【母】
「なんという…。」酷く驚いた顔をする千翠さん。
優しく俺を見てほほ笑むヒルデさん。
そんな…こんな事って…。
「母さん…どうして…どうしてここに…。」
背筋が震える…本当に母さんなのか?でも、あれは…母さんにいつも言われていた事だ。
フラフラとヒルデさんに近寄って手を握った。
「母さん…なの?」
「りき……貴方、その髪の毛の色はどうしたの?お父さんが知ったら大変。」
「母さん!!違うんだ…違う…。」
きょとんとするヒルデさん。それから辺りをキョロキョロ見回しだした。
「ここは…【リアル】?」
「母さん【リアル】がわかるの?」
「私は…………ヒルデ………ギルド、ヒルデガーデン、ギルド長…ヒルデ。………今意識がはっきりしたわ。そうね。りき、貴方が本当に私の息子なら…私は貴方の母ね。」
母さんはゆっくり瞬きをした。すると黒かった髪が白になって瞳の色も赤くなった。服装もいつものビスチェにかわった。
「え…どうして…母さん…でも最初に会った時は…。」
「現実世界の記憶が全くなかったの。今全てが繋がったわ。……千翠さん、息子と…りきと二人きりで話がしたいのですけど…席を外してもらえますか?kenはきっと禁足の森のどこかに倒れているはずです。」
「承知いたしました。」と千翠さんはゲートを出してどこかへ行ってしまった。恐らく禁足の森だろう。
「りき、お父さんは?」
「父さんは母さんを探して、ずっと外にでてる。週に1回くらいは帰ってくるけど…ほとんど着替えとりに帰ったりくらいじゃないかな。家事は全部姉さんと僕がやってる。」
「ごめんなさいね。母さん失格ね。」
「母さん…何があったんだ?」
「母さんはムーンバミューダ社の社員なの。モニターで【リアル】に入ったの…けど、まさか現実世界の記憶を失ってしまうなんて…。りき、接続は家から?」
「うん、家からだよ。学校にもちゃんと行ってる…。」
「そう、このゲームに深入りはしちゃいけないって言いたいけれど…もう深入りしてしまってるわね。陽子さんと一緒なんでしょ?」
「母さん、陽子を知ってるの?」
「知ってるわ。彼女は…天才プログラマーで社長の右腕として働いていた人だもの…。最初にAI咲を見た時、記憶を失ってたからピンとこなかったけど、今はわかるわ。あれの開発に母さんも少しだけ手を貸した事があるの。」
「そうなんだ。ごめん…母さん。俺…多分危険な事してる。」
しばらく、俺は母さんに今まであった事を全て話した。
陽子との出会い。【リアル】に復帰してからの色んな事。
「りき、危険な事だけど、これは、きっと必要な事。母さんはヒルデとして、ヒルデガーデンのギルド長として、りきを見守ってるわ。もし甘えたくなったら、いつでも【エターナルフォートレス】へいらっしゃい。」
「うん。」
コンコンとドアをノックする音が聞こえて、千翠さんとkenさんが部屋に入ってきた。
「時間ね、陽子さんにあったら004988番のヒルデが呼んでるって伝えてもらえる?」
「わかった。」
「ヒルデ!無事…だったんだな。」
「kenさん。実は私…りきの母親なの!!」
「い゛!?」とkenさんはかなりショックを受けたようなエモーションがでていた。
「ごめんなさい。旦那もいるの…。」
あまりのショックにkenさんは気絶してしまった。
「…ヒルデさん、それは今必要な事ですか?」と千翠さん。
「必要です。」と母さんはいつものヒルデさんとしてふるまう。
「千翠、りきの力になって下さってありがとうございます。ヒルデガーデンは今まで以上にミルフィオレを支援します。」
「………っ…はははははっ。これはこれは…私の目に狂いはなかったようですね。ヒルデガーデンから手厚く支援していただけるなんて…今後ともよろしくお願いします。」
「ええ。」
ヒルデさんと千翠さんは握手する。
ヒルデさんがゲートで帰った後、俺は床に座り込んだ。
「大丈夫ですか?」
「はい、ちょっと…衝撃的すぎて。」
「昔…私も似たような体験をした事がありますよ。…恋人を【リアル】に奪われてしまった事が…。」
それって…ルナさんの事だよなぁ…。深く聞きくとヤバそうな気がして、俺は立ち上がった。
「部屋に戻って色々頭の整理をしてきます。」
「それがよろしいでしょう。」
自室のゲートを開く。
「千翠さん、俺…頑張ります。」
「ええ。頼みます。」
自室に帰るってみると、珍しく咲がいた。
「あれ?アリーナは?」
「りき、千翠からメールでヒルデさんの事聞いたの。」
「あ。えっと004988番だったかな…ヒルデさんが呼んでたよ。」
「004988番…。吉田…紗江さん。間違えないよね?」
「うん。あってる。母さんだ。」
「ちょっと話してくるね。」
「うん。」
俺は咲を抱きしめた。
「俺、大丈夫だから。頑張れるから。」
「ごめんね。ごめんね…。」と咲は泣く。
「人を…救おう。俺…まるで漫画の主人公みたいだな…。」
「りきは、最初から主人公だよ。私のヒーローなの。」
咲は【エターナルフォートレス】へのゲートを開く。
「いってくる。」
「うん。」
咲を見送った後、寝室に入って、ベッドの上に寝転んだ。
ヒルデさんが…母さんだなんて…母さんの声を忘れていた。姉さんにそっくりだなとは思ってたけど。
父さん…母さん…いたよ。
母さんから、父さんに真実を告げると無茶してしまうから、このまま行方不明のままにしてほしいと言われた。
母さんの話によると、多くの社員が記憶を失ったまま、この世界の住人として働かされてるらしい。
体がまた少し震える。
ゲーム…じゃないんだよな。
ほんとに俺がどうにかしないといけないのか…。なんでもできてしまう咲が俺にしかできないって言うって事は、本当に俺しかできないんだろうな。
「でも…正直恐いよ…。」
俺はいつの間にか眠っていた。
起きると次の日の朝で、隣には咲が眠っていた。
体を起こすと咲が眠そうに目をこすった。
「おはよぉー。」と咲。
「ごめん。起こした?」
「ううん。大丈夫。りき、これからもっと辛いと思うけど、頑張ろうね。」
「ん?うん。どうしたんだ?いきなり。」
「昨日ヒルデと色々話あって…色んな事を考えちゃって。」
「そっか。俺も色んな事考えた。」
「ふふっ。同じだね。」
「うん。同じだ。」
「あー…コホンッ。朝食できてるんだけど?」と部屋の外からシンの声がした。
顔を少し赤くしてリビングにでてみると、テーブルの上には朝食が並んでいて、護が席についていた。
どうやら護がシンを部屋にいれてくれたらしい。
「おはよう。護。」
「おはようございます。」
席について朝食を食べ始める。
「そういえば、ヒルデさんの事聞いた。りき、大丈夫?」とシン。
「うん、なんとか。」
「僕にできる事があったら言って。」
「うん、ありがとう。」
「そういえば、最近ルナの様子変じゃない?」と咲。
「……そっか。咲にもそう見えるんだ。」とシン。
「え?そうなの?」
そういえばこの間も具合悪そうにしてたっけ。
「そうだよ。溜息ばっかついてるし、胸を苦しそうにおさえつけてるし…。」と咲。
「僕には何も話してくれないんだ。僕だけじゃないシンカにだってそう。今回はさすがにシンカもへこんでてさ。」とシン。
「……シン、それ俺の心配してる場合じゃないんじゃないか?」
「ルナにかまわれないぶん暇が多くてさ。」
「少し気になるね。ルナの変化。」と咲。
「どうでもいいですけど、りき、咲さん、たまには自分の班の心配もしてください。」と護が目を閉じてお味噌汁を啜りながら言い放った。
「「あ・・・・はい。」」




