第8章「初めてのバズ」
アリアとの通話は、明日の19時。
その前に、リョウは決めていた。
「まず、実績を作る」
謝罪だけじゃ足りない。自分の価値を証明する。それから、対等に話す。
リョウはダンジョンリストを開いた。
「崩壊図書館」。ランクSS、最高難度。死亡率80パーセント。これまで完全攻略を達成したプレイヤーは、世界で3人しかいない。
リョウは配信タイトルを設定した。
「【決死】一人で行きます」
配信を開始する。待機視聴者が瞬く間に集まった。
5,000人、1万人、1万5,000人。
コメント欄が騒然とする。
「崩壊図書館!?」
「無謀すぎる」
「やめとけって」
「死ぬぞ」
リョウは画面に向かって言った。
「やらなきゃいけないんです。今日、絶対に」
声に力を込める。
ダンジョンに入る。
内部は巨大な図書館だった。天井まで届く本棚。床には古びた本が散乱している。空気が重い。
リョウは奥へ進んだ。雑魚敵を【デバッグ】で処理しながら、最深部を目指す。
最深部の扉の前。リョウの体力は半分を切っていた。回復アイテムも残り少ない。
扉を開く。
広大な空間。中央に、巨大な影。
ボス「データイーター」。
全長10メートルを超える、漆黒の人型。体の表面は無数のデジタルコードで覆われている。そして、全身がエラーコードまみれだった。
リョウは圧倒された。
視聴者数が跳ね上がる。2万人、3万人。
「ヤバすぎる」
「逃げろ!」
「これ勝てないだろ」
ボスが動く。巨大な腕が振り下ろされる。リョウは横に跳んで回避した。床が砕ける。
反撃する余裕はない。回避に徹する。
でも、このままでは埒が明かない。
リョウは【デバッグ】を最大出力で展開した。
視界が、エラーコードで埋め尽くされる。
一つずつ、読み解く。
「#ERR_ATTACK_PATTERN_LOOP」
攻撃パターンのループエラー。リョウは修正を実行した。
ボスの動きが変わる。攻撃が単調になった。パターンが読みやすくなる。
次。
「#ERR_DEFENSE_INFINITY」
防御力無限化のエラー。これが、ボスが倒せない理由だ。
リョウは修正する。
ボスの体表から、黒いオーラが消えた。ダメージが通るようになる。
そして、最後のエラーコード。
「#CRITICAL_SELF_DESTRUCT」
リョウは息を呑んだ。
「これ……自爆プログラム?」
システムに組み込まれた、緊急用の自壊機能。おそらく、バグ対策のために実装されたもの。
リョウは修正UIを開いた。
自爆プログラムを有効化する。
実行。
ボスの体が発光した。内部から崩壊が始まる。
「エラー……システム……崩壊……」
ボスの声が響く。
そのまま、巨体が崩れ落ちた。無数の光の粒子になって、消えていく。
視聴者が騒然とする。
「え?」
「何が起きた?」
「勝った?」
クリアのファンファーレが鳴り響いた。
リョウも信じられない顔で立ち尽くす。
「やった……の?」
ドロップアイテムの表示。
「真理の杖」伝説級武器。
攻略時間が表示される。
22分35秒。
最速記録は8時間15分。リョウは、それを大幅に更新していた。
視聴者数が爆発的に増え始めた。
1万、5万、10万、20万。
サーバー負荷の警告が画面に表示される。
SNSを確認すると、トレンドが変わっていた。
世界トレンド1位「#デバッグの奇跡」
コメント欄が、祝福と驚愕で埋まる。
「天才」
「攻略組全員泣いてる」
「新時代」
「これが本物か」
スーパーチャットの通知が連打される。1万円、5万円、10万円。
画面の端に表示される総額が、みるみる増えていく。
50万円、100万円、150万円、200万円。
リョウは放心状態だった。
「嘘……でしょ」
配信を終了した後も、通知は鳴り止まなかった。
メディアからの取材依頼。企業からのスポンサー打診。他の配信者からのコラボ申請。
リョウは全てを後回しにした。
銀行で通帳記帳をする。
残高、2,487,000円。
SNSのフォロワー数、50万人。
「デバッガー」という言葉が、トレンドワード化していた。
でも、リョウは浮かれなかった。
アパートに戻り、時計を確認する。
18時45分。
「もうすぐだ」
これも全部、アリアに見せるため。自分が、ただの無能じゃないって。対等に話せる存在だって証明するため。
リョウはパソコンの前に座った。
18時58分。
通知音。
アリアからのダイレクトメッセージ。
「準備できました」
リョウは深呼吸した。
通話リクエストが届く。
画面に表示される、接続ボタン。
リョウは震える手で、それをクリックした。




