【勝利の裏側。】
終焉まであと1時間を切った。
「きゃぁぁぁ!!」とルナさんが突然悲鳴をあげた。
ルナさんの方を見ると薄い黒紫のモヤモヤがドラゴン化したルナさんを包んでいた。
いつの間にか回りをぐるりと囲まれていて、大勢の合わせ技のようだった、ルナさんの桁外れの体力がジワジワと削れてゆく。
スゥをだしてヒールしようとしたが、ジョウロで回復の水をかけると水が弾かれてヒールができなかった。
自分にも攻撃が飛んでくる。しかしそれはウォールのバリアでなんとか防げた。それでも衝撃がぐわんぐわんと頭に響いて不快だった。
まずい…このままじゃ…ルナさんを死なせてしまったら氷が溶けてしまう。
後1時間を切ったとはいえ、1時間の間に次次と死んでしまう。
どうする…どうしたら…。
ぐわんぐわんとする衝撃の中ぎゅっと目を瞑って耐えていると、ふと衝撃が止んだ。
まずい…俺もしかして…この最後の最後で死んでしまった?
そっと目をあけると目の前には見覚えのある後ろ姿。
男性で…金髪で…金色のスーツ…ドルガバのヒルコさんだ。
「どうして…あなたが…。」
「遅くなった。」とヒルコさん。
ヒルコさんは黄金色の巨大な大仏をだして一気に回りを蹴散らした。それと同時にルナさんにかかっていた薄い黒紫のモヤモヤがとけた。
体力が後わずかだ。すぐにヒールしないと…。
スゥに回復をしてみると、みるみる体力が回復していく。良かった。なんとかなった。
「助かったわ…ヒルコ。まさか貴方が来てくれるなんて…。」
「借りを返しにきました。」と言うと、ヒルコさんは数千人という人数を相手に1人で戦い始めた。
「りき、乗って。」とルナさんに言われて、再びルナさんの後ろに乗って空を飛んでブレス攻撃をする。
回りにいた敵を一掃した後、また同じ氷山に戻り、ルナさんから降りた。
「今度こそ終わりですね。」
「えぇ、ブレスには誰も引っかからなかったわ。」
ヒルコさんも氷山に戻ってきた。
「ヒルコさんはどうして凍らなかったんですか?」
「見覚えのある技だったんでね。念のため、先に別の技で凍っておいた。」
「そんな回避方法あったのね。」とルナさん。
そして今度こそヴァルプルギスは終焉を迎えた。
視界が真っ暗になって「おめでとうございまーーーす!」とGMの声が聞こえた。
パッと視界が変わって、1つの真っ白な広い空間にミスティック連合全員が集められていた。
カラフルな花吹雪が舞っていた。
「1位ミスティック連合!!ではまず、みなさんのデスペナルティをクリアにし、デスペナのない方にはデスペナ回避のお守りを差し上げまーーーす。」
「うおおおおお!!」という歓声が聞こえた。
「ではみなさん元の場所へ帰還させますので一度睡眠状態になります。ログアウトされる方は1分以内にお願いします。」とGM。
段々と視界が暗くなっていった。1分経つと真っ暗になって睡眠状態にはいった。
しまった…真理の扉をOFFにし忘れた。
青空に草原…ここはルナさんのお茶会の場だ。シンカさんの隔離空間。
「ルナさん!!聞こえますか!ルナさん!!起きてください!!」と俺の声だ。
ルナさんがピクッと反応して持っていたティーカップを置いた。
「呼んでる…。」
「ルナ?…何も聞こえませんよ?」
「ルナさん…今こうしてる間にも…仲間は…消えていってます。これで良いんですか!?」と俺の声。
「ダメ…。」
「ルナ落ち着いてください。そうだ。一度横になりましょう。」とシンカさんがパチンと指を鳴らせば大きなベッドに空は星がキラキラ瞬く夜空に変わった。
「シンカ…私…何か大事な事忘れてる。」
「いえ、そんなわけないですよ。ルナは自分とこうして暮らす為だけにここにいるんです。」
「ルナさん…貴女はどうしたいんですか。ずっとそこに引きこもってるつもりですか?」と俺の声。
「そう…よね。…でも…何か…。」
「今は何も考えず一緒に寝ましょう。」
「うん。」
「お願いです。俺達を…守って下さい。ルナさんにしかできないんですよ。」と俺の声。
「シンカ…やっぱり私。」
「ルナさん!?帰ってきてください!!ルナさん!!!」と俺の声が響いた。
「そうはさせません。」とシンカさんがルナさんを掴もうとするとシンカさんの体が動かなくなった。後ろからもう一人のシンカさんがシンカさんの動きを止めていた。
「なん…で…も…思い通りにできると…思わ…ないで…現実から逃げた…弱虫がっ。」
「チッ。お前…何番ですか?後で処理します。」
ルナさんは外側で永久の愛を発動させた。
内側のルナさんはシンカさんの頬を触る。するとシンカさんは抵抗をやめた。
「シンカ、ありがとう。私の為に…ありがとう。私もシンカが大好きよ。貴女もありがとう。」とルナさんは二人のシンカを認めた。
「ルナ…?」
「私は心の底からシンカを愛してる。もうシンカ以外愛さないから…ね?最後までずっと一緒だから…。」
シンカさんの片目から一筋の涙が流れた。
「その言葉を…どれほど待ち望んでいたか。心からのっ…その言葉を。………今までたくさん愛をくれました。でも、ルナは…他の人を好きになる。好きだ好きだと自分が一番だと言ってはくれてました。でも心は…どこか別にあるように感じていました。こんなにも近くにいるのに。」
シンカさんの両目からボロボロ涙がこぼれた。
ルナさんはシンカさんを抱きしめる。いつの間にかもう一人のシンカさんは消えていた。
あの一瞬でこんな事が裏であったのか。
「シンカ…合わせ技いける?」
「はい。」
この合わせ技こそ、ルナさんのドラゴン化だった。
記憶が流れ込む。
ルナさんがドラゴンになれる目を手に入れて装備した時の記憶だ。
そこにはシンカさんの魂が入っていた。シンカさんの隔離空間に大きなドラゴンとルナさんがいた。
「自分は…真に思い合わさった時、全てを捧げます。」とドラゴンが喋る。
「真に思い合わさった時。」とルナさん。
ルナさんはお茶会の夢から覚める時に全てを悟って受け入れた。
ドラゴンに宿っていた魂はシンカさんなのだと。
そしてその魂はどういうわけか、AIとも繋がっていた。
到底考えられない事が起こっていた。しかし、ルナさんはみんなを守るという強い気持ちを持って、シンカさんを愛する約束をした。
もう誰も愛さず、シンカさんだけを…現実世界で生きているかどうかもわからない存在のシンカさんを愛すると。でもルナさんは信じた。シンカさんも生きた人間だと。
他の人と違ってルナさんはログアウトができないから真実の情報源が乏しい。だからこそシンカさんを失ってしまったらどうしようという気持ちが強くて他の人に依存してシンカさんを失った時の悲しみを少しでも和らげようとか考えていたようだった。
でも、今のルナさんは全てを受け入れる覚悟ができていた。
愛しいみんなを守る為に。
なんて強くて…悲しい人なんだと思った。
だからみんな…ルナさんが大好きなんだ。
疎遠だった双子の陽子にさえも愛を注いでいた。
なんて…温かいんだろう。
目が覚めるとギルドハウスの最近増築された大広間にいた。
真っ先に豊の顔が見えて「りき!起きるのおせーよ!!」と言われた。
回りは歓声とお祭り騒ぎだ。
AI達がせっせと料理を運んでいて、幹部の人達は席についていて、ルナさんもちゃんと椅子に座っていた。
大広間の扉が開いて…ある人が大広間に入ってきた。
そこで辺りはシーンと静まり返った。
ルナさんが勢いよく立ち上がって椅子が倒れた。
大広間に入ってきたある人物は…リオさんだった。




