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終わりの始まり(23)

 もう限界だと思った。だから、仕事の日以外も様々な理由をつけて外出した。でも、夕方のわんことの散歩は私の楽しみでもあるので、散歩には間に合うように帰宅した。車で公園まで行けることは、彼女の体力的にも楽なのだろう、機嫌が良い。それは良いことなのに、イライラマックスの私は、それすらもイライラの対象になった。(あなたがニコニコして仕事していられるのは、私の我慢があるからだよ!)と心の中で叫んでいた。

 この時期数週間前から、私はなぜか朝起きると瞼が腫れぼったい日が続いていた。ストレスなのか、毎日何かしらの夢を見ていて睡眠が浅いからかもしれない。ただ、今までもずっと使っている化粧品なのに、瞼がヒリヒリする日があって、単純にアレルギーかも?と思うし、本当のところ原因はよく分からない。とにかくなんでもかんでも、ストレスのせいだと思うようになっていた。だから、帰国の準備に没頭した。帰国の準備は明るい光。私の輝かしい未来なのだ!


 人は、考えないといけないことや没頭していることがあれば、嫌なことが忘れられる生き物だと思う。そして今の私はそれそのもの。今までヘルパーRの知らないところで、着々と準備してきた新居。まずは、家探しのサイトを見まくることから始めた。気になるところはメールで問い合わせたりもした。現住所が海外というのがダメだったのか、親身になってくれないところもあり、そういうところはこちらから願い下げだった。そんな中、私たちと同じ状況のご夫婦に家の仲介をしたことがある、任せてください!と言ってくれた信頼できそうな不動産会社があり、何件かまとめて内見の予約を取った。それが整うと、夫が出張〜と言って帰国し、一足先に日本で仕事をしている息子を伴って内見し、家の契約は息子に委任状を託して代理でやってもらったりして、数ヶ月かけて家を決めた。夫が定年退職するまでの数年間、主に私が住む家なのに、実際見てないのは不安でもあったけれど、そんなことは関係ない。夫と息子が見て、良い!と決めたのだから、良い家だろう。良い家にするさ!中古なのでリフォームが必要。その打ち合わせは私がリモートでやったり、メッセージでやりとりしたりしてヘルパーRの知らないところで私は結構忙しかった。ヘルパーRは日本語がさっぱりわからないので、そこは好都合だ。壁のクロスはどうしようか、どんなソファを買おうかなんて考えるだけでワクワクする。この生活から抜け出せるなら、どんなことでも苦痛じゃない。ヘルパーRにイライラしているはずが、なぜか笑顔で接することができる。私は身体の不調を、新居準備のワクワクでなんとか誤魔化していた。


 そんな日々を過ごしていた、ある日、

「Ma’am 、12月24日に健康診断があります。10時45分にアポイントがあるので行きます。」

「それって、何曜日だっけ?私の仕事の日じゃないよね?」

という会話から始まった。

「水曜日です。Ma'amの仕事の日ではありません。」

「ならいいけど。」

私が仕事で彼女も出かけるとなると、犬たちだけの留守番になる。ぴんく と むらさきは大丈夫だが、あお はなるべく人の目がある方がいいので、そのように聞いた。

その時は、我が家の仕事を数時間抜けて行くのに、『行ってもいいですか?』『行かせてもらいます』という言い方ではなく、当然の権利のように『行きます』という言い方をすることにまたイラっとする私。でも、10月にもこの国の義務だと言って、健康診断に行ったし予約票も持っているし、本当に行く義務あるのかな、と思っただけだった。そして、迎えた24日健康診断に出かけて行った。2時間程度で帰ってきた。

「Ma’am, ドクターから、検便の検査を受けるように指示がありました。それを29日に提出しなければなりません。29日に出かけます。提出だけなので、1時間もかからないで帰ってきます」

と言った。ちょっとバタバタしている時に言われたのであまり深く考えずに

「わかった。行っていいよ。でも、その日私いないからすぐに戻ってね」

と言い、

「どこか悪いんじゃないよね?」

と聞いた。

「いえいえ、私は健康です。でも、ヘルパーは3〜4ヶ月に1度、健康診断を受けるのが義務なのでー。」と言った。


 思えば、これは終わりの始まりだった。

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