最初の仲間
「エンプティシストって、なに?」
友くんの熱量がすごくて読み間違えたかと思ったけど、やはりそう書いてある。
《てめえええ、それでもオカルトマニアかよおおおおおおおお。『エクソシスト』は名作って呟いてたの、嘘かよおおおおおお》
確かに『エクソシスト』はわたしのバイブル。それは三浦さんも同じはずだが、彼はわかっているだろうか……?
「もしかして『空っぽ祓い』ということかい?」
《その通りなんだぜええええええ!!! どうだ、カッコいいチーム名を作ったぜええええ!!!》
あ、だから神父のコスプレなのか。映画『エクソシスト』にちなんで。「エンプティ=空っぽ」とエクソシストをかけたのか……。
友くんはまがりなりにも神様なのに、こんな悪ふざけをして怒られないのだろうか。
《俺は大真面目なんだぜえええええ。お前らの悪ふざけに付き合ってやってんだぜえええええ》
友くんはやっぱり鋭い。この言葉遣いに惑わされてはいけない。
「今のところ、チームメンバーは僕と墨田さんだけだよね。友くんがチームリーダーとはいえ、たった三人だ。朔太郎さんが入ってくれると良いな。僕の絵が功を成してくたら……」
《やつはもう仲間だぜええええええええ》
「そんな、まだ作品を送ってもいないのに……わかんないだろ?」
苦笑いする三浦さんに、友くんがご機嫌に言い放った。
《もう送ったんだぜええええええ♪》
「え? いつの間に、わたしまだ感想も書いてないんですよ」
わたしの感想を添えるって言ってたのに――。三浦さんのイラストのあまりの出来栄えに、そんなことどうでも良くなってしまったとでも言うのか。
《ちゃんと感想も添えたぜえ。お前が言った通りになああああ『知らない色がこんなにあることを初めて知りました』だろおおおおおおお》
「友くん、それは三浦さんのイラストの感想だよ――。朔太郎さん用には、別に良く考えようと思ってたのに、どうしよう……」
これで朔太郎さんが乗ってくれなかったら、三浦さんのせいじゃない、わたしの感想のせいだ。
《お前が一番描いて欲しかったシーンを見ての感想は小説の感想とニアリーイコールなんだぜえええ》
神様に自信満々に言われると、そんな気もしてくる。まあ、神様と言っても友くんだけど。
《お、来たぜえええええええ!!! 返信だぜえええええええ!!! 俺たちの新しいアカウント『エンプティシスト』の方になあああああああ!!!》
いつの間にそんなアカウントを作ったの――? 友くんの興奮は止まらない。
《俺が代表して読み上げるぜえええええ! リーダーだからなあああああ! どれどれ……『助けてください――』ん? ありがとうってことか?》
そんなわけないじゃないか。
「友くん、書いてるのはそれだけ? 他にもあるならとりあえず全部聞かせて」
《わかったぜ――》
その後、友くんが読んでくれた長いメッセージの要約はこうだ。
朔太郎さんは数か月前から、ある創作者コミュニティサイトの勧誘を、しつこく受けているという。
その名も『ペトリコール』。雨の降り始めの匂いの事だという。洒落た名前で、いかにも創作者グループが好みそうだ。少なくとも『エンプティシスト』よりは。
ペトリコールは半年前にミステリー作家の『江戸川 江東』が主催者となって立ち上がったという。わたしもミステリーは読む。刑事ものの本格推理よりは、やはりホラー要素を取り入れた作品がお気に入りだ。江戸川先生は初めて執筆した作品がミステリー大賞を受賞して華々しくデビュー。その後は『東京二十三区シリーズ 都市伝説殺人事件』を年二回のペースで発刊している。因みにまだ江戸川区も江東区も舞台になっていない。ペンネームに使うくらいだから、シリーズのラストにとってあるのかもしれない。
そういえば、二十三区シリーズは一作目の『港区 虎ノ門:タイガー男』が四年前の秋に発売されてから、毎年、春と秋に新刊が出ていたはずだが、この春は発売の予告すらない。
やはり去年の『大田区 UFO伝説:管制塔からのSOS』が不評だったのが響いているのだろうか。わたしも読んだ。
――わたしは最高傑作だと思った。冒頭から付きまとう不穏な雰囲気と犯人が登場人物の誰であってもおかしくない終わり方。改めて、江戸川先生の尖った才能を感じた。わたしと世間の感覚がずれているのだろうか。
一度不人気な作品を世に出してしまったとはいえ、江戸川先生に誘われるなんて名誉だ。それを『助けてください』なんて言う作家がいるものだろうか? 『ペトリコール』は江戸川先生の未発表の作品公開をメインに、すでに活躍している作家同士のコラボ企画や、未来のプロ作家の発掘を主な活動としているという。
従来の投稿サイトと違うのは、誰でも会員登録して、投稿すれば即時掲載される、というわけではないことだ。
江戸川先生自ら、もしくは江戸川先生が声をかけた作家たちが『推す』作者でなければ掲載されない。
素人の作品をプロ作家や人気WEB作家が読むなんて、果たしてそんな時間があるのか? 少なくとも遅筆の自分には無理だ、朔太郎さんもそう言って断ろうとしたところ、江戸川先生から「決めかねているなら一度、ペトリコールのオンラインミーティングに出席してみるように促されたというのだ。
あまり熱心に誘われるので、『いや』とは言いにくくなり、一度だけ参加して、それでも無理なら入会を断ろうと思った朔太郎さんだったが、そのミーティングでトラウマになることを目撃することになる――。




