【天使の導き】
俺達は再び遠くへと飛び立った。
飛び続けて12時間経過した地点で一旦休憩をとることになった。
東屋さんはヒーリングタオル[冷たい濡れタオルのようなもの]を目にあてて休んでいた。
「君も休んでおいた方がいいですよ。また12時間飛び続けなきゃいけないんですから。」
「はい。」
まわりがざわつきはじめて辺りを見渡すと一人のギル員が此方へ走ってきた。
「大変です!結界を一ヶ所張り忘れて…そこから敵が!!」
「すぐいく。」と椅子に座っていたダリアさんは立ち上がって、急いで騒ぎが起きている方へ向かった。
「俺も行きます。」
「お前は座ってろ。」とShiftさん。
「えっ。」
「東屋の援護だ。どうせ、入り込んで裏まわってんだろ。」と言って騒ぎが起きている方へ走って行った。
東屋さんは全く動じず休憩をとっていた。
「裏です!様子を伺っているようです。」と俺にしか聞こえないエイボンの声が響いた。
「東屋さん、俺達の後ろに敵がいます。」
エイボンの目で敵を見ると、敵の足元に大きな魔法陣があって何やら詠唱しているようだった。
東屋さんは微動だにせず…。
俺はとりあえずマグマプールをハナビに詠唱してもらった。
「りきさん、マグマを出すのはやめておいた方が良いですよ。他の戦闘中の人の視界を奪う事になるんで。えぇ。」
「…っ!!」
「ねぇ、りき、戦ってきてもいい?」と目をキラキラさせる咲。
「ダメです。大人しくここで座ってて下さい。」と東屋さん。
「えー?」
敵の詠唱が終わると、魔法陣の上に敵が30人ほど現れた。
30人相手はまずい・・・東屋さんは状況を理解しているのか?
「東屋さん…この岩壁の裏に31人います…。」
敵がぞろぞろと裏から此方側へ移動しようとしている。やっぱりもう行くしか…。
東屋さんが突如ヒーリングタオルをはがして、立ち上がり赤色に目を光らせて「ナイトメアタイム」と呟けば敵がぞろぞろ倒れていった。
さらに白く美しい刺繍のほどこされた表紙の魔導書を取り出して開き「欲望と願望と快楽の成就。天使の導き。」と言って魔導書をしまった。
「りきさん、あとはお願いします。」と言ってまた岩壁にもたれてヒーリングタオルを目にあてて休憩してしまった。
「私やってこようか?」と咲。
「あ、うん。お願い。」
咲が眠って動かない敵を一掃した。
「なんて惨い技…。」と護。
「何をしたかわかるのか?」
「はい、悪夢を見せた後に幸福な夢を見せたんです。人は悪夢より幸福な夢を見ている方が起きないので。」
「なるほど…。」
「そもそも聖天の魔導書はヒールに使われる事が多いんです。先ほどの天使の導きという魔法は精神的苦痛の解除目的で使われるんです。考える事が全てポジティブになる魔法なので。まさかこんな使い方ができるなんて思いませんでした。東屋さん、誰かで実験しましたね?」
「実験?練習試合に付き合っていただいただけですよ。えぇ。」
「護、どうしたんだ?」想像以上に護が怒っていて驚いて声をかけてしまった。
「【ナイトメアアイ】は☆5武器です。とてつもなく恐ろしい悪夢を数秒間見せる事ができます。映った物が恐ろしすぎて2、3秒見ただけで目を覚ましてしまうんです。ですから、だいたいの人がスタン用に使っているんですが…東屋さんのナイトメアタイムは確実に10秒持っていました。反応は検知できませんが、混ぜ武器ですか?」
「そんな邪道な物と一緒にするな。俺は色んな武器を試してみた。えぇ、色んな武器をです。偶然見つけてしまったんですよ。明らかなバグがある武器をね。えぇ。」
「まさか…そんな…。」
「バグを悪用するのは得意でしてねぇ。クックックックックッ…。できてしまったんですよ。今の武器がねぇ。ちなみに悪夢の時間は最大1時間でしたよ。」
「護、直感なんだけど、東屋さんって悪い人じゃないよ。東屋さん、俺色んな人と練習試合してきて知ってます。魔法を反射する武器や防具があるのを。わざと反射させて自分で試されたんじゃないんですか?」
「君のような勘の鋭い人は嫌いです。えぇ。」
「りき、おおかた片付いたみたい。」と咲が帰ってきた。
東屋さんが突然ムクッと起き上がってスマホを操作する。
「マ、マグ子さん!!」
どうやら電話が入っているようだ。
「どこにいる!?無事か!?」
しばらくして電話が終わると…東屋さんからどんよりオーラがでていた。
「どうしたんですか?東屋さん。」
「絶望的だ。紫色の森の中だって…俺のマッピングスキルは行かないと地図にできないけど、見る事はできるんです。えぇ。先ほどから集中する為にヒーリングタオルをあてて見てたんですけど、ここから1週間くらいはかかりそうな気配しかないんですよ。しかも敵地。ヴァルプルギスマップはどこまでも果てしない荒れ地なんですよ。」
「それは絶望的ですね。」
何やら少し離れたところでshiftさんが手招きしていた。
「東屋さんちょっと離れますね。」
小走りでShiftさんの方へ走った。
「どうかしましたか?」
「東屋には黙っとけよ。マグ子さんは拠点の地下にいる。東屋のやる気を引っ張り出す為にわざとおいてきてる。俺の指示で電話も入れさせてる。」
「そうなんですね。安心しました。」
「俺が今から結界をはるから、お前も休んでろ。」
「はい。」って…俺今のところ何もしてない…。
夢…ここはどこだろう。
ぼやっとした視界をなんとか頑張ってピントをあわせようとする。
それは小さな星。茶色の星。
凄くゴツゴツしている気がする…段々と色が付き始めた。
そこに氷山のようなツンととがった山が見える。
ドキッとした。それはミスティック連合だとわかるように放心状態のルナさんを無理やり操って作らせた山だ。
てことはこれは…ヴァルプルギスの星?
「美しいな。」これは俺の声だけど俺じゃない。勝手に口が動いた。
恐い…誰かに包まれている気分だ。それがとてもよくないものに思えて恐すぎた。
「おい起きろ!!」と頬を思いっきり叩かれて目を覚ました。
「は、はい!?」
目の前にShiftさんがいた。
「Shiftさん…?」
「妙なバフがついてた。」とShiftさんはホログラム画面でスクリーンショットを見せてくれた。
「え?」と眉をひそめながらホログラム画面を覗くと離席という名前のバフがついていた。離席バフは現実世界で起こされたり、急病になった時、強制ログアウトをするとつくバフだ。
「俺、現実世界でなんかあったんですかね。」
「千翠が徹底的に管理してるから、それはありえんな。」
もしかして夢を見ている間は離席バフがついてしまうんだろうか?
「そういえば…夢を見ていました。」
「夢?」
「はい。ヴァルプルギスのマップが1つの星だった夢です。ミスティック連合の目印の氷山が見えたんで…。」
「予知夢持ちか?」
「わかりません。」
「ほんとに謎が多いなぁ。お前は。あと、その恐怖バフ、なんでついてるんだ?」
「あ、ほんとですね。恐い夢に思えてついてしまったのかもしれません。」
Shiftさんは白い魔導書を取り出した。それは先ほど東屋さんが戦うのに使っていた魔導書だ。
「美しい森に美しい湖、空は青く、キラキラと光る。足元にはウンコ。天使の導き。」とShiftさんが唱えると美しい森に美しい湖があるところに俺は立っていて…空を見上げると青くて…そこら一帯はキラキラしていた。そして足元をみればウンコが…
はっとなって、意識を戻した。
「なんてもの見せるんですか!!」と言ったが、Shiftさんの姿はそこになかった。
「あの魔導書は本を開いて見せたいものを言ってから天使の導きと発すると見せたいものを見せられる仕組みみたいですね。」
「ひどいものをみたよ。」




