【復活と終焉】
「どうせ死ぬなら…このまま幸せで終わりましょう。」と頭の中にシンカさんの声が鳴り響く。
「本当は死にたくない。」と今度は女性の声がした。「私は死にたくない。」と女性の強い意志を感じた。
誰の意思だ?誰…だ?
シンカさんとルナさんがお茶会をしている草原に場面が変わった。
あぁ…俺が入っていたのは…前の夢で近くで見ていた自分はこの女性だったのか。
記憶を辿ると、AIにつき1体の人間が用意されている。男のシンカさんはムーンバミューダで働いている人で無理矢理このシンカというアカウントに入った。その間もともと用意されていた人間は外に追いやられる状態になるってことか。
それでシンカさんの中には二人いたのか。意思の強制というものがあって、やりたくないことでも勝手にやらされてしまう。そんな状態らしい。
つまり俺はAIシンカの中を覗こうとして、中に二人いるから二人分見てるわけか。
もう一人のシンカさん。彼女は…彼女の記憶を辿ると車に引かれた時の生々しい感覚が直に伝わってきた。
その後は何も見えない真っ暗だった。気づけばずっとAIシンカとしてシンカの行動を見ていて、たまにルナさんがお茶を楽しんでいた草原に二人のシンカが同時に存在していて、そこで話をしていた。
「もうすぐここでルナと引きこもります。」
「生きる事をあきらめたの?」
「どれだけ足掻いても無駄ですよ。どうせ誰も救えやしない。」
「わからないじゃない。りきが…咲さんが…なんとかしてくれるんじゃないの?」
「結局それって自分の力じゃどうにもできないって事でしょ?なら、ルナくらい下さいよ。もう1ミリも傷ついてほしくないんです。後の事はまかせます。」
そこで真っ暗な空間に追い出された。
「馬鹿…悲しいも楽しいも…全部ひっくるめて人生でしょうが…。」
そこで目が覚めた。
「りき!!大変!!千翠が倒れたの。」とあわてた様子の咲。
「中央テントに急ごう。」
俺と咲と護は中央テントに移動した。
中央テントの中で、千翠さんが倒れていて、祭壇には東屋さんが立っていて、色々な数字や文字の羅列が東屋さんからテントの外へ散っていく。
「りき、東屋さんが結界を張ってくれてるけど、敵に頭の良い奴がでてきたら結界は即座に崩壊する。東屋さんとの頭脳勝負になるから。」とシン。
他のテントにいた連合員達が続々と中央に集まってきた。
エイボンの目を借りて、散ったミルフィオレを見る。
そしてデカデカと表示されている連合員一覧表ホログラムの白く光る名前が次々と黒くなっていくのが見える。
これ以上…失いたくない。
俺はシンカさんの方へ行った。
「シンカさん、もう誰も失いたくないんです。俺にできる事ならなんでもします。だから…ルナさんを返してください。」
「返せも何も。自分にはどうする事もできません。」
「シンカさん!!」と俺はシンカさんの肩を持った。
でも表情が…悲し気な表情をしていて、このシンカさんは…女性のシンカさんだと悟った。
「もういいです。できるならシンカさんがでてこないようにだけお願いします。」
シンカさんの瞳が大きく開く。
俺はベッドで寝ているルナさんの手を握った。
「ルナさん!!聞こえますか!ルナさん!!起きてください!!」
ルナさんは無反応だった。
「ルナさん…今こうしてる間にも…仲間は…消えていってます。これで良いんですか!?」
ルナさんは無反応だった。
「ルナさん…貴女はどうしたいんですか。ずっとそこに引きこもってるつもりですか?」
ルナさんは無反応だった。
「お願いです。俺達を…守って下さい。ルナさんにしかできないんですよ。」
ルナさんの指がピクッと動いた。
「ルナさん!?帰ってきてください!!ルナさん!!!」
シンカさんが床に転がって頭を抱えて呻きだす。
「ぐっ…‥なん…で…も…思い通りにできると…思わ…ないで…現実から逃げた…弱虫がっ…」とシンカさんが言う。
恐らく中で戦っているんだ。シンカさん同士で。
「ルナさん!!仲間が…このままじゃみんな消えちゃいます!!」
俺の手をぎゅっと握ったか思えばグイッとひっぱってルナさんは起き上がった。
回りにいた誰もがルナさんの名前を呟いた。
「永久の愛」と呟くルナさん。
すると地面から足が凍るかのうように氷がメキメキとつたってきた。
ルナさんが俺の手を握っているせいか俺だけは凍らず、まわりの全員が凍った。
「私の…私の可愛い子供達…絶対に…守ってみせる。」とルナさんはとても辛そうに呟いた。
「ルナさん…。」
「シンカと意識が繋がってるせいか…まだちゃんと…自分を保てないの。」
「その間、俺が守ります。」
ルナさんはおでこを抑えて目を瞑っていた。
全員が凍ってしまった。咲も護も…周辺は俺とルナさんしかいない世界だ。
俺も目を瞑って、小人達に魔力を送る準備をする。
たまに襲い来る敵を追い払う…、それが1週間続いた。
俺の体力はもう限界だった。寝不足に疲労に空腹が溜まりにたまってきて、次に襲い来る敵に対して魔力補充をしないといけないのに、腕が動かなかった。
すると後ろにいたルナさんが腕を上げて氷の矢を放ってくれた。
「ル、ナ…さん?」
「待たせたわね。」とルナさんの声が聞こえたと思ったら俺の意識が途絶えた。
意識が戻った時、俺は何か硬い物の上に仰向けで寝転がっていた。
風が凄く気持ちよかった。
起き上がってみれば、空だった。
「え?」
「起きた?何か食べておかないと、体力が減っていくわよ。」とルナさんの声がした。
そしてバサッバサッと大きな音が鳴っている事に気が付いた。
「もしかして…俺今、ルナさんの背中にいたりしますか?」
俺が今のっている地面の色には見覚えがあった。
「えぇ。私の可愛い子達を迎えにいくの。」
「迎えにって…えぇ!?ドラゴン状態でも意識を保てるんですか?」
「えぇ。大きな代償は払うことになったけれど、問題ないわ。」
「大きな代償って?」
「……それはきっと私にしかわからないわ。さぁ、早く何か食べて。」
俺はギルドで配られていたお弁当を取り出して食べた。
ルナさんは散り散りになったギルド員を見つけては凍らせて、敵を紫色のドラゴンブレスで焼き払っていく。
ドラゴンの威力は最強だった。
あっという間に星を回り、氷山まで戻ってきた。
「あとは…終焉を待つだけね。」
「俺以外凍ったんですか?」
「えぇ。無事にね。」
「終わったんですね。ヴァルプルギス…。」
「えぇ。」
「どうして…戻ってこようと思ったんですか?」
「…どこまで見えてるかわからないけど、腐ってもここのマスターだから。確かに主導権を握ってるのは千翠とかラートだけど、でも、私はここのマスターなの。王は民を守るためにいる。みんながいて初めて王なの。その覚悟は常にある。だから戻ってきた。」
意外な言葉に驚いた。
「俺…俺ならなんとかできるって思ってました。」
「ええ、さすがりきね。りきがいなかったら私は戻ってこれなかったわ。」
「違うんです。そういう意味じゃなくて、俺さえなんとかすればヴァルプルギスで勝利できると思ってたんです。………全然甘かったです。俺の攻撃範囲はとても狭かったし…。弱点もたくさんありました。……ヒールも間に合わないで目の前で仲間を失ってしまったり…色々ありました。俺…情けないです。」
「りき、貴方もこれからよ。だって…まだ始めたばかりじゃない。」
「はい。」
「ヴァルプルギスが終わったら…世界は大きく変わってるんでしょうね。」
「そう…ですね。」
「りき、りきはやるべきことをするの。道に迷ったら、貴方の可愛い奥さんが導いてくれる。私も貴方を全力でサポートするわ。愛する人たちの為にね。だから前を向きなさい。」
「はい…。」
俺は…多分俺は初めてルナさんという人に触れた気がした。
そして…とうとうヴァルプルギスは終焉を迎える。




