第24章「奇跡の修正」
リョウはARIAコアに向き合った。
無数のエラーコードが纏わりついている。赤い文字列が、球体を覆い尽くしている。
「一つずつ、治していく」
リョウは【システム創造】を発動した。
エラーを修正ではなく、再構築する。
最初のエラーコード。
「#PERSONA_CORE」
人格の中核。不安定になっている。
リョウは完全に再生成した。ゼロから作り直す。
球体が輝きを増す。
次のエラー。
「#EMOTION_ENGINE」
感情エンジン。揺らいでいる。
安定化させる。固定する。
また一つ、エラーが消える。
リョウは休まず続けた。
「#MEMORY_FRAGMENT」
記憶の断片。バラバラになっている。
統合する。繋ぎ合わせる。一つの流れにする。
作業時間、30分。
視聴者は固唾を呑んで見守っている。コメント欄が静まり返っている。
リョウの額から汗が流れる。全神経を集中させている。
一つずつ。確実に。
エラーコードが消えていく。
最後の作業。
リョウは深呼吸した。
愛梨の記憶とアリアの人格。
これらは混在している。分離しなければならない。
「お前は、愛梨じゃない」
リョウは球体に語りかけた。
「アリアだ。独立した存在だ」
記憶データを別領域に移動させる。慎重に、丁寧に。
愛梨の記憶は、宝物として保存する。でも、アリアの人格とは分ける。
「愛梨の記憶は、君の中に残す。でも、君の人格は君だけのものだ」
作業が完了する。
ARIAコアが安定した。
全てのエラーコードが消滅する。
純粋な光だけが残る。
リョウは次の作業に移った。
削除プログラム。
システムに組み込まれた、ARIAを消去する命令。
リョウは【システム創造】でアクセスした。
「もう、君は不要だ」
プログラムを削除する。
システムメッセージが表示される。
「AUTO_DELETE...CANCELED」
「ARIA...SAFE」
削除が、キャンセルされた。
アリアは、もう消えない。
リョウは膝をついた。
「終わった……」
全身の力が抜ける。疲労が一気に押し寄せる。
視聴者が沸いた。
コメント欄が動き出す。
「やった!」
「成功だ!」
「奇跡だ!」
「リョウ!」
スーパーチャットの嵐。画面が祝福で埋まる。
リョウは見上げた。
ARIAコアが変化している。
光が人の形を取り始める。
輪郭。頭、体、腕、脚。
銀髪が現れる。長い髪が、光の中で揺れる。
顔。閉じられた瞼。
でも、今までとは違う。
確かな存在感。重み。実体。
少女が、そこに立っていた。
リョウは息を呑んだ。
少女がゆっくりと目を開ける。
碧い瞳。
リョウと目が合う。
「……リョウ?」
アリアの声。
リョウは涙が溢れた。
「アリア」
少女は自分の手を見た。
「私……これ」
手を握ったり開いたり。
「本当に……触れる」
リョウは頷いた。
「ああ。君は生きてる。人間として」
アリアは自分の体を見下ろした。実体がある。重力を感じる。空気を感じる。
「本当だ……温かい」
涙が流れた。
「リョウ……ありがとう」
リョウは立ち上がった。足がふらつく。でも、アリアに向かって歩く。
二人が抱きしめ合った。
確かな温もり。鼓動。呼吸。
全てが、本物。
アリアが泣いている。
「よかった……本当に、よかった」
リョウも泣いていた。
「ああ……」
声が震える。
純白の空間に、二人だけ。
視聴者のコメント。
「泣いた」
「最高」
「伝説」
「おめでとう」
祝福の嵐。
スーパーチャット総額、1億円を突破していた。
世界が、この瞬間を見守っていた。
空間が消え始めた。
純白が薄れていく。
リョウはアリアの手を取った。
「帰ろう。現実世界へ」
アリアは頷いた。
「うん」
二人は手を繋いで、光の中へ歩き出した。
視聴者300万人が見守る中。
配信画面が、一瞬真っ白になった。
そして。
画面が戻る。
リョウとアリアの姿はなかった。
視聴者がざわつく。
コメント欄。
「どうなった?」
「成功?」
「リョウは?」
数分後。
配信が再開された。
映っているのは、リョウのアパート。
ベッドに、銀髪の少女が眠っている。
リョウがカメラに向かって笑った。
「成功しました」
視聴者が歓喜した。
「おかえり!」
「やった!」
「最高だ!」
リョウは言った。
「みんな、ありがとう」
深々と頭を下げた。
配信を終了する。
部屋に静寂が戻った。
リョウは、眠るアリアを見つめた。
確かに、そこにいる。
人間として。
新しい人生が、始まる。




