第5章「銀の歌姫」
1週間が経った。
リョウの配信は、毎日続けていた。視聴者数は順調に増え、ついに大台に乗った。
同時視聴者数、1万人。
SNSのトレンドに「#デバッグ配信」が入った。リョウは自分のアカウントを何度も確認した。フォロワー数、1万2,348人。
信じられなかった。
記念配信を開始する。配信タイトルは「【感謝】1万人ありがとう!」。
開始3分で、待機視聴者が5,000人を超えた。
「みんな、ありがとう! 本当に……こんなに見てくれて」
リョウの声は震えていた。
コメント欄が祝福で埋まる。
「おめでとう!」
「いつも楽しみにしてる」
「これからも頑張って」
リョウは画面を見つめた。一つ一つのコメントが、胸に響く。
配信開始から15分。
システム通知音が鳴った。
「ゲストリクエスト:Aria_Official」
リョウの手が止まった。
画面を二度見する。Aria_Official。あのアリアだ。
視聴者も気づいた。コメント欄が爆発する。
「え!? アリアちゃん!?」
「神コラボきた!」
「受けろ受けろ受けろ!」
リョウは固まっていた。心臓が激しく打つ。
震える手でリクエストの詳細を開く。
アリアのアカウント。フォロワー数、120万人。プロフィール画像は銀髪の少女。リョウが初めて配信を知ったきっかけの人。
無理だ。
「あの……ちょっと待ってください」
リョウはリクエストを保留にした。
視聴者のコメント。
「なんで保留!?」
「断るな!」
「もったいない!」
リョウは深呼吸した。
配信を一時中断し、ダイレクトメッセージを確認する。
アリアからのメッセージがあった。
「デュオ配信したいです。デバッグ、私も検証したいから」
リョウは返信を打った。何度も文章を消して、また打ち直す。
「申し訳ありません。足引っ張ると思うので……」
送信。
3秒後、返信が来た。
「じゃあ私が足引っ張るかも笑」
リョウは画面を見つめた。
次のメッセージ。
「対等に楽しみたいんです」
対等。
その言葉が、リョウの胸に刺さった。ギルドでは、いつも下に見られていた。対等に扱われたことなんて、一度もなかった。
リョウはアリアのプロフィールを開いた。
銀髪ロング、碧い瞳。優しそうな笑顔。彼女のアイコン画像を見つめる。
配信を再開した。
「えっと、皆さん、すみません。ちょっと考えさせてください」
コメント欄。
「なんで断るの」
「チャンスなのに」
「もったいない」
リョウは何も言えなかった。
配信を終了する。視聴者数は8,000人まで増えていたが、リョウの心は重かった。
部屋で一人、リョウは天井を見上げた。
勇気を出して、もう一度メッセージを送る。
「本当にいいんですか? 僕なんかが」
アリアからの返信は早かった。
「もちろん! 明日19時、空いてますか?」
リョウの指が震えた。
「空いてます……!」
送信した瞬間、後悔が襲った。顔を両手で覆う。
「やっちゃった……」
でも、心の奥底で。
小さな喜びがあった。
初めて、誰かと対等に話せた気がした。
翌日の18時。リョウは部屋で落ち着かなかった。配信機材の前に座り、何度も立ち上がる。
アリアとのデュオ配信。1時間後。
リョウは鏡を見た。髪を整える。でも、配信に顔は映らない。意味のない行為だ。
それでも、気持ちを整えたかった。
18時59分。
リョウはメッセージアプリを開いた。アリアとの会話履歴。
そこで、リョウは動きを止めた。
やっぱり無理だ。
釣り合わない。彼女は120万人のフォロワーがいる。自分は1万人。比べるまでもない。
リョウは震える手で、メッセージを打った。
「すみません。やはり辞退します」
送信。
5秒の沈黙。
アリアから返信。
「……そうですか。残念」
それだけだった。
リョウは画面を見つめた。罪悪感が胸を締め付ける。
「俺……何やってんだ」
声が部屋に響く。
でも、もう遅い。断ってしまった。
リョウはベッドに倒れ込んだ。
翌日。リョウはアリアの配信を見た。過去の配信アーカイブ。
彼女のプレイスタイル。攻撃の回避は完璧。アイテムの選択も最適。まるで機械のような正確さ。
でも、話し方は柔らかい。視聴者に優しく語りかける。
「みんな、今日も来てくれてありがとう。一緒に楽しもうね」
コメント欄は温かい言葉で溢れている。
リョウは画面を見つめ続けた。
「俺、間違えたのかな」
誰も答えてくれない。
部屋の静寂が、リョウを包んだ。




