴイ……。友くんがきたら見せてくれるんですよね? 楽しみ過ぎて、もう感動してます」
絵を見る前に感動は失礼かも知れないが、それがファン心理というものだ。好きなミュージシャンや作家や映画監督が、自称でも『最高傑作ができた』なんて言ったら、鑑賞する前から興奮するに決まっている。
《俺様、参上だぜええええええええええええ》
うるさいのが画面の隅に現れた。今度は神父のコスプレをしたアイコンに変わっているが、突っ込むのが面倒なのでスルー。
こほん、と三浦さんが咳払いをし、喉を整えた。
「じゃあ、友くんも揃ったところで、僕のイラストを見てもらうね……」
画面が共有された。そしてそこには――
《最っっっっっっっっっっ高なんだぜえええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!》
わたしが先に感想を言いたかったのに、友くんの単純明快な感想が先に画面に打ち込まれた。思わず小さく舌打ちした。
「そう言ってもらえて嬉しいよ。墨田さんはどうかな? どう思う?」
「こんなに……知らない色って、あるんですね……」
「そう、嬉しいな」
わたしの訳の分からない感想――もっと言えば褒めているかどうかもわからない言葉を、三浦さんは瞬時に理解してくれた。
雪景色では三浦さんの長所が活かせないのでは?と思ったけれど、杞憂に終わった。
白が、こんなにもカラフルなイラストになるなんて――私は初めて見た。
数えきれない種類の緑で描かれた森の絵と同じだった。数えきれない種類の白が重なって、幻想的なのにリアルな雪山がそこにあった。そして――『流れ星』と『北極星』の双子だ。
一瞬の煌めきに全てをかけている凛々しい女の子と、道しるべとなることを決めた決意の表情の男の子。
ふっくらした頬と丸い目は確かに幼い子どもなのに、思わず縋りたくなるような神々しさを持っている。二人が手をつないで、これもまた、雪の上に刺さった赤いカーネーションのように鮮やかな鳥居の前に立っている。
「…………」
全て言葉にして伝えたいのに、何も出てこないわたしに構わず、友くんが続けた。
《これで朔太郎の心はがっしりつかめるぜえええええええええええ!!! 早速これをDMするぜえええええええ!!! 三浦と墨田の連名で送れ。そして大事なこと言うから良く聞きやがれええええええええ》
このノリで言われると重大な話であっても、ふざけて聞こえてしまうのを友くんは気づいていない。
《ドゥルルルルルルルルルルルルルルルルル――ジャーン! ここに『エンプティシスト』結成だぜえええええええええ!!! 空っぽを満たす者たち――それが、エンプティシストだぜえええええ!!》




