【真理の扉】
中央テントを出た。はやたんってどういう人なんだろう?イチカさんの為に凄く全力な気が…突然意識が遠くなった。ドサっと重たいものが地面に落ちる音が聞こえた。恐らく自分の体だ。
また夢だ。
どこからのグラウンドで走ってる自分。自分が誰かはわからないけど、感情が入ってくる。
凄く楽しい、絶対に勝つぞ、少しでも早く、早く、早く、という強い意志も感じられた。
視界が歪んだ、歪みすぎて何も見えない。
「お子さんはもう…。」という年配の男性の声がした。その声が頭の中で反響する。「息子はどうなるんですか!!」と金切り声で叫ぶ女性の声。
「母さん…どこいくの…母さん…。」と自分が発する声。
これは…?
入ってくる…この少年の人生が…走るのが好きで陸上競技で何度も賞をとっていた。
でも、猛暑に熱中症で倒れて…その後遺症で…もう二度と走れない体になった。
息子に全てを捧げていた親に見捨てられて…ムーンバミューダ社に拾われたんだ…そして今…俺は…
イチカさんの笑顔が見えた。
これは…はやたんの現実だ。
目が覚めた。
どこだ?と起き上がって辺りを見渡すと中央テントだった。
「りき!」とシンが駆け寄ってきた。
「シン、俺どうしてた?」
「テントの外で倒れてたんだよ。通りかかったサイファーさんが教えてくれたんだ。」
「そっか。」
「なんかあった?」
「なんかあったっていうか…。もうちょっと人がいないとこで話せないかな?」
「わかった。」とシンは魔導書を取り出して詠唱すると真っ白な空間に二人っきりになった。
俺の入っていたベッドとシンが座っていた椅子もある。
「これで誰にも聞こえない。運営にもね。」
「たしか…課金の結界じゃなかった?」
「いっぱいあるから大丈夫。」とシン。
「実は誰かの人生を覗き見しちゃう能力があるみたいなんだ。」
「はい?」と眉をひそめるシン。
「しかも現実世界の。」
「…りき、僕の人生も覗ける?」
「わからない…やってみてもいいかな?」
「うん。」
シン…シン…イチカさんの夢を見た時のように、はやたんの夢を見た時のように…ただただ知りたいと考えた。シンの現実を…。
意識が薄れていく気がした。
目をあけてみると瞬きしていないのに勝手に瞬きされて青い空を見上げていた。
暑い。凄く暑い。砂漠のような砂まみれのところに自分はいた。
入れた…のか?
喉が渇いた。水…水がほしい…お腹が空いた…食べるものがほしい。
そういえば今日はムーンバミューダからの配給がある日だ。家族は地雷を踏んで死んでしまった。父はインド人で母は日本人。
もう僕しか残っていない。
水が欲しい。あっちに水たまりがあったはず。と水たまりがある方へ移動した。
あったのは泥水の水溜まりだった。それを手ですくって飲んだ。
どうして僕は生きているんだろう。生きてたってこんな…。
でも、死ぬ前に母さんが言ってた日本って国をこの目で見て見たかったな。
場面が変わった。
ムーンバミューダの施設がボロボロの村の中に立っていた。あまりに綺麗なその施設はとても不自然だった。
ご飯を貰うんだという意識が入ってきた。
施設のドアの銀色の部分に自分の姿が映った。
髪の毛は真っ白の短髪で肌は褐色だった。髪の毛…白くなってる。
ドアをあけた。いつもなら外まで人が並んでいるのに今日は僕一人だ。みんな死んだ?
ドアを開けて進むと、白い服に身を包んだアジア系の顔をした男性がいた。
「やぁ。君で最後だ。」と、何を喋っているのかわからない。外国語だ。
この時のシンがわかっていないだけで俺は何を喋っているのか理解できた。
男性は此方に近寄ってきて僕の肩を持つ。
僕にはもう何も残ってないし、どうなったっていいや。
そこで目が覚めた。未だ白い空間の中だった。
「今…何時?」
「眠ってたのは30分。どうだった?」とシン。
「30分…凄い情報量だったのに、たったの30分。…きついな…ははは。」と言いながら俺は起き上がった。
「どんな…だった?」
どんなだった…どう答えればいいんだ。俺が複雑な感じで考えていると…シンの目から涙がポロポロ流れていた。
「シン?」
「僕にも人生があったんだって。ヒトだったんだって。生きてるんだって感じて。」
でも…夢の中のシンはいつでも死んでも良いと思ってたし、死にたいとも思ってた。
どう告げよう…。
「いいよ。ありのままを教えて。知りたい。」とシンは俺の肩を持った。
しばらくシンに見た事を語った。
「僕って馬鹿だ。こんなに世界は楽しい事でいっぱいなのに…。」と困ったような顔で笑う。
「でも、その時のシンには明日があるかどうか不安定だったんだ。仕方ないよ。」
「名前はあった?」
名前の記憶も入ってきたから覚えてる…けど…これって告げていい事なのか…。でもシンは大事な友達だ。黙ってられない。
「うん。覚えてるよ。言ったほうがいい?」
「ううん。りきの中にしまっといて。」
「え?いいのか?」
「うん、今、僕はルナの為のシンだから。」
「そっか。」
「それより、その夢はヴァルプルギスが始まってから見てるんだっけ?」
「あ、うん。そうなんだ。」
「だとすると…りき、ヴァルプルギスが始まって、直ぐに使ったスキルってあったよね?」
「あった…もしかして?そんな…。」
「一回見てみたほうがいいかも。」
俺はスマホを取り出してホログラム画面にしてホログラム画面上で操作してゲートのスキル確認をした。
インセインザサモンゲートの下に新しく日本語で【真理の扉】と書かれていた。
「うそだ。獲得ログなんて出てなかったけど…。」
「気絶してて見落としてたんじゃないかな?」
「あぁ…そうかも。これのせいか。」
「とんでもないスキルだね。」
「ほんとだよ。他人の人生を何回も見て来た感じがして疲れた。」
「あ、ONとOFFにできるんじゃない?隣にそれっぽいのあるじゃん。」
「あ、ほんとだ。やっとこれで安眠できる。」俺はすぐにOFFにした。
「解決して良かった。」
「うん。一回自分のテントに戻って、咲にも報告してくるよ。」
「あ、うん。でも他の人には黙ってた方がいいかも。」
「そうだね。」
空間が元に戻って、俺はベッドから降りてシンに手を振って、テントから出た。
自室のテントに入ると咲と護が怒ったような顔をして此方を見ていた。
「なんで連れてってくれないの。」と咲。
「一人で出歩くのは良くないと思います。」と護。
「ごめん、なんか新しいスキルを覚えてたから報告に言ってたんだよ。」
「新しいスキル?」
「そう…真理の扉って名前のスキルで、使うとその人の過去が見れるっぽいんだ。」
「りき…それ…絶対に私に使わないで。」と咲。
「あ、うん。」
って…咲の過去は別で見てる気がする…おもえばこのスキルの予兆みたいなものだったのかな。
とにかくOFFにしたし、これから夢を見なければ予兆だったという事で済みそうだ。
「またとんでもないスキルに目覚めましたね。」と護。
「そうだな。本当にとんでもないよ。疲れたからちょっと休む。」と俺はベッドに潜り込む。
「寝るの?」と咲。
「うん、新しいスキルのせいで全然寝た気がしなくて疲れたんだ。」
頭の中が凄くごちゃごちゃしている。沢山の人の顔、人の名前…色々な風景。
早く眠らないと・・・
でも、ルナさんの夢は過去夢じゃなかった。
あの夢の意味が全くわからない。真理の扉…今のところ知りたいと思った事を覗けるようなイメージだ。
ルナさんがお茶会をしている真理っていったいなんだ?俺はあの時俺だったのか、それとも俺でない誰かだったのか。




