第10章「元ギルドの破滅」
翌日の夕方。リョウは配信の準備をしていた。
今夜はアリアとのデュオ配信。機材のチェックをする。マイクの音量、カメラの角度。全て確認した。
スマホに緊急ニュースの通知が入った。
リョウは何気なく画面を開いた。
そして、凍りついた。
「速報:大手ギルド『フロンティア』、ダンジョン攻略中に壊滅」
記事を開く。
ダンジョン「永劫の牢獄」。ランクSSS、前人未到の最深部。フロンティアギルドの精鋭8名が挑戦し、罠が発動。
死者5名。高峰ギルドマスター、含まれる。
重傷者3名。生死の境をさまよっている。
原因は未知のシステムバグ。無限に発生し続けるトラップ。空間崩壊。
添付されている動画を再生する。
崩れ落ちる空間。叫び声。そして、途切れる映像。
リョウは拳を握りしめた。
「ざまあみろ」
口に出して、すぐに後悔する。
「でも……死ぬほどじゃ」
高峰の顔が浮かぶ。冷酷で、容赦ない男だった。でも、死んでほしかったわけじゃない。
配信用のモニターを見る。コメント欄が既に騒いでいた。視聴者たちがニュースに反応している。
「フロンティア壊滅」
「因果応報だな」
「リョウ追放したギルドじゃん」
リョウは複雑な感情に襲われた。
「俺がいれば、防げたかも」
デバッグで、バグを修正できた。トラップを無効化できた。
でも。
「いや、追放したのは向こうだ」
自分を責める必要はない。
葛藤の渦。怒りと悲しみと、そして罪悪感。
着信音。
画面に表示される名前。桐谷。
3ヶ月ぶりの連絡だった。
リョウは通話ボタンを押した。
「……リョウ」
桐谷の声。疲弊しきっている。
リョウは冷たく言った。
「今さら?」
「助けて」
桐谷の声が震える。
「生き残りが3名、瀕死状態なんだ。ダンジョンから出られない。バグが消えない」
リョウは黙っていた。
「お前のデバッグが必要なんだ。頼む」
「俺を追放したくせに」
リョウの声に棘がある。
「わかってる。でも……このままじゃ、みんな死ぬ」
桐谷が泣いている。
「頼む……死んでしまう」
リョウは通話を保留にした。
アリアにダイレクトメッセージを送る。
「元ギルドから助けを求められた。どうすればいい」
3秒で返信が来た。
「助けてあげれば?」
リョウは打ち返す。
「でも、君との配信の時間が」
アリアの返信。
「命がかかってるなら優先して。リョウは優しい人だもん」
リョウは迷った。
「俺……優しくなんかない」
「じゃあ、かっこいい人」
画面越しに、アリアの笑顔が見える気がした。
リョウは苦笑した。
「……わかった」
桐谷との通話を再開する。
「行く」
桐谷が息を呑む音。
「本当か!?」
「でも、君たちのためじゃない」
リョウははっきりと言った。
「人として、やるべきことをやるだけだ」
「……ありがとう」
桐谷の声が震えている。
通話を切る。
リョウは配信タイトルを変更した。
「【生放送】元ギルド救援、行きます」
SNSに投稿する。
瞬く間に反応が集まった。
「なんで助けるの」
「優しすぎる」
「偉いけど複雑」
「リョウらしい」
賛否両論。でも、リョウは決めた。
配信を開始する。
「助けるのは、人としての義務です」
画面に向かって宣言する。
「恨みは別。命は別」
視聴者の反応は二分した。でも、リョウは気にしなかった。
装備を確認する。回復アイテム、武器、防具。
全て揃った。
ダンジョンへ向かう準備を整える。
アリアからメッセージが届いた。
「頑張って。待ってるから」
リョウは返信する。
「すぐ戻る」
スキルステータスを確認した。
エラーコード接触回数:92/100
あと8回。もう少しで、【システム介入】が解放される。
「あと8回……」
ダンジョン「永劫の牢獄」の入口に到着した。
巨大な黒い門。不気味な雰囲気が漂っている。
リョウは深呼吸した。
「行くか」
門をくぐる。
配信は続けている。視聴者は既に20万人を超えていた。
リョウは、暗闇の中へ足を踏み入れた。




