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【完結】Fairy Cage ~妖精の住まうビオトーブ~  作者: 敷知遠江守


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第25話 California Dreamin'

※注意:一部少しリアルなトラウマ表現があります。

精神に病をお持ちの方は、この先をお読みにならずに申し訳ないのですがブラウザバックをお願いします。

 翌日、塩田の婆さんが栗をビニール袋一杯持ってやってきた。

既に茹でてあるからそのまま皮を剝けば食べられると塩田の婆さんは言うのだが、この量をいったい一人でどうしろというのだろう。


 大昔に僕が遊びに来た時に、祖母が近所の方から箱一杯のトウモロコシを貰った事があった。

何かの御礼だと相手の人は言っていた。

祖母はごちそうさまと言ってそれを全て受け取ったのだった。


 こんなにたくさん爺ちゃんと婆ちゃんで食べるのと僕はびっくりしてしまった。

すると祖母は笑いながら、近所におすそ分けするんだと言った。

こうして大量に物を貰った場合、付き返してしまうのだけは絶対に駄目なのだそうだ。

相手は物をあげるという行為は誰でも嬉しい事だと思い込んでいる。

さらに、これは田舎の悪い所でもあるのだが、量は多いにこしたことは無いと信じきっている。


 貰った物なのに誰かにあげちゃうの?と僕はさらに驚いた。

祖母は相手もそれを前提に置いていってるからと言って笑った。

元々相手だって、誰か欲しい人がいたらわけてくださいと考えて大量に置いていくのである。

物を貰えば、またその相手が何かをくれるかもしれない。

この辺りは『あげる』と『貰う』の無限ループなのだ。


 その時確か祖母は言っていた。

もし困ったらこう言いなさいと。


「どうもごちそうさまです。ですけど、こんな量、僕一人でどう食べたら良いか。良い保存の仕方ってあります?」


 塩田のばあさんは、ああすれば良い、こうすれば良いと散々色々な事をアドバイスした上で、食べきれなければ誰かにあげたら良いと言って笑い出した。

アドバイスにあった栗羊羹は純粋にかなり食べてみたい。

だが果たして自分に作れるのかどうか。


 お爺さんの具合が悪いと聞いたと言うと、婆さんは眉をひそめて頷いた。

どうやら心臓の具合が思わしくないのだそうだ。

二週に一度は病院に検査にいかないといけない。


 昔なら町医者がいたからそこで事足りたのに、今は面倒な事に二つ隣の町まで行かなければならなくなってしまった。

早速で悪いのだが明日じいさんの通院の日なので運転手を頼めないかとお願いされた。

一度病院に行けば半日は拘束してしまう事になる。

そのつもりで引き受けて欲しいという事であった。




 翌日、塩田の爺さんの軽自動車で爺さんと婆さんを乗せて二つ隣の町へと向かった。


 オートマチックの車なので、軽トラックに比べれば格段に運転はしやすい。

だが人を乗せるというのは非常に緊張する。

思わず急ブレーキを踏んでしまった時に、爺さんは心臓が悪いから安全運転で頼むと婆さんからチクリと苦情を言われてしまった。

確かに僕の急ブレーキが原因で昇天では、爺さんも無念すぎて成仏できないであろう。


 病院に到着すると、少し家電量販店に行ってくるので携帯電話に電話をくださいと塩田さんにはお願いした。

ところが塩田さんはどちらも携帯電話を持っていないのだそうだ。

仕方なく電話番号を書いた紙を渡し、ここに公衆電話から電話してくれれば診察が終わったと判断して戻りますと伝えた。



 家電量販店に行く目的は大きく二つ。

一つはインターネットを引いてもらう事。

もう一つは屋根の上のテレビのアンテナを撤去してもらう事。


 テレビのアンテナは完全に錆びきっており、このままではいつアンテナが倒れるかわかったものではない。

どうせテレビを見る事など無いであろうからいっその事撤去してもらう事にしたのだ。

今あるテレビの配線はどうするかとたずねられたが、それも処分していただく事にした。

さらに電話を引く気も無いのでそれも撤去してもらう事になった。



 工事の日付が決まったところで後ろからポンポンと肩を叩く人がいた。



”そこの席なんだけど、今度来る新人が使う事になったから、今日中にあっちの隅の席に席替えして”



 誰だろうと振り返ると、麦畑でお世話になった伊具(いぐ)さんであった。

電気屋に何しに来たの?から始まり、パン屋をやろうと思っているんだってという話になり、その時はうちの小麦を使いなよと言って笑い出した。

その後、どうやってここまで来たの?という話になり、塩田さんの送迎の話になった。


 塩田さんの話になると、伊具さんは急に笑みを消し嫌なら嫌とちゃんと断った方が良いと言い出した。


「あそこの婆さんはちと遠慮が無くてな。うんうんと要求を聞いているうちに自分が偉いと勘違いするようになるんだよ。もし図に乗って来たら俺でも普恩寺さんでも言いに来たら良いよ。それと無く言ってやるから」


 伊具さんはそう言うのだが、塩田さんの爺さんは心臓疾患がある。

もしそれで気後れして手遅れになったら、それはそれで問題だとも思っている。

そんな話をしていると、携帯電話に『公衆電話』から電話が入った。




 伊具さんの懸念はすぐに現実のものとなった。

爺さんの通院だけという話だったのが、なぜか婆さんの通院にも駆り出され、挙句の果てには久々に買い物に行きたいから連れて行けと言われてしまったのだった。


 その都度、嫌な顔もせず自分もちょうど買い物に行きたかったと運転手を引き受けていたのだが、どうもその事を普恩寺さんに知られたらしい。

ある時を境にぱたりと運転手の依頼が無くなった。


 普恩寺さんが家に来て話した話によると、どうやら塩田の婆さんは周囲に僕の事を頼めば運転してくれるからあなた達も遠慮なく頼んだらいいと言いふらしていたのだそうだ。

それが普恩寺さんの奥さんの耳に入った。

激怒した普恩寺さんの奥さんは、伊具さんの奥さんと塩田さんの家に行き若者をいびるのは止めろと言いに行ったのだそうだ。




 やはりというか、今度は塩田の婆さんは爺さんの通院の日にも僕に連絡をしなくなってしまったのだった。

このままでは塩田の爺さんに何かあった場合、僕の中で後悔が残ってしまう。

そこで思い切って塩田さんの家に行ってみる事にしたのだった。


 塩田さんの家は、塩田さんと同じようにかなり年老いた家であった。

壁の塗装は剥げ、雨樋が一部破損している。

加齢で体力が落ちそこまで手が回らないようで、庭も全く手入れが行き届いていない。


 玄関を開け、ごめんくださいと声をかけると、暫くして奥から塩田の婆さんが顔を出した。

その表情はどこか余所余所しいものであった。


 昨日爺さんの通院の日だったはずだが連絡が無いので心配して様子を見に来た。

そういう体で話を始めた。

すると塩田の婆さんは、実は昨日咳込んでから高熱を出して寝ていて通院どころでは無かったと、どこか申し訳ないという顔で言うのだった。

どうやら急に涼しくなってしまって風邪をひいて、こじらせてしまったようだと。


「じゃあ何で僕を呼ばなかったんですか! そういう時に病院に行って欲しいという話だったんじゃないんですか? 今からすぐに病院に行きましょう! すぐに出る用意してください!」


 塩田の婆さんは何かを言おうとしたようだが、さあ早くとせかして半ば強引に用意をさせた。

ゴホゴホと咳をしている塩田の爺さんを助手席に寝かせ毛布をかけ、塩田の婆さんには後部座席に乗ってもらった。


 カーラジオからは『カリフォルニア・ドリーミン』という曲が流れ来る。

ザ・ママス・アンド・ザ・パパスという人たちの曲だとラジオは言っている。


 道路の脇の木々は急速に葉を緑から茶や朱に色を変えている。

空は低く灰色。

もしかしたら、今晩あたり初雪になるかもしれない。


 窓ガラスが少し白く曇ってきたため、窓に暖房の暖気を当てた。

車内が少し暖かくなったのか、塩田の爺さんは少し穏やかな表情になった。



 何とか一般外来の受付に間に合い、塩田の爺さんは診療してもらえる事になった。

僕はその間待合の椅子に腰かけ携帯電話で栗羊羹の作り方を調べていた。


 暫くすると塩田の婆さんだけが戻って来た。

塩田の婆さんは僕の手を取ると涙ぐみ、何度も何度もありがとうと言って頭を下げた。


 塩田の爺さんは肺炎を患っており、緊急入院する事になったのだそうだ。

しかも医師からは明日だと手遅れになっていたかもしれなかったと言われたらしい。


 偶然なのだという事は十分わかっている。

だがどこか誇らしいという気持ちが心の隅で沸き上がるのを感じていた。

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