【心の痛み。】
「ぐあぁっ!!!うっ……ハァ…ハァ…ハァ…ううっ!!!」
俺は時々、激しく苦しむ時がある…。
誰もいなくなった時、一人になる時間、誰かと喋っていないとこうして発作のように胸の苦しみが襲ってくる。
何か物理的な痛みがあるわけじゃない。ただ…胸のモヤモヤがきつくて…ぎゅっと締め付けられるかのような感覚で…死にたくなる。
終わりたい、辞めたい…こんな世界、いますぐにログアウトしたい。
「ぅぅぅ…っ!!!あ゛っ……あ゛ああっ!!」
ぐっと胸を抑える。俺の視界に強制ログアウトのテンカウントが出てカウントしだして5秒前くらいで引っ込んで、またテンカウントが始まったりする。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・」
俺は今まで試合してきた人や、傷つけてしまった人達が脳裏に浮かんで、その人達に謝罪をし続ける。
届きもしない謝罪。
「りき…さん?」と声がして振り返ると、シンカさんが寝室のドアをあけて立っていた。
「あ…ハァ…ハァ…ハァ…シ…ンカさん…。」
シンカさんに声をかけられてやっと胸の痛みが治まった。ドサっと音を立ててベッドに寝転がった。
「どうしたんですか?呪いか何かですか?」
「今まで…俺がズルして勝ってきた事とか、真相を探っちゃいけない事件だとか…頭をよぎると発作みたいに胸が苦しくなって…どうしようもなくなる時があるんです。」
「いつから…ですか?」
「隠しアプデがくる少し前くらいからですかね。でも誰かが隣にいる時は考えないでいられるから発作が起こったりとかしませんよ。」
シンカさんが上にドサっとのってきて「ぐえっ!」と声が出てしまった。
「りきさん、一人にならないように誰かつけときましょうか?」
「いや、いいよ。そんな事したら咲に怒られそうだし。」
「そういえば咲さんはどちらに?」
「あぁ、リオさんとクリュードが所有してる町へ行ってもらってます。俺は留守番なんです。」
「ん?そういえばそうでしたね。」
やっぱりだ…。このシンカさん。少しいつものシンカさんと雰囲気が違う…気がする。
「シンカさんって…二人いるんですか?」
「は?」
「俺がいつも接してるシンカさんは、何か言うと真っすぐ視線をこっちに向けて喋るんです。でも今のシンカさんは何か言うたびに一瞬視線をそらしてから話すんです。…現実世界の午前中…日が暮れるまではアナタだ。」
「気づいてるのは…ルナだけかと思ってました。完璧にやってるはずなんですけどね。ご指摘ありがとうございます。」
あっさりと答えるシンカさん。
「シンカさんって…何なんですか?」
「え?AIですよ。AI。自分はこの体の主。セーレに育成されたAIは自由に体を移動できるんで、まぁ、成長しきってるAIに憑依は無理ですけど、タマゴの頃からセーレの魂が入り込むと…こうなります。本来ならセーレはNPCと塔のモンスター役の使命をもって作られるものなので、その名残りで自由にってとこですかね。」
「あれだけ隠そうとしてたのにあっさりと…。」
「少しでも、減ればと思って。」
「何がですか?」
「りきさんの心のつっかえです。あんな苦しみ方…見てられませんよ。まぁ、セーレのシンカはいつまででも見てられそうですけどね。」
「セーレの方のシンカさんって今どうしてるんですか?」
「知りません。いつも現実世界の夕方になるまで戻らないんです。」
「そっか。」
まぁ、色々ハッカー的な事ができるみたいだし、色んなところで何か探ったりだとかしてるんだろうな。
「内緒ですよ。言えば多分…ここ追い出されそうですし。」
「あ、うん。もう話さないよ。ありがとう、教えてくれて。」
「いえ。中身が二人いても自分は自分なんで。」
現実世界の昼、一度ログアウトして昼食のチャーハンを作っていた。
なんか…シンカさんの正体を知っても特に動揺しなかった自分に驚いている。
そうだろうな…と思っていた事が多々あったせいでもあるけど、じゃあ護も二人いたりするのかな。
でもそれを聞くのはとても嫌な感じがするから聞かないけど。
本当にとんでもないゲームだな。【リアル】って。
どこからの部屋の扉がバンッとなって、姉が真っ青な顔をしてできた。
「りき、どうしよう。」
俺は一度火を止めて姉の方へ向く。
「どうしたの姉さん。」
「お爺ちゃんとお婆ちゃんが行方不明みたいなの。」
「え?…。」
「それだけじゃないの、お爺ちゃんたちが住んでる村の70歳を過ぎた人たちが集団で行方不明になってるって…。」
「なんだって!?父さんに連絡は?」
「一応メールはした…したけど…。」
この70歳を過ぎた人たちの集団行方不明はこれが初めてじゃない。SNSだとか【リアル】の中で話を聞いていると何件も起こってそうな勢いだった。
「警察に捜索願を出そう。」
「うん…。」
昼食をとった後、姉さんと警察に捜索願届けを出して、色々して戻ると【リアル】にログインできたのは夜だった。
俺は晩餐で隣の席にいる咲に問う。
「咲、集団で行方不明になるのって…やっぱり。」
「うん。間違えないと思う。」
「でも何のために…。」
「りき、今は考えないで…。」
「あ、うん。そうするよ。」
俺にできる事は考えないで突き進む事。
それが一番の解決方法なんだ。
いつもの事…いつもの事だ…。
「りき?」とシンに声をかけられた。
気が付くと晩餐は終わっていて、咲はジャンさんと話し込んでいた…。
「シン、どうした?」
「顔が青くなるエモーションが発動してる。」
「え…あ。」
「何かあった?」
「うん、俺のお爺ちゃんが行方不明になっちゃったんだ。」
「お爺ちゃん?」
「俺の父さんの父さん。まぁ、わかりやすく言えば身内って事でいいのかな。」
「身内が行方不明か。そっか。」
「ちょっと、先に自室に戻って休もうかな。」
「うん。無理しないで。僕はしばらく手が空いてるから、何かあったら頼っていいから。」
「ありがとう。…おやすみ。」
俺が席を立とうとすると咲がそれに気づいて「ん?戻るの?」と聞かれた。
「あ、うん。先に戻っとくから喋ってていいよ。」
「わかった。」
廊下を1人で歩く間…また襲ってくる…胸のモヤモヤ…
内臓を締め付けられているような感覚に俺は跪く。
「ハァ…ハァ…ハァ…。」
クルシイ…イタイ…
どこが痛いんだろうか…胸を抑えても痛みは治まらない…。
あぁ…やっぱり一人になるんじゃなかった…でも、シンや咲に心配かけたくなかったし…
襲ってくる痛みに謝罪しようとした時…「りき!?」とシンの声がした。
シンが慌てて俺の体を支える。
「部屋まで送る。」
「ごめ・・・ん。大丈夫。どうしてここに…。」
「全然大丈夫じゃない。様子がおかしかったら、やっぱりついて行こうと思って。…それ、ルナもなってるから。」
「え?…ルナさんが?」
「時々…一人にするとそうなるんだ。りきも同じでしょ?胸がぎゅーっと苦しくなったりするって聞いた。」
「そうだけど…、なんか意外だな。」
「ルナは…千翠さんとかラートさんからの指示通りに動いてるせいで、やりたくない事とか言いたくない事とかたくさんあって…一人になる時…それを思い出して辛くなってるんだ。たくさんの人を傷つけてしまった時とか特に…ね。」
「そう…なんだ。」
そう言われてみれば確かにルナさんも…色々大変そうだ。
「りき、僕たち親友でしょ?もっと頼ってよ。」
「うん…。そうだな。ちょっと抱え込みすぎてたかも。」
「僕は…一番はルナの味方だけど…その次にりきの味方だから。」
「シン、ありがとう。」




