【医療施設と狂気】
パっと目をひらくと、咲が今にも泣きそうな顔をして此方をみていた。
「ん・・・何か、あった?」
「りき、また夢を見たの?」
「え、うん。そうかも。」
「そっか。苦しそうだったから、焦って起こしちゃった。」
「ありがとう。特に苦しい感じの夢じゃなかったような…覚えてないけど。」
そういうと咲の青い顔が段々と消えていく。
俺も薄々気づいてはいる。見てはいけないものを見ているって事に。
起き上がってリビングに出てみると、窓から日差しがさしこんでいた。
てっきり夜中に目が覚めたのかと思っていたけど、ちゃんと朝だった。
「咲は今日もアリーナか?」
「うん。こもろうかなって思ってたけど、どうしようか正直迷ってる。」
「え?俺なら大丈夫。特に異常とかないし。」
「でも・・・。」
「何があったか知りませんけど、僕がついてましょうか?」と護が部屋から出てきた。
「護…うー・・・ん、でも心配。」
「大丈夫だから、行ってきなよ。顔に行きたいですって書いてるあるし。」
「うー…じゃあ行ってくる。」
「うん。応援してるよ。」
朝食後、咲はすぐにラスカンアリーナへと行って、俺は護とギルドハウス内を散歩する。
「ここはいつ見ても綺麗だよな。」
「僕はよそを知らないので、どの程度ここが綺麗なのかがわかりませんけど。まぁ。今まで見てきた景色の中では一番綺麗な気がします。」
「そうだなぁ。俺のペナルティがなくなったら一緒に冒険しようか。」
「冒険…ですか。まぁ。付き合いはしますよ。」
しばらくギルドハウス内を歩いていると、医療施設と書かれた部屋があった。
「医療施設?」
「新BM討伐後の治療を施す部屋ですよ。晩餐の時にルナさんが言ってました。」
「あ。そうだっけ。」
「覗いてみます?」
「覗いてみよう。」
そーっとドアをあけてみると、結構グロテスクな景色が広がっていた。
ヒーラー陣が一生懸命呪文を使ってポーションを飲んで次から次へとゲートで飛んでくる怪我人に回復魔法をかけていた。
回復魔法にもたくさん種類があるようだった。
裂傷には火属性の回復魔法、火傷には水属性の回復魔法といった感じに癒しの速度だとか回復量だとかが変化しているようだ。
「あ、りき!丁度良いところに!」とクマの着ぐるみを着用した[森のくま]さんに話しかけられた。
よく見かけはするけど、しゃべるのは随分久しぶりな気がする。
「おはようございます。どうしたんですか?」
「りきはヒーラーもできるでしょ?今日ちょっと聖属性のヒーラーが少なくて混みあっちゃってるの。お願い!助けて!」
「えっとヒールをかければ良いって事ですか?」
「うん!お願い!」
俺はタクトを握ってハルとスゥを呼び出して、体力の減っている人を次々と回復して回った。
スゥは持っているジョウロの水をふりかける事によって体力を回復させる事ができる。
その水は、水ではなく魔力を水に具現化したもの…と考えておけばいいのかな?触れても冷たくないし。
ていうか…結構魔力持っていかれるな…。
ハルをちらりと見ればハルは魔力を回復してくれた。
ハルの魔力回復も魔力を回復するというよりは、満タンだった時に魔力のみの時間を戻す、といった方が正しいのかもしれない。
護の回復力も凄まじい。護は魔法陣のようなものを床に敷いてそこに怪我人をのせる事で体力を回復させる事ができる。
ちなみに、新BMでの怪我人に回復しようとすると魔力が自動回復しなくなるデバフが1時間付与されてしまう。だからみんな魔力回復ポーションをがぶ飲みしながら治療する事になっている。まぁ、俺は必要なさそうだけど。
お昼になって、ほとんどの治療が終わった。あとは新しくくる怪我人くらいだ。
「お疲れ!ありがとね。」
「いえ。」
「でも…あれだけ回復して、魔力ポーション無しなんて…。」
「まぁ、そこらへん、深くは詮索しないようにお願いします。」と護が言ってくれた。
「わかった。ありがとね!」
俺と護は医療施設から出た。
「もうお昼ですね。食堂行きますか?」
「うん。そうしよっか。」
食堂へつくと、シュガーさんとガウルさんとソウジュンさん3人で食事をとっているのが目に入って、日替わりランチを注文したあと、なんとなくシュガーさんの隣に行った。
「シュガーさん、隣良いですか?」
「おお!りきか!いいぞ!」
注文したランチが目の前に展開された。
「なんだ、日替わりランチにしたのか。」
「え。ダメでした?」
ガウルさんもソウジュンさんもシュガーさんも、カレーを食べているようだった。
「なんで皆カレーなんですか?」
「メニュー表に☆マークがついてただろ?」
「え。☆マーク?適当に選んでしまったんで、気がつきませんでした。」
「☆マークのついた飯は体力が上昇したり魔力が上昇したりっていう特殊効果付きでな。次からはそれを選ぶといいぜ。」
「日替わりでそれを出してくれていればいいのに…。」
「あー日替わりは確か、味を重視された飯だったはずだ。気分的に損はないとは思う。」
チラっと護のランチを見るとカレーだった。
「護までカレー。」
「まさか、知らないとは思いませんでした。結構有名な話なんで。」
「う…。」
昼食後、自室に戻ろうとすると ドンッ という音と共に胸をギュッとつかまれたような感覚になった。
「なんだ?今の。」
「これは…、BMの邪気ですね。ほら、デバフがつきました。」
名前の下に表示されているバフ欄に魔力回復減少デバフがついた。
「ほんとだ。こんな広範囲に…。」
「ギルドハウスの入り口付近からです。」とエイボンの声が脳に直接流れ込んできた。
「ギルドハウス付近か、行ってみよう。」
護と一緒にギルドハウス入り口へ行くと、肉食恐竜のような黒い生き物が壁を引っかいたり、通りかかったギル員に攻撃をしたりしていた。
俺達が到着したと共に、後ろから千翠さんがやってきた。
「どきなさい。」と言われて道をあけると、千翠さんは長い数珠のようなものを巧みに操り、数珠を黒い生き物の体に巻き付け、聖属性魔力を流し込んでいるようだ。
すると、黒い生物の動きがピタリと止まって、じわじわと人の姿になっていった。
ダリア班の腕章が見えた。名前はユピさん。エルフ型の男性。
次に千翠さんはセンスを取り出して、それでユピさんを扇ぐ。
「なんですか…このデバフは…回復阻害?」
しばらく扇いでいると、やっと少しだけ体力が回復したように見えた。
「りき、回復をお願いしてもよろしいですか?」と千翠さんに言われて、コクリと頷いてスゥとハルを出してユピさんを回復してみた。
俺の魔力が見る見ると減っていく。
ハルで何度か回復してやっとユピさんを全回復させる事ができた。
「ぶはっ!!!ハァハァハァ…。」
「恐ろしい…呼吸まで止まっていたというのですか…。」
「なんだ…どこ…だ。ここ…。」
「ユピ、私がわかりますか?」
「わか…ります…千翠様…。どうして…。」
「りき、すみませんが周辺の怪我人の回復もお願いしてよろしいですか?」
「あ、はい。」
スゥはニコリと笑って、怪我人の治癒をしてくれた。
「ユピ、いったい何がおこったんですか?」
「あっ・・・茜!!めう!!・・・そうだ…俺達…ラストカントリーの先に道ができてて、そこに入ってみたんです。森…でした。そしたら…到底俺達では倒せない狂暴な恐竜型のモンスターが3体出てきて…茜とめうがやられて…黒い何かに変化して…。」
「はぁ…。わかりました。PTは組まれたままですか?」
「はい。」
「では、状態異常を確認できますね?」
「えっと…狂気状態?」
「狂気…ですか。りき、ついてきなさい。それと…ダリアとシンを連れて森へ行くとしましょう。」




