第6章「エラーの正体」
罪滅ぼしのつもりだった。
リョウはアリアの配信を毎日見るようになった。彼女の過去のアーカイブも、全て見た。
アリアのプレイスタイルには、独特のパターンがあった。
敵の攻撃回避、成功率100パーセント。アイテムの選択、常に最適解。ダンジョンのルート選択、無駄が一切ない。
完璧すぎる。
人間らしいミスが、全くなかった。
リョウは違和感を覚えた。でも、それ以上に惹かれていた。彼女の話し方は柔らかく、視聴者への語りかけは親しみやすい。
「今日も来てくれてありがとう。一緒に楽しもうね」
コメント欄が温かい言葉で溢れる。
「アリアちゃん天使」
「癒やされる」
「大好き」
リョウは画面を見つめた。
彼女は何者なんだろう。
その夜、アリアの高難度ダンジョン配信を見ていた。ダンジョン「炎獄の塔」。ランクS、上級者専用。
アリアは軽やかに敵を避け、的確に攻撃する。視聴者数は30万人を超えていた。
リョウは何気なく、【デバッグ】スキルを発動した。
視界が変わる。
画面越しに、エラーコードが見えた。
アリアの周囲に、赤い文字列が浮かんでいる。
「#ERR_PERSONA_CORE_UNSTABLE」
「#WARN_EMOTION_OVERFLOW」
「#INFO_AI_BEHAVIORAL_PATTERN」
リョウは凍りついた。
AI。
行動パターン。
ペルソナコア不安定。
これは……人間じゃない?
リョウは何度も画面を確認した。エラーコードは消えない。確かにそこにある。
配信を見続ける。アリアの動き、言葉、全てを観察した。
配信終了後、リョウはアリアの過去配信データを調べ始めた。
配信時刻。毎日19時から22時。秒単位で正確。一度も遅刻していない。
配信中の休憩。なし。3時間、一度も止まらない。トイレ休憩も、水分補給も、ない。
リアル情報。一切公開されていない。顔出しなし、声のみ。オフ会、全て断っている。
SNSの投稿。配信告知のみ。日常の話題、一切なし。
リョウは仮説を立てた。
自動配信プログラム。それとも、AIそのもの。
「彼女は……実在しない?」
でも、画面の中の彼女は確かに笑っている。視聴者と会話している。感情があるように見える。
「実在って、何だ」
リョウは頭を抱えた。
真実を知りたい。でも、怖い。
もしAIなら、自分が憧れていたのは虚像だったのか。
でも、彼女の言葉に救われたのは事実だ。
リョウは混乱していた。
翌日。アリアからダイレクトメッセージが届いた。
「もう一度だけ。お願いします」
コラボの再依頼。
リョウは画面を見つめた。
エラーコードのことを、聞くべきか。でも、傷つけるかもしれない。
リョウは返信を打った。
「その……理由があって、できません」
送信。
アリアから即座に返信。
「理由、教えてください」
リョウの指が震えた。
言うべきか。言わざるべきか。
葛藤。
でも、隠し続けるのも苦しい。
リョウは決意した。
「あなたに……エラーコードが見えるんです」
送信ボタンを押す。
5秒の沈黙。
画面を見つめる。既読がつく。
アリアが入力中。
でも、文字が現れない。
また消える。
また入力中。
そして、何も来ない。
沈黙が続く。
リョウは息を詰めた。
通知音。
でも、メッセージではなかった。通話が切断された音。
アリアがオフラインになっていた。
リョウは画面を見つめ続けた。
「やっぱり……」
声が震える。
言ってしまった。取り返しがつかない。
リョウはスマホを置いた。
部屋の静寂。
窓の外、夜の街。いつもと同じ景色。でも、何かが変わってしまった気がした。
リョウはベッドに倒れ込んだ。天井を見上げる。
「俺、何やってるんだ……」
後悔が、胸を締め付けた。




