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ケース1 青年ニートは魔法少女になりたい

「はい、そうですか」

 彼は消え入るように俯いた。


 目の前のこの男。


 ぼさぼさの髪。

 生気を失った目。

 やせ細った体。

 首のあたりのひっかき傷。


 まさに人生に絶望しましたと言わんばかりであった。こんな彼に転生を勧めなければならなかった。本当に面倒である。


「あなたには二つ選択肢があります。一つ目は死の世界のそのまま行くこと。もう一つは別の世界で新たな人生を歩むこと。さあ、どうしますか?」


 私はこれもお決まりのセリフを口にした。もちろん、神としての威厳たっぷりに。


 そして待った。彼が転生という餌に食いつくのを。


 だが、


「いえ、結構です」


 彼はあっさりと断った。

 彼はニートなのに転生に心が躍らないらしい。


 これは非常に困った。暗黒『ディストピア』行きでなくともどこかに転生させなければ、私の勤務時間が伸びる。それだけは避けねば。


「そこまで素晴らしい人生だったのですか?もう、未練はないと」


 煽りたい気持ちを抑え、神のオーラ全開で彼の心変わりになりうるポイントを探る。重要なことは彼の口から話させることだ。


「......そんなわけないだろ」


「えっ、今なんと?」

 わざとらしく聞き返すふりをする。


「俺は誰にも愛されなかった。誰も俺の本当の姿を受け入れようとはしなかった。このまま転生しても同じなんだよ。もういいんだ。」


 彼は自分の心を吐き出した。


 後はそこを揺さぶるだけ。


「“女性”に転生できるとしても?」


 そうこれがキーワードだ。

 彼の体は男性だが女性の心を持っている。そんな彼を周りは拒絶したのだ。

 そのうち自分でも自分の心を受けれられなくなっていった。

 そして、最後には自らトラックに飛び込んだ。


「そんなこと......」


「私は神ですよ。それぐらいできます。今あなたは生まれ変われるチャンスが目の前にある。全てぶちまけても大丈夫ですよ」


 彼に光を与える。さあ、話してくれ。


「......じゃ、魔法少女になりたいです。できれば、“プリチア”のような感じの。普段は普通の女なんですが、愛と希望の力で人知れず悪と戦う感じで。あっ、もちろん仲間とかも欲しいです。後、-」


 彼がキラキラした目で語り出した。

 自分の設定なのか、そういうものが人間の間で流行っているのかわからないが、本当によく話す。


「まあまあ、そのぐらいにして。では、あなたに授けるチートと世界の候補をこちらでピックアップするので自分で選んでください」


 暴走気味の彼を静止させ、天使ちゃんに転生先のリストとチートカードを渡すように促す。

 あと一押しだ。


「俺がですか?」


「はい。もちろん。それと自分のことを“俺”と呼ばなくても大丈夫です」


 彼を肯定する。男性の自分が嫌なら、女性として彼を受け入れる。


「じゃあ、この“スイート・ムーン”でお願いします」


 しばらく考えてから、彼は一つの世界を選択した。

 そこは魔法という概念が存在する世界だった。殺伐とした世界ではないが、日常的に魔法で人間が死ぬ。


 科学という魅惑の果実を貪っていた彼に相応しいかと言えばそうではないが、まあ大丈夫だろう。


 “選択肢を与えたのは私だが、選んだのは彼なのだから”


「この世界でよろしいのですね。では、あなたに与えるチートを選んでください」


「それはこれで」


 決めていたのか、ノータイムで返答した。

 彼が選んだのは“愛と勇気を力に変える”というチートであった。


 癖が強そうだが、面白そうなチートだった。


「では、魔法陣の中央に立って下さい。あなたの来世に幸運があらんことを」


 これもお決まりのセリフと神っぽいポーズで彼を送り出す。


「ありがとうございました」


 そう言って笑った彼、いや彼女の瞳は希望に満ちていた。





プリチア

朝からやっている子供向けのアニメ


ケース1はもう一話あります。

次回に続きます。


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