【肉体の死】
大広間に入ってはズカズカと歩き、ルナ幹部達が座るテーブルの前まできて足を止めた。
「急ぎ、幹部会議を開きたい。」と一言。
「みんなはここで宴会の続きを。幹部は全員裏の部屋へ。」とルナさん。
幹部席の後ろの大きな絵画が扉のように開いて、ぞろぞろと幹部達が入っていく。
リオさんもそこの扉へ入った。
「りき、お前も行って来いよ。」と豊に言われて、起き上がってついていく。
「りき!」と咲が俺を呼び止めた。
「咲。」
「私も連れていって。」
「うん。護も。」と俺は近くにいた護に声をかけて、幹部会議の部屋に入った。
部屋に入ってみると床が無かった。正確には宇宙空間のような床の色をしていて床が無いと錯覚してしまって、驚いて「うわぁぁっ!!」と大きな声を出してしまった。
「ククククッ。驚くと思ったぜ。」とスノーさん。
「そんな子供だましに引っかかってないでさっさと座れよ。」とShiftさん。
「ふふん♪二人とも引っかかった後でございましょう?」とユナさん。
一面宇宙空間でどこに壁があるかもわからないぞ…。ていうか椅子どこだ。
「すみません・・・椅子どこですか…。」
「コホンッ。この緊急会議は初めてですか。電気をつけてあげてください。」と千翠さん。
ユナさんが立ち上がって何かを触ればカチッと音がして、アンティークテーブルとフカフカそうなアンティークの椅子が1つ空いていた。
俺が座るとまたカチッと音がして宇宙空間に変わって浮いているような感覚になった。
一番端の席で隣にはスノーポークさんがいた。
「もういいかしら?」とルナさん。
全員がシーンとする。
「リオ、一体何が起こったというのです?」と千翠さん。
「俺は……俺は……。」
「リオ?」とルナさん。その声は心配そうであって…どこか切なそうな声だった。
「俺は………ルナ…。…………俺は死んでしまいました。」
室内がざわつく。
「どういう事?でも今あなたはログインしてるじゃない。」とルナさん。
「はい。でも…体は焼却されました。それを…俺自身がロボットの体に意識だけ移された俺は確認しました。」
ルナさんの両目から涙が流れ「そ…んな‥。」
「俺だけじゃないです。多くの人が焼却されてました。」
「私の持っている情報から推測するに、行方不明者の多くは無職で引きこもりがちな方が多いようでした。」
「はい。知っての通り俺は無職で…働く気なんて微塵もなく、親の金で引きこもって生活してました。あの日、強制ログアウトしたと思えば既に…体はどこかへ輸送されてました。それから注射を打たれて次に目を開けると瞬きしたくてもできない…体が麻痺してるかのような状態でした。自分の体を見るとロボットっぽかったです。その後、ここに戻ってこれました。」
「だとしたら、うちの東屋はどうなる?」とShiftさん。
「え?俺の体も危ない?」
「何をおっしゃいます。東屋さんの生活は私の家で私がみてるじゃないですか。」と千翠さん。
「おっしゃる通りです。」
「早くに察知して予め、私の家に避難させていた無職の方々は無事でしたが、リオさんを迎えにいった時にはもう…もぬけの殻でした。」と千翠さん。
スノーさんが俺に「アイツ絶対ルナをまた自分の物にしたくて、わざと迎えにいくのを最後にしたな。」と耳打ちする。
この世界、設定の耳打ちという項目をONにしていると耳打ちした相手にしか声が届かないようになっている。でも耳打ちの範囲をミスると丸聞こえだ。
というか、千翠さん…そんな恐ろしい事を?
リオさんはぎゅっと拳を強く握っていた。どうやらリオさんも千翠さんの悪意に気が付いているようだった。
「りき、私の近くにきて。」とルナさん。
ユナさんが立ち上がって電気をつけてくれた。
俺は立ち上がってルナさんの近くへ行った。「シンから聞いたわ。真理の扉でリオの過去を見てきて、中身が本物かどうか確認してきて。それと…現実のリオは少し小太りで黒い髪で緑色の眼鏡をかけているわ。」とルナさんに耳打ちされて、頷いて、俺は自分の席に戻った。
深呼吸をしてリオさんの事を知りたいと願った。
とても汚い部屋に自分はいた。
布団は引きっぱなし、髪や髭は伸び放題。緑の眼鏡の記憶がある。
これだけじゃ、ただ離れたところにいるリオさんを見ているだけかもしれない…もっと何か…。
場面が暗転したと思えば先ほどリオさんが言ってた通り、自分の体がロボットになっていた。
というより自由の利かない体に無理矢理映像だけ流れ込んでくるような気分だ。
近くに自分の体があった。白い防護服を着た人達が自分の体を焼却炉のようなところへ入れて、しばらくたつと骨が取り出された。そうして次の人が運ばれてきて焼却された。
次に部屋に入ってきた人は見覚えがあった。
少し成長していたけど…現実世界のシンカさんだ。
目の前にきて、自分はシンカさんの腕の中に抱きかかえられて、ルナさんが眠る部屋についた。
前の記憶の中では金髪だったルナさん。でも今は黒髪になっていた。生え変わったのかな。
自分はどこかにおかれて線を繋がれた。
すると【リアル】のルナさんの自室にいた。
それからゲートで大広間の前へ移動して扉をあけた。
そこで目が覚めた。
どれくらい時間が立ったんだろうか、ホログラム表示されている時計を見ると数分しかたっていなかった。え?どういう事だ?その場で眉間に皺をよせて首を傾げて、とりあえず再び立ち上がるとユナさんが電気をつけてくれて、ルナさんのところへ行き「本物でした。証言も本当でした。」と耳打ちした。席へ戻るとまた電気が消された。
「どうしてわざわざ電気を消すんですか?」と隣にいたスノーさんに聞いてみた。
「あぁ、知らないのか。時間の流れを遅くできるんだ。」
そういうことか。と納得した。
「死んだって…言うのか…信じられん。」とパンデミック卿。
「全然笑えませんわ。」といつになく重い顔をするユナさん。
「笑えないところじゃない。死人がでてるなんて…。」とスドーさん。
ルナさんが立ち上がって「とりあえず、わかったわ。リオが本物って事もね。今うちはヴァルプルギス勝利の宴真っ最中だから、何も聞かなかった事にして戻るわよ。いいわね。みんな。もう…崩壊が始まってるわ。」と言うと、みんな頷いて席を立つ、ユナさんが再び電気をつけると、またぞろぞろと大広間へ戻っていく。
久しぶりに幹部席が埋まった。
シンカさん…きっとルナさんの為に…恋敵であるリオさんを助けたんだろうな…。
皆が何事もなかったのように勝利に喜び宴会を楽しんだ。
そんな中で俺は、シンカさんのいる厨房に入っていった。
「何か食べたいものでも?」とシンカさんに聞かれた。
「いえ、なんとなく・・・シンカさんの顔がみたくなったんです。」
「おかしな人ですね。」
俺は近くにあった椅子に座った。
シンカさんの並列思考は…完璧すぎるんだ。俺がそう思った理由は今こうして【リアル】に入っているシンカさんと現実世界で稼働しているシンカさんの記憶が繋がっていない事に気づいたからだ…。
【リアル】の中にいるシンカさんは自分の体があるのかどうか知らないみたいな感じだった。
でも現実世界のシンカさんは【リアル】の中の事を把握していた。
本当に神崎の頭はどうなっているんだろうかと不思議で仕方がない。
「ルナが…泣いてる。」と唐突にシンカさんが呟いた。
「はい、さっきリオさんがログインしてきて…色々あったんです。」
「なっ…。」とシンカさんは青ざめる。
「でも、ムーンバミューダに囚われてしまって、もう現実世界に戻る事は不可能みたいなんです。」
「そう…ですか。少し席を外します。」とシンカさんは厨房を出た。
やはり、外と中と記憶が繋がっていないようだった。
あの日記はもしかすると外のシンカさんとのやり取りをする為の日記だったんだろうか?
シンカさんについては色々と謎が多いな。そして俺も厨房を出た。




