【ラスカンアリーナ】
ラストカントリーの新ダンジョン通称「ラスカンアリーナ」は大人気コンテツとなって、その動画を現実世界で見た新規ユーザー熟練ユーザーがラスカンアリーナに行くために【リアル】世界の旅に出る人が急増している。
途中襲われたりしないように、ミルフィオレの大多数が護衛任務についたりだとかしてギルドハウスはほとんど人がいなくてシーンとしている。
で、俺は咲がラスカンアリーナにハマってしまったせいで、ギルドハウスで留守番。
咲は能力値、武器、防具の全てが固定されて制限されたバトルに出ていた。チート性能が通じないPSと知略のみのバトルであれば目立っても大丈夫だろうとの事で…。
けれども、ランキングは1位だったり2位だったり、基本的にダリアさんのAIアキさんと咲が争っていた。
みんなが出払っているせいで、最高幹部3人とShiftさんの班は、箱詰め状態でギル員の管理にあたっていた。
特に箱詰め状態になっているのはShiftさんの班で大広間を占領してギル員達の日誌をまとめていた。
「あー…ちょっと、りき?」と突然背後から女性の声がして振り返ると川野さんだった。
川野さんはゲーム中では 卍黒大天使卍 という名前だ。
「黒さん。どうしました?」
「どうせ暇なんでしょ?ちょっと手伝ってよ。」
「えっと、何をすればいいのかな?」
「書類の仕分け。」
大広間に入ってみれば、テーブルの上は散らばる紙の山で…。
「はい、これ。」と黒さんに渡されたのは、黄色の付箋だった。
「へぇ…この世界、付箋なんてものまであるんだ。」
「それを新BMの討伐日誌の紙につけていってほしいの。」
散らばる紙はどんどん大広間の天井のブラックホールみたいな穴から降ってくる。
床に散らばっているのをとりあえず机に乗せる係と、赤い付箋をつけて回る人だとかいる。
Shiftさんはゴーグルのような眼鏡をつけて、まわりにはたくさんのホログラム画面を展開して、イライラオーラを纏いながら集中して作業をしていた。
東屋さんもShiftさんと同じような状態でどんよりオーラを纏って作業をしていた。
この世界、イライラだとか憂鬱だとかになるとオーラやエモーションが自動ででてしまう。
俺も今少しだけ目の下にどんよりとしたエモーションがうっすら浮かびかけている。
とりあえず、書類を見て…仕分けするか。
ずっと立って仕分けしていたせいで疲労バフがついてしまった。
「お疲れ様です。差し入れです。」とシンカさんが大きめのアイスがのったメロンソーダのようなものをみんなに配っていた。
俺もそれをもらって、飲んでみると事務作業で疲れていたデバフが全て消え去ってスッキリ爽快になった。
「通称 魔剤。」と、いつの間にか近くにいた東屋さんが呟く。
「はい?」
「これ飲んで一生働けって言われている気分だ…。」と、再びどんよりとしたオーラを纏って作業に戻る東屋さん。
そういわれてみれば…そんな気がしてきた…俺もどんよりオーラがうっすら浮かびあがってきた。
晩餐の時間になって作業は一時中断。
大広間はすっかり作業部屋になってしまった為、王宮広間の方で晩餐が行われた。
今日の成果をホログラム画面で映し出された。
ラスカンアリーナのランキング1位にリオさんの名前があった。
「リオさん、1位じゃないですか!」と隣に座っているリオさんに声をかけた。
「ここの最高幹部達が出場してないからな。よそも恐らくここと同じで幹部は情報処理にあたっているようで強い奴がいなかった。」
「そうなんですね。」
「【リアル】では誰が一番なんでしょうね。」
「俺の予想では…ダリアさんだと思っている。戦いにおいてはな。」
「へぇ…。」
「ラスカンアリーナだけじゃなくて、闘技場の武器防具能力値固定の大会で優勝してるからな。」
「あぁ、そういえば能力値固定ユーザーのみの試合。ダリアさん1位でしたね。」
「俺は武器や防具に頼ってるところがわりとある。純粋なプレイヤースキルで言えばまだまだだ。」
「いやいや、そんな。」
「この後、時間あるか?」
「この後ですか?一応空いてますけど。」
「一戦やるか。」
「えぇ!?リオさんとですか?」
「あぁ。」
晩餐が終わった後、俺とリオさんは練習場に移動した。
「なんだか最近バトルしてなかったんで、緊張します。」
「始めるか。」
練習試合が申し込まれてバトルのカウントダウンが始まった。
このカウントダウンを見るのも久しぶりだ。
俺はタクトを構えた。
カウントダウンが0になってすぐに、俺が何も言わなくともハナビがマグマプールの詠唱をはじめた。
ハクもリオさんに斬りかかった。
すると…なんとリオさんも音で避けるタイプらしく、ハクの攻撃がかわされてしまった。
「なるほど。見えない斬撃…か。」
リオさんは勢いをつけて俺に斬りかかろうとするが、ウォールによってそれは阻止されてしまう。
さらにフゥが風を起こしてリオさんを吹き飛ばした。
そういえば…俺の小人達の装備も新BMからドロップする素材でグレードアップさせたんだった。
威力が今までと比べものにならない気がする。
ハクとフゥを巧みに使って、マグマプールまでの時間を稼ぐ。
「マグマプール詠唱完了。」とハナビに言われて、「頼む。」と指示すれば、あっという間に練習場はマグマで満たされていく。
しかし、リオさんは黒いマントを翻してマグマプールを吸収していった。
「は…はい?」と俺が驚いていると「りきさん!あのマント…恐らくAIを混ぜられた形跡がみられます!」とエイボンから情報が入った。
「悪いな。」とリオさんが再び真っ黒な大剣で俺に斬りかかろうとする…がウォールが止めてくれた。
「リオさん…マントにまで?」
「装備を見せた覚えはないが……こんな性能のマント他にないだろうからバレはするか。それよりも…この壁はいったいなんだ?」
「リオさんと似たようなものですよ。」
「そうか。なら…。」
リオさんは俺から距離をとって大剣を地面に突き刺した。
「召雷!!」と詠唱すれば地面から黒い電流が迸る。足元の地面に亀裂が走って当たるとわりと体力が削られる。
フゥの風の力を借りて、体を宙に浮かせてしまえば避けはできる。
「黒巫女。」とリオさんが呟いた。
今度は何がおこる?地面に突き刺さっていた大剣が突然人のカタチになりだした。
真っ黒のベトっとした髪…そして人外の白い肌…顔は髪の毛で隠れて見えない…なんだか井戸の中から出てくる有名なお化けを連想させるような見た目だった。
黒巫女とはこれのことなのかな?
にょきにょきと俺のほうまで伸びてきて、俺に手を伸ばしてくる。
割れた赤い爪が痛々しく見えた。
ウォールが前をはってくれているのにそれを透過して俺の首をギュッと絞めてきた。
そしてチラリと黒い目が…血走った目が俺を見る…
「ユルサナイ…。」と耳元で囁かれた。怨念が発したような声だった。
………これ、もしかして…幻覚?
俺は苦しいながらも、ハナビとハクに挟み撃ちでの攻撃指示をだした。
ウォールにも外れてもらって頭上からのタックルをお願いした。
3方向からの見えない攻撃にさすがのリオさんも対応しきれず、俺は無理やり勝利した。
その瞬間黒巫女も消えて息が楽になった。
「ハァ…ハァ…死ぬかと思いました。」
「三方向からの見えない攻撃…か。今後の参考にして対策を考えるとしよう」
「すみません。あまりにも苦しくて…ちょっと強引に勝ちに行っちゃいました。」
「まさか、一戦で黒巫女を見抜くとは思っていなかった。」
「リオさんってガチガチの戦士に見せかけて幻術と魔法を使うタイプだったんですね。」
「他言無用だ。」とリオさんは少し微笑みかけてくれた。




