【それぞれの疲れ。】
大型アップデート前は【リアル】世界の4日が現実世界の24時間になる予定だった。しかし、実際にきたパッチは【リアル】世界の8日が現実世界の24時間だった。
【リアル】プレイヤーは時間に狂わされていた。
学校でも、先生や生徒がちらほら謎に休んだりしている。この現象をニュースで報道されたりしない事に違和感しかない。
で、俺は相変わらずShiftさんの班の手伝いをしていた。今日は珍しくシンも手伝ってくれている。
シンの処理能力は凄かった。今まで休憩無しだった俺達に休憩時間ができるほどだ。
魔法を使っているかのように書類が纏まって、勝手に仕分けされていく。
「シン、これどうやってるんだ?」
「え?あぁ。僕はモノクルつけてるからさ、書類がアイテムとして表示されて、ホログラム画面を展開して指で色々操作すれば触れなくても仕分けできる仕組み。」
「へぇ…もしかして、Shiftさんと東屋さんがつけてる眼鏡ってモノクルと同じ効果のある眼鏡なのか?」
「いや、あの二人の眼鏡は、これの完全上位互換だよ。」
「へぇ…上位互換か。想像つかないな。」
「ふっふっふっふっふっ。そうか。想像もつかないか。じゃあ体感してもらうしかないなぁ。」といつの間にか俺の背後にいたShiftさん。
ほぼ強制でズボッとゴーグルをかけられた。
見えた世界は視界が全て文字で埋め尽くされるかのような勢いの情報だらけ…それだけじゃない。脳に直接流れ込んでくる誰かの記憶。
吐き気がして思わず口を押えて「う”…。」と声を漏らした。
シンが慌てて俺のゴーグルをとりあげた。
「タクミさん。悪戯にも限度があります。りきにこれはまだ早いです。」
「………幹部なら、慣れてもらわないと困るんだよ。いつまでも初心者面しやがってよぉ…。」
「はあああああああああああああああああああああああい!!ストップ。」とシンカさんが俺とShiftさんの間にわって入り、さらに口にアイスバーを突っ込んできた。
するとShiftさんはアイスを咥えながら元の席へ戻っていった。
確かに…このアイスを食べると…心が落ち着くっていうか…今さっき強烈な吐き気に襲われていたはずなのに…。
「なんですか?このアイス。」
「ポーションキャンディーとでも言うんですかね。新薬です。」
「新薬…ポーションキャンディーって…。」
味は完全に練乳だ。かなり甘ったるい。
「ありがとう、シンカ。危なかったよ。」
「ルナの調子が良くなくて、差し入れを届けるのに時間がかかっちゃったんですよ。」
「相当きてるよね。アレ。」
「無理もないでしょう。けど、これを少数で回せる凄さがタクミさんにはありますからね。」
「りき、大丈夫?」
「あ、うん。俺はもう大丈夫。」
「はーい、みなさん。差し入れでーす。」とシンカさんは飲み物やお菓子を大広間にいる人達にふるまった。
「ルナさん大丈夫かな?」
「うん?調子が良くないって体調が悪いとかそんな感じじゃないと思うよ?」
「え?あ、そっか。ここゲームの中だった。」
ゲームの中で体調が悪くなれば魔法だとか、薬だとかで治せちゃうんだった。
「僕が言うのもなんだけど、現実世界とゲームの世界を混同させちゃダメなんじゃない?」
「はは・・・そうだな。」
それからしばらくして晩餐がはじまって、その時のルナさんはいつも通りだった。
俺は人が少なくなってから自室に歩いて戻る。
人混みの中を歩くと誰かのゲートに引っかかってしまう事が度々あるからだ。ちゃんとゲートの設定を一人用にしておいてくれたらいいのに…。ゲートの設定はスマホ画面でかなりわかりやすく簡単に設定できるようになっている。開く前に一人用と多人数用と聞いてもらう事もできるっていうのに。
とぼとぼ夜道を歩いていると窓から月明かりが差し込んでいて、ふと窓に近寄って外を見てみると幻想的な夜景がひろがっていた。
ドタンっと音がなって、音のしたほうへ駆け寄ってみると、ルナさんが倒れていた。
「ルナさん!?どうしたんですか?」
「……りき。」
「何か呪いにでもかかってるんですか?」
どんよりとしたオーラがルナさんにでていた。気持ちが優れない事を指しているのは間違えない。
シンカさんは、まだ後片付けに時間がかかりそうだし…誰か…。
「ん?りきか?」と背後で声がして振り向くとリオさんだった。
「あ、リオさん、丁度良いとこに…実はルナさんが…。」と俺が今おこった事を言おうとすると、ルナさんはスタっと立ち上がった。
「ちょっと転んだだけよ。」
「転んだ?」
「ええ。」
「…………はぁ。報告したい事がある。部屋まで行ってもいいか?」
「かまわないわ。りき、ありがとう。転んだのは内緒にしておいてちょうだいね。」
「はい。」
ルナさんとリオさんは行ってしまった。
ルナさん…すごいな。決してギルド員の前で弱さは見せないっていう強さを感じられた。
さっきの事シンカさんに言った方がいいのかな。…まぁ、でも。
内緒にしておいてって言ってたし、気持ち的な問題なら大丈夫か。
ん?…あれ?リオさんの報告ってなんだろ?班でなんかあったのかな?
俺は自室に戻って護に確認をとってみる事にした。
部屋に戻ると護は、まったりコーヒーを飲みながら本を読んでいた。
「コーヒーか。自分でいれたのか?」
「はい。料理スキルに振ってるんで、わりと色んなものが作れるようになりましたよ。」
「へぇ~そうだったのか。」
「コーヒー淹れましょうか?」
「あぁ、うん。頼むよ。」って…俺コーヒー飲めたっけ。何故か、つい、言っちゃったけど…。
しばらくしてコーヒーが出されて飲んでみると、とてもしっくりくる味わいだった。
「あれ?俺…コーヒーなんて飲めたんだ。」
「はい?」
「いやー…実は飲めなかったんだ。いつの間にか大人になってたみたいだ。」
「飲めないって味が好まないって意味ですか?」
「あぁ。うん。ミルクとかそういうのをたっぷりいれないと飲めなかったんだ。」
「へぇ…。」
「って、あ!そうだ。護、今日、班でおかしな事なかったか?」
「おかしな事とは?」
「誰かが喧嘩しただとか、新しい子が見つかっただとか。」
「いえ、全然?」
「そうか。」
「どうかしたんですか?」
「いや、リオさんがルナさんに何か報告があるって言ってたから、班で何か起こったのかと思ってさ。」
「リオさんは、ラスカンアリーナで上位ですし、報酬とかの報告じゃないですか?」
「んー…でも、それはShift班に報告すれば良い内容だしなぁ。」
「そう言われてみればそうですね。まぁ、リオさんは一応古参組ですから色々あるんでしょう。」
「そうだね。あんま深く詮索するのはよくないか。」
「班で何かあったら、すぐに僕が報告しますから。」
「ありがとう。護。」
しばらくして、咲が帰ってきた。
「おかえり。どうだった?」
「楽しかった!!もー…眠たい…。」
「ははは…じゃあ寝ようか。」
二人で寝室に入ってベッドに寝転ぶ。
「はーーーーー…疲れた。」
「今日もランキング1位か。凄いね。」
「うん。もうみんな強くて、強い人と戦うのは楽しいかな。」
「そっか。報酬の報告だけ忘れずにな。」
「うん。」
「おやすみ。咲。」
「おやすみ、りき。」
そして俺は眠りにつく。
また変な夢の中だ。
ここはどこだ?デスク…ここで俺は何を?
コトっと傍にコーヒーが置かれた。
「ありがとう。」と俺とは違う、少し低くて渋い声。
あぁ・・・この体は俺じゃないのか。
コーヒーを啜ると、さっき護に淹れてもらったコーヒーと同じ味がした。
「陽子が淹れたコーヒーはうまいな。」
「りき…?今なんて?」と耳元で陽子の声がした。




