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五神唄  作者: 成倉爻哀
第二章
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18/29

二つの国(5)

智功が巳ノ国を訪れてから1日。

心枢はずっと頭の中を整理していた。

とはいえ、考えなど殆ど纏まるはずもなかったのだが。

自分の寝室で根を閉じている智功は特別効く様に処方した安定剤のおかげで静かに目を閉じていた。

智功がこれほどまでに恐怖を感じ、我を忘れる程の男。

その男が敵中に入ったとすれば、自分達に勝ち目はあるだろうか。

ふと、窓を軽く叩くような音で顔を上げる。

「……」

窓枠にふわりと落ちたのは、風啼からの伝書だ。

心枢は窓を開け、伝書の封を切る。

中身を確認して、心枢は眉を潜めた。

横になっている智功の頬を軽く叩くと、智功はゆっくり瞼を開いた。

「…智功、風啼様…いや、天照大神から集令だ」

「…集令?」

状況が読み込めていないのだろう。

智功は目頭を指で押さえながら、まだ重い瞼を軽く擦った。

「夜壬が、あの事を話したそうだ」

「…夜壬がなんで」

今回の件を知っているのはおそらく、当時闘王だった人物、あるいは候補として確定した人物。

そして、本国の総神達。

もしかすると、閑叉の様に天照神殿の役員の中にも数人いるかもしれない。

どちらにせよ、陽国という国の人口に比べれば本の一握りに過ぎない。

それが幸いともいえる。

自分達だけでも処理できない問題は、陽国という国の殆どの人間は知らないのだから。

「夜壬が闘王になると決まった時期から考えれば、知っていてもおかしくは無い。

ましてや同じ方国の闘王の問題だからな」

「…つまり、燵紅の事は主軸陣にわかっちまったわけか」

「そうだな…。もう少し休んだら…」

心枢の声を遮るように裏口の戸を叩く音が聞こえた。

裏口から訪問する人物はそう多くない。

「はい」

心枢が戸を開けると、そこに立っていたのは礼薫だ。

心枢には多少予測できていたが。

「貴殿の所にも伝達が?」

「ああ。智功もいるだろう?迎えに来た。足よりは馬の方が速いかと思ってな」

通りから馬の鳴き声が聞こえた。

「…しかし、智功が少し」

「そうだろうと思ってな。馬車で来た」

そんな礼薫の言葉に心枢は少し間を置いてから小さく笑みを零した。

礼薫はなんでも闘王の事を知っているように思える。

職業柄という事もあるだろうが、この気遣いにおいての頭の回転は流石だ。

「すぐ用意しますので、中でお待ちを」

「ああ」


□□□□


夜壬を見送り、金虎邸の中、広間に置かれた椅子にもたれて、火遁は高い天井を見上げている。

「大丈夫か、火遁」

額を軽く叩く金樺に火遁は小さく頷いた。

「師匠の頭がぶっ飛んじゃったの解る気がする」

「だろうな。多分、俺も水杵の立場だったら、ぶっ飛んでたよ」

「なあ、金樺。北国ってのは、陽国の中で一番強いんだろ?」

「そうだな。スバ抜けてという程でもないが…確かに強い。十二国土闘王を”戦闘”でまとめるのは北だからな」

あまり闘王の戦闘の場を見たわけではないが、南の闘王の本気の”練習試合”を見た時より、智功の”稽古”の方が凄いと感じたのは確かだ。

神の力を制限して戦うというのならば、今の自分の力では智功には叶わないだろうとも思う。

火遁は姿勢を直すと横の椅子に腰を下ろした金樺の顔を見つめる。

「智功は、前よりも強くなってるよな?」

「…そうだな、少なくとも、俺が神になった時より、相当力をつけてるはずだ」

「神が人間の力に叶わないなんて事、あるかな?」

「…どうだろうな。神も人間も、中身は一緒だ。必ず勝てるとは言い切れないんじゃないかな?」

金樺のそんな言葉に、火遁は益々眉を潜めた。

「すまん、不安を煽ろうとしているわけじゃないんだ」

「解ってる」

「風啼様が智功と心枢、礼薫殿に収集をかけたそうだし、詳しい状況はもう少し後になってからだな。その頃には水杵の意識も戻るだろ」

「うん…」

気弱な返事に反して聞こえたのは、軽快な腹の虫の音。

金樺は思わず噴出しそうになった口元を手で押さえ込み、ぐっと飲み込んだ。

「腹が減っては戦は出来ぬってな。土輝邸に行って土紬に飯貰うか」

「賛成~」

昔から金樺は火遁と話す機会が少なくは無かったが、神となって話す機会が増えてからは、どこか木櫟に似ていると思うようになった。

考えの中にちらほらと「子供っぽさ」が残っているのだ。

もっとも、木櫟の場合は、全てにおいて子供っぽいのだが。

時折襲う緊張感も、なんとも些細な事で飛んでしまう。

水杵とだけでなら、こうはならなかっただろう。

「金樺、いるかー?」

窓の所から顔を出したのは義胡だ。

「どうした?」

「いや、水龍邸いったら水杵が固まってたからさ」

「ああ、明日には戻るが急用か?いまから土輝邸行こうとしてたんだが」

「や、俺じゃなくて風啼様が集まれって言うから。何かあったのか?」

という事は、義胡は今回の件を知らないのか。

西の闘王が就任したのは全て金樺の成人の義から後からの事で、国に関わっていたのは義胡だけだ。

それも他の事までを任される余裕は無い状態だったのだから、無理もないだろう。

「ちょっとややこしい事がな。土紬と木櫟にも話したい。あっちについてから話そう。腹が減って火遁が死にそうだからな」

「なら、丁度いいや。出る時に土紬様が飯作ってた」


□□□□


土輝邸の中庭で、木櫟が屈伸運動をしている。

「お師匠!」

「この所、稽古もしてないからな、身体も大分なまってるだろ」

「智功とかと軽く組んでますから、大丈夫ですよ。動いてるより逆に机に向かってる方が疲れるかも」

いくら木櫟が「文学にたけている」とはいっても、普段からつきっきりで勉強しているわけではない。

木櫟にとってはなれない作業をずっとしているのだ。

「後で一息入れようか」

「はいっ!!」

木櫟の見せた飛び切りの笑顔に金樺は笑いを漏らした。

土輝邸の脇にある小窓から土紬が顔を出した。

同時にいい匂いが辺りに広がった。

丁度、台所の脇なのだろう。

「どうしたの、金樺、戻ったんじゃ?」

「ちょっと、問題がな」

そんあ言葉に、土紬は苦笑いを漏らす。

「一難去ってまた一難か。忙しいね」

「まだ静かな方だよ、火遁がじゃじゃ馬だった頃に比べりゃな」

「土紬、今日のご飯、何?」

当の本人は聞こえていないのか、聞こえぬふりをしているのか無邪気に顔を輝かせていた。

「やれやれ」


こうしてみると燵紅という男の話に極度の驚きを見せたのは、水杵だけだったように思えた。

というよりは、まだ壁が高すぎるのかもしれない。

「それで、その燵紅という男が、今回の陰国枠に入ったというのは断定的だという事かい?」

土紬の問いに、金樺は顎を乗せていた手をどけて、顔の横でひらひらと振る。

「断定的とはいえない。どうもその男は”風来坊”ってやつで、陰国本土にはそう長くはいないらしいんだ。数ヶ月から数年、何処に行ったのかもわからない状態になるのもザラらしいし。確実に接触できる人物ってのはいないらしい」

「まあ、そう簡単に掴まる人間なら、陽国の人間に手は出さないだろうけどね」

義胡は茶を一口飲み込んで、口元にたれた雫を拭い取る。

「…じゃあ、水杵が吹っ飛んだのは、智功のせいか?」

「え?」

土紬と木櫟が声を揃えた。

「ああ。もしもの話だが…その燵紅が嵐萄と接触して、この計画に加担した場合、”智功が死を恐れる可能性がある”」

「…だろうな」

義胡の言葉は随分と落ち着いているように思えた。

「随分、余裕だな、義胡」

「え?そう見える?」

その場にいた全員が首を縦におろした。

「智功は大丈夫だよ。経験上、一度死の淵を見た奴は絶対負けない。相手が命を軽率に見る相手なら尚更な。今は少し整理がついてないだけだ。頭がいい奴だと、先に意識がぶっ壊れちまう。

智功は強い。敗北を経験したなら尚更それをバネにして強くなったはずだ。

本気で国を守る為の目をした智功は、誰にも負けねぇよ」

「…べた褒めだね、義胡」

「素直にそう思ってるだけですよ。智功の強さは本物。神を除くとすれば、陽国一ね」

「…その言葉、水杵にきかせてやりてぇ」

「あ、それ俺も思った」

金樺と火遁は顔を見合わせると同時に噴出した。

「お、揃ってるみたいだな」

「風啼様、今”燵紅”の話を聞いたところです」

「え?誰からその話を?」

「先ほど、夜壬に。水杵が固まりましたが、我々は大丈夫です」

金樺の言葉に、風啼は首を捻った。

「どういう事だ?」

「智功は大丈夫ですよ、風啼様。我々十二国土闘王は、其々を尊重し、助け合います。もちろん、五神も」

「…困ったな、礼薫と心枢を呼んでおいたんだが…」

眉を潜めた風啼に、木櫟が右手をあげる。

「構いませんよ。心枢には聞きたいこともあったし、きっと、そろそろ礼薫様も状況を説明しろって言い出すと思いますから。それに、水杵に説明するのはきっと礼薫様の方が上手いと思うしね」

「確かに、礼薫様の方がいいかもね」

確かに効率よく十二国土に説明するには繋がりの多く、自由に行き来がしやすい礼薫が適任だった。

闘王の中で、全ての国の特徴や闘王の性格や扱いを心得ているのも、礼薫ならではだ。

それに、熟年で覚えてきた礼薫の言葉は適度にまとめられ、様々な言い回しを使うことが出来るので、万人が理解しやすいのだ。

「なら、いいのだが」

「智功も本当に問題をよく作る人だね。俺も人の事言えないけど」

「きっと今頃、礼薫殿に”喝”でも入れられてるんじゃないのか?」

「礼薫様起こると怖いもんな」


□□□□


静かに揺れる馬車の荷台は、巳ノ国の国境を出て閑散とした山道を走っていた。

歩くよりは早いが、馬で移動する速さよりは遅く、日がもう殆ど沈んでいる。

早くて明日の昼頃にはつくだろうか。

「へっくし!」

「智功、寒いか?」

「いや…」

心枢が自分のしていたひざ掛けを智功の肩にかける。

常に情報収集に動く智功は、極力動きに邪魔にならない衣服を選んできていた為、殆どが薄手の素材で出来た物だった。

真夏ならまだしも、季節が秋口に変わる頃などは、見ていて自分が寒くなりそうだった。

智功の顔を見ると、まだ頭の中がぼんやりしている様に見えた。

本来の予定では今日1日は巳ノ国にいるはずで処方した安定剤だ、無理もないだろう。

「それで、その燵紅と言う男は何者なんだね?」

礼薫が口を開くと、心枢は少し困ったように肩を上下させた。

「詳しくは解りません。閑叉先生も当時は国も情報は無いと言っていましたし。陰国の犯罪者リストにも記載は無かったそうですから」

「その様な件があったのだとすれば、今も賞金首狩りをしてると考えるのが妥当なのでは?

それだけの首を狩っているのなら、陰国の公安に記録が多いだろう?」

「燵紅は一拠点で狩りをするわけではないんですよ。

陽国と違って、陰国の公安では全ての支所の情報を一括していませんからね。おそらく大きな事件にならない”何か”だけの情報を全ての支所からまとめる何て事はしていないと思いますし」

「ふぅ…む」

声にならないような、ため息の様な礼薫の返事だ。

何か考え事をしている時によく聞いた。

「もし、嵐萄という術者が、計画に使うと考えたならば、おそらく”燵紅”の情報は公安にももう無い」

「ん?」

心枢と礼薫が同時に顔を上げた。

「どういう事だね、智功」

「逐磨達と同じことだ。いくら王家に関わるといっても、出生から丸ごと情報が無いってのは「人口」としておかしいだろ。

燵紅が計画に加わるとなれば、おそらく俺との事を話すはずだからな。となりゃ、陽国が動くのは目に見えてる。

「存在」「戸籍」が記録上から全て消されたはずだ。書面上の抹殺だな」

心枢が眉を潜める。

「…そんな事が出来るのか、1人の術者に」

「術者だからできるんだよ」

「…催眠…か」

礼薫が目を細める。

心枢は、智功の表情を見て小さく笑いを漏らした。

「戻ったな、智功」

「は?」

「いつものお前だ。強い戦士、子ノ国の闘王のな」

「…そうだな。俺は燵紅なんかに負けてらんねぇんだ。陽国を守らなきゃならないんだから」

心枢は智功の頭を軽く叩いて額同士を軽くぶつけた。

「そうだな、それでこそ智功だ」

「…きもちわりぃよ。離れろ。俺は火遁じゃねえんだ。子ども扱いするな」

「俺から見れば、智功も火遁も心枢も、皆同じだがな」

そんな礼薫の言葉に、心枢と智功は同時に顔を歪めた。


□□□□


ゆっくり進んだ馬車は、朝日が昇り始めると同時に陽国本土に入った。

風神邸の前に止ると、寝息を立てている心枢と智功のずれた毛布をかけなおして礼薫が足場を降りる。

「おはよう、礼薫。疲れただろう」

「おはよう。どこに行けば?」

「土輝邸で木櫟が話があるそうだ。それまでここで休めばいい。まだ愛朱が寝ているから、ろくな物は用意できないがな。

それと”燵紅”の事は解決しているらしいぞ。水杵を除いてはな」

「だろうな。それについては智功が水杵に話すから、大丈夫だろう」

「智功は戻ったのか?」

「ああ。智功は強い子だ。あの時も今もな。

しかし、休むにはいいが、どうするかな。子供2人が熟睡しているのだが」

「子供?」

「俺やお前から見れば、皆子供の様なものだろう」

礼薫と風啼は顔を見合わせて小さく笑いを漏らす。

「じゃあ、しばらく中庭で話すとしよう。そのうち起きて来るだろう」


顔を合わせた瞬間に心枢に飛びつく火遁の光景はすっかり見慣れた。

大口を開けて欠伸をする智功の顔もだ。

「あーあ。智功、髪そのままで寝たんでしょ。まってて。直してあげる」

椅子に腰をおろした智功の後ろに立って土紬はくしゃくしゃになった智功の髪の毛を梳く。

「ようやく水杵が戻ったぜ」

金樺に連れられた水杵がよろよろと椅子に腰を下ろす。

「あ、水杵おはよう。風邪ひいてない?」

「大丈夫だ…」

「師匠、おはよう」

「…おはよう」

「…しゃんとして下さいよ。一応俺の従神なんだから」

「……智功っ!!」

「うわっ!!」

突然肩を掴まれて、智功は反射的に立ち上がる。

その直後、後頭部に鈍い痛みが走った。

「……あ」

ものの見事に、後頭部が土紬の顔にクリティカルヒットしたのだ。

顔を手で押さえて蹲る土紬に火遁と木櫟がかけよる。

「すいませんっ土紬様っ」

「だっ大丈夫かよ、土紬!!」

「すっごい音したよ、今。鼻折れてない!?」

「…だ、大丈夫」

指の間からゆっくり赤い筋が垂れて来た。

心枢が呆れ顔をして机の上のティッシュを引き寄せると、土紬の顔を見る。

「折れてはいなさそうだな。智功、お前は大丈夫か?」

「へ、平気…」

「これ詰めて、少し横になっていれば大丈夫。火遁、冷たいタオルを」

「はーい」

木櫟に支えられて、土紬が奥におかれた長椅子に横になる。

心枢は智功の髪に刺さった櫛を引き抜くと、水杵の肩を軽く叩く。

「大丈夫ですよ、水杵様」

「…え?」

「智功はいつもの智功です。我々はいつも通り、五神を陽国をお守りします」

「…そう…か」

水杵の表情が、少しほっとした様に見えた。

「あーっ、それ礼薫様の役目なのに~」

「私の?」

「別に誰でも構わないじゃないか、木櫟。気になさらないで下さい」

一騒動が落ち着いて、ようやく土輝邸に静寂が戻った。

「今のところ、わかっているのはここまでです。陰国が何をしようとしているのかとか、そこまでは、まだ」

「まあ、想像通りだな。それと”燵紅”について他に情報は?」

「閑叉先生に少し情報は頂きましたが、目立ったことは何も」

「俺が集められる範囲の情報でいえば”嵐萄”ってのは真紅の眼らしいぜ」

「…真紅の眼だと」

礼薫が智功の言葉に目を見開いた。

「礼薫殿、それは?」

水杵の問いに、礼薫は机に広げられた術者の一覧を手元に引き寄せた。

「真紅の眼というのは、”万術”の術者の通称だ。

陽国も同じことだが、術者というのはある一定の数の呪術しか使おうとしない。

解っていることだと思うが、呪術を行うにはそれなりの忍耐力や体力が必要だからな。

だが、呪術を出す際に、殆ど力を使わずに済み、意のままに操れる術者がいる。という話を聞いたことがある。実在するかはどうかはまったくの謎なんだがな」

「この称号を受け取るのは天性だといわれてる。その名の通り、生まれた時から目が赤いんらしいぜ」

「目が赤い…?」

「白目から瞳孔まで全てが”真紅”なんだ。両目だったり片目だったり、そいつによって違うらしいがな。まあ、あくまでこの話は噂に過ぎない。だれもそんな奴見た事ないし、一部の人間しか知らないから、一般庶民が目にしてもわかんねえしな」

「だが、それが本当の事だとすると、嵐萄は死術も扱える事になるな」

また聞きなれ言葉が出た。

それを察知したのだろう、礼薫は水杵の口が開く前に言葉を続けた。

「死術は人間の死体から採取する”細胞”や”霊魂”を使った術の事だ。医術と呪術を併せ持つ最高位の術の事だ」

「細胞って…そんなもんどうすんの?」

火遁の問いに心枢が手を広げて指を動かす。

「例えば神経。死んだ人間の身体から細胞が死なないうちに切り離すんだ。そして、仮の肉体を与える。そうすると細胞は仮の肉体の中で生きていけるんだよ。我々の医術でも”移植”として使っていることだが、そういった使い方をしてるとは思えないけどね」

「…じゃあ、霊魂というのは?」

金樺の言葉に答えたのは義胡だ。

「解りやすく言えば”霊媒師”みたいなもんかな。まあ、人に移すってよりは「物」に移すんだろうけど」

「物?」

「例えば、武器とかな。特に恨みの大きな霊魂ってのは想像以上に破壊力を持ってるんだ。多数の霊魂を一箇所に閉じ込めて、小出しにする様な武器とか」

「…それって要するに”僕らの力”を”死者の力”に変えてるって事?」

木櫟の問いに、義胡が頷いた。

「それが解りやすいな」

「…死術か」

「なんか、よく解んなくなって来た」

髪の毛をかきむしる火遁に、心枢は笑いを漏らす。

「後でまとめてあげるよ」



□□□□



「そろそろ、限界かな。せめてあの子達がいる間は避けたいが」

鏡に映るのは全身に青筋の入った肉体。

所々、内出血したような痣が見えた。

そんな肉体を見つめながら嵐萄は笑いを漏らした。

「まあ、同じ様に作り変えれば済むことか。この身体は嫌いじゃない。私の眼が…良く映える」

壁にかけられた日めくりへ一瞬目をやり、嵐萄は鏡に映る自分の体に指を這わせた。

「よく持ったな。まあ、粗末にはしないから」

一瞬間を置いて、笑いを漏らした。

「今更か。だが、お前はどちみち死んでるのさ。今まで生かしてもらえたことを感謝して欲しい方だ。私は…」

嵐萄が這わせた指の先。

鏡に映る身体についた首の先に映る顔は、両目が目が赤い。

「私は、お前等の神なのだからね」

その目は嵐萄ではなかった。

血塗れた眼球だ。

口端から毀れる赤い筋。

何かに訴えるような。何かを恨むような。

ただ、その口は何も言葉を発しない。

鏡の中で静かに佇んでいた。

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