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五神唄  作者: 成倉爻哀
第三章
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陰と陽が交わる時(4)

「そんなに悪いのか?」

足元に座っていた仁討が顔を歪めた。

「いや、そんな顔をされるほどじゃないよ」

「え?俺、どんな顔してる?」

仁討は自分の顔を手で弄りながら問い返す。

「今にも死にそうな顔」

李戒はそういいながら笑みを浮かべた。

仁討は口を尖らせて、眉を潜める。

「ちょっと、俺本気で心配してるんだぜ?」

「ごめんごめん。でも本当に大丈夫だよ。たまに痛みは走るけど、一時的なものだし。もう少し閑叉先生が様子を見たいというから。

どちらにしろ通常配置なら、早めに帰らなくちゃいけないしね」

集令が解散となった今、闘王が本国に居る理由は無い。

「そんな状態で一人で帰れんのかよ…」

「甘く見てもらっちゃ困るな、これでも僕は闘王の1人だよ、仁討」

確かに李戒の実力は認めている。

だが、李戒の弱い部分も人一倍わかっているつもりだ。

弱い部分を補う為に学んだ武術、今浮かべている笑顔が完全な作り物だという事も。

「わかった」

「え?」

「お前が帰れるまで、俺もここにいる」

「はっ!?」

突然の仁討の言葉に、李戒は思わず身を乗り出した。

瞬間、腹部に鈍い痛いが走り、布団をきつく握りめる。

「っ…」

「大丈夫かよ」

仁討は李戒の背中を軽く摩る。

「…大丈夫だ…それより、どういう事だよ」

「何が?」

「お前が本国にいてどうするんだ。東は今春宗様しかいないんだぞ」

「お前がさっき行ったとおりだろ。春宗様の実力あなどんな?自分の武器で洗濯棒かける人だぞ?」

仁討はにんまりと笑みを浮かべた。

「…確かに、俺達が居ない方が楽に敵と戦いそうだけどね」

「だろぉ~?」

静かな病室の中に、穏やかな笑い声が漏れた。

「李戒」

「ん?」

「李戒はなんでさ、闘王になろうって思ったわけ?」

「え?」

東は温暖の象徴だ。

だが、闘いを意識しない事はなかった。

その中で、女性という”ハンデ”を持ちながら、春宗は人一倍腕力を磨いてきた。

家族を守る為、そして国を守る為。

仁討も、たった一人の肉親である妹を守る為に腕を磨いていた。

他の国と違って、闘いを求められているわけではない。

だが、東は何かを守る為に必死になっている。

略同時に闘王になった仁討と春宗。

李戒が闘王になると決まった時には、遥かに大きなその象徴に見えた。

自分は、誰の為に闘王になると決めたのだろう。

「…そうだな…俺は、木櫟を守りたかったのかもしれない」

「木櫟?」

「ああ」

仁討は顔を歪めて、李戒を見る。

「どうして木櫟を守りたいって思うんだ?何か接点があるのか?

俺さ、今でも不思議なんだよなー。なんで風啼様は李戒を闘王に選んだんだろうって。別に悪い意味でじゃないんだぜ?

春宗様は国に使える仕事してたわけで、俺は本国の建物修繕とかで国に関わってたってのがあるから、解る気はするんだけど」

「ああ、お前は知らないのか。木櫟は、小さい頃から良く樹櫟(じゅいち)様に連れられて家の古書店に遊びに来てたんだよ」

「お前んとこに?」

「樹櫟様は古書がお好きでね。うちでしか見つからないような本も多かったから。

そうだな、私が木櫟と初めて会った三つの時で、その頃にはもう、木神になると決まっていたから、神になる為の事を教えてあげていたんだ。

その時、木櫟に言われたんだよ。”虎ノ国の闘王”は槞泗がなるんだよねって」

李戒は小さく笑みを漏らす。

「だってその頃お前いくつだ?確か樹櫟様が東方に顔を出してたのは木櫟が十歳位までだろ?」

「そう言われたのは木櫟が八歳の時だよ」

仁討は頭の中で年齢を計算している様だ。

木櫟と李戒の年齢の差は六歳。

木櫟が八歳という事は当時の李戒は十四。

智功の例を考えるとおかしな年齢ではないが、李戒にはいくら剣戯を学んでいるとはいえ、これといった目だった成績もなかった。

当時の木神と親しい古書店の息子であったとしても、李戒を闘王にする理由は何だったのだろう。

「って事は、木櫟が風啼様に推薦したのか?」

「木櫟がそういうとは思えないな。もし言ったとしても、樹櫟様の方だろう。

その頃の私は自分に自信がなかったし、闘王になる話が来るなんて思いもしなかったから」

「随分、元気そうだな」

ふいに後方から聞こえた声に、2人が顔を向ける。

そこに立っていたのは心枢だ。

「心枢。どうしたんだ?」

仁討が立ち上がって、心枢まで歩み寄る。

「閑叉先生から呼び出しを受けてね。聞いた感じじゃもっとへばってる感じかと思ったんだが」

「閑叉先生、どんな言い方をしたんですか…」

「まあ、あの人は大事にするからな。どれ、調子がいいのなら少し傷を見せてもらおう」

「はい」

「あ、俺、でてった方がいいか?」

そんな仁討の言葉に、李戒は少し間を置いて、首を横に振る。

「いいよ。これから先、一緒に戦う仲間だ」

「……」

仁討が口元を押さえて顔を伏せる。

「仁討?」

「…すっげー意外。李戒からそんな言葉聞くなんて」

「何だよ、それ…失礼な奴…」

口を尖らせる李戒に仁討は必死に頭を下げる。

「ごめんごめん。でもすげー嬉しかった」

「嬉しい?」

「俺達って”闘い”で繋がる事って少なかったからさ。結構そこの所が不安だったんだよね」

「皆、そんなものだよ」

「心枢?」

李戒の横に腰を下ろした心枢が小さく笑いを漏らす。

「私達は”実際”闘いを経験する機会は少ない。だから実際の所、結束に関してはどの国も不安だ。

全ての国が”仲良しこよし”ってわけじゃないからね。実際の場面と対面して、初めて見る顔もあるって事」

「そりゃそうだな」

手際よく李戒の上着を脱がせ、心枢は傷の具合を見る。

「…よく一瞬でここまで”完璧”に打ち込めたものだ」

「どういう事?」

仁討が脇から心枢の手元を覗きこむ。

昨日見たときよりは傷の色は薄くなっていて、顔をゆがめるほどではなった。

「嵐萄から術の一部を完全に継承されたとはいえ、まったくの素人が簡単に扱える程、この術は優しいモノでないんだよ。

この術は見たまま、この手の形が”臓”に直接機能する場所に打ち込まねばならない。例えば”心臓””肺””腎臓”の真上、或いは真正面に、打つ場所が少しでもずれれば術は殆ど機能しないしね。

こんな風に人間の下半身全てをカバーする様に打ち込む事なんて、素人が伝承されたのであれば生きているうちに習得する事はまずないだろう」

「ああ、でも、その辺は槞枅ならありえない事も無いんじゃねえの?」

仁討が李戒に目をやり首を軽く横にかしげた。

「そうだね。人体の事に関しては、智功に並ぶ知識があったと思う」

「智功と?」

「槞枅は3つん時から総合格闘技で優勝かっさらってるからなぁ。その辺のセンスにかんしちゃ天性的だと思うぜ」

仁討の言葉に、心枢は小さく頷く。

「なるほどね。李戒、ここ最近、内臓に関する疾患で医院にかかった事は?」

「ないよ」

「閑叉先生の術だけでは少し不十分だろう。少し痛みを麻痺させる様に針を打っておく。他の痛みにも鈍感になるから、怪我には注意する様にしてくれ」

「解った」

横になった李戒の体は、服を着ているより随分細い。

あまり大食というわけではないが、それなりに食べている姿は見た。

「ほっせぇなぁ、お前」

「確かに細いねぇ。良くこんな身体であれだけの技を出せるものだ」

「剣戯はそんなに力は使わないよ。剣の流れに沿って身体を動かせばいいだけの話だからさ」

剣戯はそもそも闘いの為のものではない。

剣を扱い、どれだけ美しくその動作を見せられるか。

美しくありながら、敵にダメージを与えられる。

それが李戒が身につけた”攻撃方法”だった。

「しかし、本国に来る時あれだけの本を持って来るんだから、相当なものだよ。

痛かったら言って」

「はい」

手元にあった小さな針の入った透明な容器を李戒の腹の上において、軽く容器の尻を指で叩く。

瞬間、心枢の口元が歪んだ。

「…っ!!」

”右目”に鈍い痛みが走った。

麻酔が切れたのだろうか。

移動する事を考えて少し多めに配合したはず。

麻酔がこんな所で切れるなんて事があるだろうか。

「心枢、どうした?」

心枢はふらついた体を正し、一呼吸置いてからゆっくり息を吸い込んだ。

「大丈夫だ。痛みはあるか?李戒」

「大丈夫です」

手際よく数本針を打ち込んで、軽く上着を戻す。

「これで大丈夫だろう。もうすぐ閑叉先生が戻るだろうから、抜針は頼んだと伝えておいてくれ。私は火遁のところに行くから」

「本当に心枢は火遁が好きだなー」

「私が好きだというより、火遁が私を好きなのだけどね」

「似たようなもんだと思うけど?」

仁討の言葉に心枢は小さく笑いを漏らす。

「否定は出来ないな」



□□□□



水龍邸は静かだ。

作戦班の解散が決まった為、土輝邸の作業が終わった智功は水龍邸で連絡事項をまとめていた。

「皮肉だなぁ」

「何だ、いきなり」

前触れもなく突然智功の口から漏れた言葉に、水杵が顔を歪める。

「陰国が繋がりを狙うのは火遁の事で大体解っていた事だけど、こうやって目の前にすると、結構”結束”に脆さが出るなぁって思ってな」

「…脆さ」

「南に関しちゃ、心枢の火遁への思い入れは承知のことだし、西は”幼馴染”の事もある。東は李戒が闘王に選ばれた理由からすれば想像はついた。だが、俺達はちょっと特殊だと思わねえか、水杵」

「…特殊?」

少し意地悪な質問の様にも思えた。

答えは水杵には痛いほど解る。

北以外の繋がりは”人間同士”の繋がりだ。

だが、北はそうじゃない。

「俺がこんなに目立ってなきゃ、北で狙われるのは俺じゃなかったかもしれねえしな。

もし、夜壬や黒斗が狙われたとしてたら水杵はどうしてた?」

「それを俺に言わせるのか、智功」

顔をゆがめたままの水杵に智功は笑いを漏らす。

「冗談だよ。どっちにしろ、”北”は強い奴が狙われた。もし俺が最強じゃなかったら、その時点で最強の人物になるだけだからな」

「聞きようによってはヤキモチにも聞こえるね、それって」

「土紬」

「どういうことですか、土紬様」

「他の国は”仲良し”なのに、北だけ仲良しじゃない。水杵はなんで俺と仲良しじゃないんだ?って感じ」

「はぁ!?」

水杵と智功が口をそろえた。

「かなり気持ち悪いぞ、智功!!」

「俺が言ったんじゃないでしょう!土紬様の例えで!!」

「まさか、お前…俺と手を繋いで歩きたいとか思ってるんじゃ…」

「だーかーらー!俺が言ったんじゃないって言ってるじゃねーか!

なんとか言ってくださいよ!土紬様!」

「…僕もそんな智功はやだな」

「土紬様!!」

「冗談だよ」

笑みを浮かべる土紬に、智功は悔しそうに唇を噛む。

「で、何か用があったんじゃないのか?土紬」

「そうそう。心枢が本国に来てるから、火遁にそのことを教えようかと思って。まだこっちで勉強してるんでしょ?」

「ああ、それなら心枢から便りが着たから、一目散に火鳳邸に帰ったぞ」

「…さすがだね」

土紬は横目で智功を見て、小さく笑いを漏らす。

「邪魔になるといけないから帰るね」

「ちょっ土紬様!!」

「大丈夫だよ、へんなことは考えてないから」

「考えてるでしょ!絶対考えてる!!」

「仲良しになれるといいね~」

土紬は笑いながら早足で部屋を出て行く。

残った居間の中には妙な空気が流れていた。

その空気に耐えられなかった智功が勢い良く頭をかく。

「…智功」

「なんですか?」

「手を繋ぐのはいやだが、仲良くはなりたいぞ、俺は」

「…俺も手を繋ぐのはいやです…でも」

「でも?」

「…人間的に貴方を守りたいと思えるようには…なりたい」

少しの間を挟んで、水杵が豪快に噴出した。

「似合わない…っ!!凄い似合わない!!」

「…貴方ねぇ…」

智功はがっくりと肩を落とした。

しかし、本当に思っていた。

国だけではなく、大事なものとして水杵を守りたいと思える様になりたいと。



□□□□



穏やかな風が流れている。

陽国という国が出来てから、ずっと長い間変わらないのはこの景色や風だけだ。

金樺は陽国が程よく見渡せる大きな木の枝に腰を下ろして穏やかに流れる景色に目を細めた。

「…あれ?」

ふいに目に入ったのは見覚えのある顔。

「心枢」

「…金樺様」

木から下りて、心枢の前に歩み寄る。

「どうした?火遁の所に行ったんじゃ?」

「少し休憩をと思いまして」

「…休憩?」

金樺は心枢の言葉に眉を潜める。

ここから閑叉の医療所まではそう遠くない。

本国についてからまっすぐに火凰邸に向かうというのなら話は別だが、閑叉のところで李戒の様子を見てきたのだから、歩き通しという事は無い。

「体調がよくないんじゃないのか?」

「…少し」

「なら無理をして本国に来なくても、2、3日間をとれば良かったじゃないか」

「国を出るときには、悪くはなかったんですけどね」

「…どういう事だ?」

金樺の手が頬に触れた瞬間、また痛みが走った。

「ッ!!」

足の力が抜ける。

ぐらりと視界が歪んで、床に手を突っ張るのが間に合わなかった。

肩から地面に叩きつけられる。

「心枢!?」

「すいません、少し眩暈が…」

「心枢…お前」

「…金樺様?」

金樺の表情に何か、嫌な予感がした。

「お前…目が…」

その言葉に、心枢は手元についた感触に気がついた。

倒れた弾みで、眼帯が外れた様だ。

「…気にしないで下さい。昔の古傷ですから。今は別に痛みなどはありません。

皆には内緒ですよ。余計な心配はさせたくないですから。あ、火遁は例外ですけどね」

「え?」

「火遁は知ってますから、この目の事」

心枢は小さく笑みを浮かべながら眼帯を付け直した。

「煙草かまいませんか?」

「え?」

「ちょっと麻酔が切れるのが早かったみたいで」

「…ああ、それでか。かまわないぞ」

金樺は、頭の中の情報をひとまとめに出来たのだろう。

元々、金樺は個々の過去を深く探るような事はしない。

心枢は手早く煙管を用意して、煙をゆっくりと吸い込んだ。

「見られたのが金樺様でよかった」

「ん?」

「水杵様に見られてたら、今日中には陽国に知れ渡りますからね」

「…ああ、確かに」

確かに、水杵に目の事が知れたら、大騒ぎだ。

その理由も事細かに聞かれる事になるだろう。

「それに、こんなに落ち着いてはいないでしょう」

「火遁は相当酷かったみたいだな?」

「ええ。お茶戻して気を失いました」

そんな様子を想像して、思わず笑いが毀れた。

「あいつらしいわ。多分、水杵も同じ反応だろうな」

「でしょうね」

「じゃあ、俺も一服するか」

心枢の横に腰を下ろして、金樺は懐から煙管を取り出す。

「そういえば、心枢とこうやって話をするのは初めてだな」

「そうですね。いつも、何かと水杵様が割って入りますからね」

心枢と金樺は”薬玉”においての取引で長い付き合いではあるが、薬玉を神である金樺が直接貰い受けに来る機会は少ない。

本国に来る時、いつも火遁の近くには水杵がいた。

息子を恋人に取られた母親みたいな態度で、水杵はいつも割ってはいる。

「こうしてみると、自方の国以外とは思った以上に接点が少ないもんだな」

「我々も個々の繋がりがなければ、態々他方の闘王や神に会いに行くという事はあまりありませんからね。

ですが、態々知らなくても構わない事の方が多いでしょう。そうでなくても五神は考える事が多いのですから」

「心枢はそれでいいのか?」

金樺の問いに、心枢は首をかしげる。

「と、いうと?」

「他の闘王とか、神とかと仲良くなりたいとか思わないのか?」

「仲良くなる事にこした事はありませんが、私の歳にもなると、仲良くっていうのはちょっと…」

「…そりゃそうか。俺も今、仲良しになろーとか言われてもなぁ」

「それでいいのだと思いますよ。いざとなれば我々は五神全てを守らねばなりませんが、自信の従神が滅亡すれば、全土の滅亡を意味しますから、意識は一緒です」

「そう考えると、闘王ってのは大変だな」

そんな金樺の言葉に、心枢は思わず噴出す。

「それを承知の上で、闘王の命を受けてるんですよ、我々は」

「そうだったな」

金樺も釣られて小さく笑いを漏らす。

「さて、そろそろ火凰邸に向かわないと、火遁が痺れを切らせてしまう」

「そうだな」

金樺は煙管の火を消し、先に立ち上がった心枢を追うように立ち上がる。

「なあ、心枢」

「はい?」

「俺達は…友になれると思うか?」

小さな言葉だった。

少し間を挟んで、心枢はにこりと笑みを浮かべた。

「なれると思いますよ。きっと”親友”には叶わないでしょうけど」

「…そうだな」



□□□□



「じゃあ、金樺にバレちゃったの?」

「まあ、金樺様なら簡単に口を割る事は無いから、心配する事はないと思うよ。

深い理由は聞かなかったしね」

火遁は不安の表情を浮かべていた。

確かに金樺は約束事は必ず守った。

だが、どこか不安と、寂しさがこみ上げる。

「火遁とだけの秘密だったのだがな…」

「え?」

「この目の事だ。私が心を許せる人だけに、教えておくつもりだった」

「…心枢」

火遁は弱く唇を噛んで心枢を見つめる。

「金樺には…心を許せる?」

「…どうだろうね。私はまだ彼の事は殆ど知らない。そして、彼も私を知らない。

この目の事も表面上しか知らない。いづれ、心を許せる日が来るかもしれない…けれど」

「?」

「この目の理由は、お前以外には話さないよ、火遁。お前以上の存在には誰もなれないのだから」

「…心枢」

嬉しさというのか、なんとも例えようの無い妙な感覚がこみ上げてくる。

気が付いた時には、勢い良く心枢の懐に飛び込んでいた。

「火遁、お前は私にとって、命と同じだ。他の誰にも代えられない」

全てを見透かされたような感じだった。

でも、それを怪訝とは思わなかった。

急に、目頭が熱くなって、涙がこぼれてきた。

「心枢からそう聞けて良かった」

「…火遁?」

「本当は不安だったんだ。俺に関わった事で、心枢が陰国に狙われた事が」

「馬鹿だな、そんな事を思うはずがないだろう。陰国があってもなくても、火遁は私にとって大事な存在だよ」

「ありがとう…」



□□□□



「今期は特殊の様に思えるな」

風啼の言葉に炎遁が顔をあげる。

「何が?」

「神と闘王の関係だよ。お前達の時は、こんなに闘王との関係は深くなかっただろう」

確かに、先代の五神の時代では、”親友”と呼べる人間がいたのは確かだが、こんなに闘王と親密な関係の者はいなかった。

「人間らしいといった方が正しいだろうな」

炎遁の言葉に、風啼は首を捻った。

「人間らしい?」

「私達の時代は、結束を確認しあうような出来事がなかった。だから、疎かにしたのかもしれない。コレが本来の神と闘王の関係なのだと思う」

「…そうかな?少なくとも、俺はお前と人間らしい付き合いをしているつもりだが?」

「本国に居るお前と比較しても仕方ないだろう。まあ、今は今という事だ」

「それでは俺は、お前の親友ではないのかな?色々な事を知っているが?」

「そっそういう事ではないだろう、風啼」

少し赤くなった炎遁の横顔に、風啼は笑いを漏らす。

「解っているよ、炎遁。俺達は、言葉にしなくても”解っていた”んだ。お互いが大事な存在という事をね。

今期の五神は不器用という事だ。本来は確認などしなくても分かり合えていたのだから」

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