【黒髪のヒルデ】
俺はシンと【NOA】を討伐する為に【禁足の森】へ来ていた。
「うわ。何これ。数字の乱立。」とシンが言う。
「数字の乱立?」
「うん、みんなが言ってる狂気の数値じゃないかな。モノクルに表示されるんだ。」
「へぇ。」
「ん?りきって聖属性だっけ。」
「ううん、武器の効果で狂気は受けないんだ。」
ウォールが聖属性みたいで一体化してると狂気は受けない。
「ほんっと…すごいね。」
「はは…。」
シンと森の中を歩いていく。
「結構奥の方なんだっけ。」
「うん、MAP的には丁度中央って感じかな。」
「へぇ…。」
「NOAがPOPする10分前から、こうして狂気が発生するっぽいんだ。」
「僕でも退治できそう?」
「どうだろう?千翠さんのチームが討伐した時、討伐事体には成功したけど、狂気を森から完全に浄化するっていう事はできなかったんだ。」
「AIの僕がいうのは可笑しな話だけどさ、狂気を残したままにするっていうふうに作られた企画だったんだろうね。」
「ははっ。確かに。そうかも。」
「それを浄化しちゃってる状況に何もふれない運営がちょっと気になるけど、まぁ現状大丈夫そうなら今を維持したいよね。」
「まぁ、それはそうだけど、俺が落ちてる間が心配っていうか。俺が学校に行ってる間と現実世界での睡眠時間中、誰が管理するのか、管理できるほどのチームを作れるのかが今の課題なんだ。」
「あぁ、そっか。確かに。毎回毎回あのチームが出張るわけにはいかないもんね。」
「うん。」
【NOA】のPOP地点についてすぐにハナビにマグマプールを詠唱させて、エイボンに属性分解の準備をお願いした。
「シン、大丈夫だとは思うけど気を付けて。千翠さん達のチームは…」
「わかってる。聖属性があっても過去のトラウマの幻覚を誘発してくるんでしょ。」
「一瞬だから、ないとは思うけどね。」
過去のトラウマの誘発で千翠さんが選び抜いたチームのうち一人がダウン。
その後、その人は禁足の森へ行くことを拒否。
今後は、その人の過去や生い立ちまで知らないとチームに組み込めない。
いったいこのゲームはどこに向かおうとしてるんだろう?
そしてプレイヤーを殺しにいきてる気がするのは俺だけかな。
しばらくして【NOA】がPOPした。
ずるずると引きずる長い髪は砂嵐ようにジリジリ霞んでいて、心底嫌だと思えるような不快な音を纏っている。
「うわ…凄い不快感だ。音が…気分が悪くなりそうだ。」とシン。
「マグマプール。」と俺が言うとハナビが「マグマプール。」と言って技を発動させた。
それをエイボンが別の属性に分解して、聖属性のキラキラ神々しく輝く光のプールにしてしまう。
「うわぁ…すごいね。僕も結構聖属性極めてると思ってたけどさ、負けましたって感じ。」
「仕方ないよ。」
あっという間に【NOA】を倒して【禁足の森】から狂気が消えた。
「シン、ドロップは全部持っていっていいから。」
「え?いいの?結構なレアそうだよ?」
「うーん、どうせ溜まっていくだけだし。良いお土産になるんじゃない?」
「じゃあ、もらっておく。」とシンは少し微笑む。
一旦辺りをぐるりと見渡すと、だれかが倒れている事に気づいた。
「シン、あそこに誰か倒れてないか?」
「ん?あ…ほんとだ。」
二人で近寄ってみると、黒髪ロングの白いワンピースを着た女の子が倒れていた。
「シン。この人…。でもそんなまさか…。」
「そんなまさかだよね。僕も自分の目を疑ったよ。」
「じゃあ…やっぱりこの人って…。」
「うん…ヒルデガーデンのヒルデさんだ。」
シンと二人でヒルデさんを連れて、とりあえずギルドハウスに帰った。
しばらくするとヒルデさんの意識が回復した。
回復したというより、無理やり強制的に意識を戻すアイテムを使って戻した。
「ん……ここ…。」
ほんとに声が姉さんに似てるな…。
「ここはミルフィオレの地下の客室です。ギルド員以外は地下の客室しか通せないんで。」
「……ミルフィオレ…。」
「ヒルデさん。何があってあそこにいたんですか?」
「何が……。」
ヒルデさんはぼーっとしていて、まだちゃんと意識が覚醒していないように見えた。
「様子がおかしいな。僕じゃ手に負えない。りき、ちょっと見てて、シンカ呼んでくるから。」
「うん。」
シンがゲートでどこかへ行ってしまって、客室は俺とヒルデさんの二人っきりになった。
本当にヒルデさん…なんだよな?俺はとりあえず近くにあった椅子に座った。
見た目が全然違う、いつものヒルデさんはビスチェ水着みたいな装備をして、真っ白な髪の毛に赤い目をしている…けど今、目の前にいるヒルデさんは真っ黒な髪の毛に白いノースリーブのワンピース一枚。目の色も真っ黒だ。
「りき…。りき……。」
ヒルデさんが俺見て俺の名前を呼ぶ…どうしてだろうか?俺はこの人を知っている…。
もちろんヒルデさんだっていうのは知ってる…だけど、そうじゃなくて…ヒルデさんの中の人を知っているという気分だ。
「ヒルデ…さん?」
バンッと大きな音をたてて客室の扉が開いた。扉の方を見ると千翠さんが入ってきて、ヒルデさんをじっと見つめる。
てっきりシンカさんがくるものだと思っていたいたから驚いた。
「ヒルデさん。我がギル員にぃ湯kenが今どこにいるかわかりますか?」
千翠さんの言葉を聞いて、俺は思わず目を見開いた。
そうだ、ヒルデさんの護衛にkenさんがピッタリついてたはずだ。
俺は思わずスマホでギルド員のページを開いてkenさんの現在地を探ってみた。
(ログインはしてて、現在地は…。)
kenさんの現在地が???になっていた。
「え・・・?どういう事です…か?」
「こちらが聞きたいくらいです。ヒルデさん?」
「にぃ……け……うっ…。」とヒルデさんは苦しそうな顔をする。
「この世界で苦しそうな顔をするっていうことは本気で脳になんらかのダメージがあるようですね。」
「え?」
「五感を完全に支配されているゲームですからね。無痛持ちでもこういうときは、眉間に皺がよる時もあります。」
「そうなんですね。」
「ヒルデさん、私が誰かわかりますか?」という千翠さんの問いかけにヒルデさんは首を傾げる。
「NOAはでも俺が完全に消して、森も俺が浄化してるんで、あそこでどうにかなったってのは考えにくいですよね。」
「そのようですね。kenが行方不明になったのは1週間前です。ヒルデさんが行方不明になった報告は無く、ヒルデガーデンの方に聞いても昨日まで普通にギルド室にいたとまでいわれています。……それに…このヒルデさんは、あまりにも、いつもと見た目が違います。」
「でも声は同じですよね。」
「いよいよ…またゲートを使って強制召喚してもらわねばならない事態のようですね。」
「また…ですか。」
「王宮の広間へ行き、ギルド全体に告知をしてから召喚を使ってもらう事になります。」
「わかりました。」
「はぁ…。告知の方は私がしておきましょう。私が合図したら王宮の広間で召喚を使ってください。」
「はい。わかりました。」
俺は立ち上がって部屋を出ようとして、ヒルデさんをちらりと見ると目がバッチリとあった。
ヒルデさんは微笑んだ。
「お父さん、うるさいから…5時までには帰ってくること…。」とヒルデさんが弱弱しい声で俺に言った。
その言葉を聞いて俺の目からポタポタと大粒の涙がこぼれた。
間違えない…でも…こんな事って…どうして今まで気づかなかったんだろう…気づけなかったんだろう…
この人は……この人の中は…母さんだ。




