第11章「価値の証明」
ダンジョン「永劫の牢獄」の内部は、異常だった。
空間が歪んでいる。床と天井の境界が曖昧で、重力の方向が定まらない。リョウは壁を蹴って前に進んだ。
配信を続けている。視聴者は既に20万人を超えていた。
「行きます」
リョウは画面に向かって言った。
ダンジョンの奥へ進むにつれ、異常さは増していく。
【デバッグ】を発動した。
視界が、赤い文字列で埋め尽くされた。
エラーコードの密度が異常だ。画面一面、警告文字。こんなに多くのエラーは見たことがない。
「これは……ヤバい」
リョウは思わず呟いた。
コメント欄。
「無理じゃね」
「逃げろって」
「死ぬぞ」
でも、リョウは進んだ。
【デバッグ】を最大出力で展開する。
一つずつ、エラーコードを読み解く。修正を実行していく。
「#ERR_GRAVITY_INVERSE」
重力反転のエラー。修正すると、足元に重力が戻った。正常に立てるようになる。
「#ERR_SPACE_COLLAPSE」
空間崩壊のエラー。修正すると、歪んでいた空間が安定した。
「#ERR_TRAP_INFINITE」
無限トラップ発生のエラー。これが、フロンティアギルドを壊滅させた原因だ。
リョウは修正を実行する。
空間に散らばっていたトラップが、次々と消えていく。床の穴、天井の刃、壁の槍。全て無効化された。
30分間、リョウは修正を続けた。
50箇所のエラーコードを処理する。
視聴者が騒然とする。
「神業」
「早すぎる」
「これが本物か」
リョウはステータス画面を確認した。
エラーコード接触回数:100/100
達成した。
システム通知が表示される。
【スキル進化:デバッグLv.MAX】
【新機能解放:システム介入】
全身に力が漲る感覚。視界がさらに鮮明になった。エラーコードだけでなく、システム全体の構造が見える。
「これ……!」
リョウは驚愕した。
新しい力。システムそのものに干渉できる。修正だけじゃない。創造も、削除も、全てが可能になる。
最深部に到達した。
瓦礫の中に、人影。
リョウは駆け寄った。
桐谷と、他のメンバー2名。全員、倒れている。重傷だった。
「生きてるか!」
リョウは桐谷の肩を揺すった。
桐谷がゆっくりと目を開ける。意識が朦朧としている。
「リョウ……来てくれた」
声が掠れている。
リョウは回復アイテムを取り出した。ポーションを桐谷の口に含ませる。
他の2名にも、同じように回復処置を施した。
数分後。3人とも意識を取り戻した。まだ立てないが、命に別状はない。
リョウは【デバッグ】で周囲の安全を確認し、安全地帯を確保した。
「脱出するぞ」
桐谷を支えて立ち上がらせる。他のメンバーも、互いに支え合って立った。
脱出路を進む。リョウが先導し、エラーコードを修正しながら安全なルートを作っていく。
途中、休憩を挟んだ。
桐谷が口を開いた。
「すまなかった」
リョウは何も言わなかった。
「お前を追放したこと……後悔してる」
桐谷の声が震えている。
「高峰も、最期に言ってた。リョウがいれば、って」
リョウは目を閉じた。
「もういい」
静かに言う。
「過去は変えられない」
桐谷が泣いている。
「本当に……ありがとう」
リョウは背を向けた。
「礼はいらない」
でも、声が震えていた。
配信のコメント欄が、大盛り上がりしている。
「これが本物のヒーロー」
「恨みを超えて助けるとか」
「デバッガー最高」
「泣いた」
スーパーチャットの通知が連打される。
1万円、5万円、10万円、50万円。
10分で、総額500万円を突破した。
「みんな……ありがとう」
リョウは画面に向かって頭を下げた。
桐谷も、配信を見ていた。リョウのスマホ画面を覗き込んで、コメント欄を見る。
「これが……お前の居場所」
桐谷が呟く。
リョウは頷いた。
「そう。俺の選んだ道」
脱出に成功した。
ダンジョンの外。夜の街。救急車が既に到着していた。
桐谷たち3名を救急隊員に引き渡す。ストレッチャーに乗せられ、救急車へ運ばれていく。
桐谷が手を上げた。
「また……な」
リョウも手を上げて応えた。
救急車が去る。
リョウは一人、夜空を見上げた。
星が綺麗だった。
「アリア、待たせたな」
スマホを確認する。
アリアからのダイレクトメッセージが届いていた。
「おかえり」
たった4文字。でも、温かい。
リョウは笑った。
配信を終了し、家路についた。




