第7章「拒絶の理由」
翌朝。リョウはアリアのSNSアカウントを確認した。
新しい投稿があった。
「体調不良で、しばらく配信を休止します。心配かけてごめんなさい」
投稿から3時間。コメントは既に5,000件を超えていた。
「大丈夫?」
「無理しないでね」
「待ってるよ」
「早く元気になって」
リョウは画面を見つめた。罪悪感が胸を締め付ける。
「俺のせいだ」
声が震える。
アリアの配信アーカイブを開いた。過去の動画。彼女の笑顔。優しい声。
その笑顔が、今は切なかった。
リョウは自分の配信も手につかなかった。
夜、いつもの時間に配信を始める。視聴者は2万人まで増えていた。
でもリョウの声には覇気がない。
「えっと、今日は……」
言葉が続かない。
コメント欄。
「どうした?」
「元気ないね」
「大丈夫?」
リョウは適当に返答した。ダンジョン攻略も、いつもより雑だった。
配信を終了する。視聴者からは心配の声。でも、リョウは何も言えなかった。
部屋で一人、リョウは反省していた。
「何で言っちゃったんだ」
エラーコードが見える。それを伝えて、何になった。
「AIだろうが人間だろうが、関係ないのに」
彼女は彼女だ。それだけでいいはずだった。
リョウはスマホを握りしめた。
アリアのファンコミュニティを覗いた。彼女の視聴者たちが集まる掲示板。
「アリアちゃん心配」
「早く元気になってほしい」
「彼女の配信が生きがいなんです。毎日楽しみにしてました」
「声聞けないの寂しい」
リョウは画面をスクロールした。
彼女がどれだけ多くの人に愛されているか。その影響力。
「俺が……壊したかもしれない」
大切なものを。
リョウは立ち上がった。
謝罪のメッセージを何度も書いては消した。どんな言葉も、軽く感じた。
翌日の夜。リョウは緊急配信を開始した。
タイトルは「大切な話があります」。
視聴者が集まる。1万人、2万人、3万人。
リョウは画面に向かって頭を下げた。
「みんな、聞いてください」
声が震える。
「俺……誰かを傷つけました」
視聴者がざわつく。
「エラーコードが見えるからって、それを指摘していいわけじゃなかった。システムのバグも、人の心も、修正すればいいってもんじゃない」
リョウの目から涙が零れた。
「アリアさん、もし見てたら……ごめんなさい」
コメント欄が静まり返る。
数秒の沈黙。
そして、温かい言葉が流れ始めた。
「謝れるの偉い」
「応援してる」
「人間だもの、間違える」
「次頑張ろう」
リョウは涙を拭った。
「ありがとう……みんな」
配信を終了する。
画面を閉じた瞬間、通知音。
ダイレクトメッセージ。
差出人、アリア。
リョウの手が震えた。
メッセージを開く。
「話、聞かせてください」
たった一行。
リョウは何度も読み返した。
返信を打つ。
「本当に……?」
送信。
3秒後、返信。
「明後日、19時。ボイスチャットで」
リョウは画面を見つめた。
明後日。まだ時間がある。
「はい」
返信を送る。
それだけのやり取り。でも、リョウの胸は高鳴っていた。
その夜、リョウは眠れなかった。
明後日、何を話せばいい。どう謝ればいい。
ベッドの上で何度も寝返りを打った。
でも、謝罪だけでは足りない。
リョウは天井を見つめながら、決意した。
「まず、実績を作る」
自分の価値を証明してから、対等に話す。
それが、今の自分にできることだった。




