【クリュード事件の黒幕】
「ハァ…ハァ…ハァ…買ってきた!!」
クリュードが息を切らして帰ってきた。買ってきたAIのタマゴは百鬼夜行シリーズの玉藻前という九尾の狐だった。
「え?天使シリーズか矛盾シリーズじゃなくて良いのか?」
「俺ヴァンパイアだから、天使とか触れて副作用があったらこえーし。矛盾なんてシーウィーを戦いの道具に使う事になる…俺、そんなの耐えられねぇよ。」
「…あんな…3体も武器に混ぜといてよく言うよ。」と咲。
「あの結構強そうな武器…捨ててきたんですか?」と護。
クリュードの心に何かがグサグサと突き刺さる。
「いや、あれは…公式ショップで運営NPCに相談したら、運営に返すしかなくて、AIの契約切りすると武器が装備不可になって、そのまま渡した。」
「へぇ、そうなってるんだ。でも良く攻撃力6倍になれる武器を手離せたね。えらいえらい。」と咲。
「そんな事より!!早くっ…早くシーウィーを戻してくれよ!!」となんとも言えない顔をするクリュード。
「もう無事に移し終えましたよ。」と護はゆっくり体を起こした。
「ご苦労様、護。」
「ご苦労様じゃないですよ。何人か似た名前の人がいて、最初は無理だと思ってたんですよ?奇跡的に……いや、シーウィーさんは身籠っていたんで、隣に小さな命が並んでて…その命の発生源を調べたらクリュードさんの名前がありました。」
「え!?なんだって?…このゲーム、子供も作れるのか?」
「一応作れるようになってるよ。知らなかったの?」
「え、全然知らなかった。」
「シーウィー…シーウィー…。」とAIのタマゴに話しかけるクリュードさん。
「りき、エイボンを使えば、タマゴの声を伝えられると思う。」
「え?そんな事もできるのか。」
俺はエイボンを出してタマゴの言葉を聞いてもらった。
「クリュード…私、これでずっとあなたの側にいられるのね。」とタマゴが言ってたらしいのでそれを伝えた。
「あぁ!あぁ!間違えない!シーウィーだ…NPCはユーザーより遥かに寿命が短いから、それをずっと気にしてたんだ。けど俺は…なかなか、あの武器を手離せなかった…シーウィーがいなくなって初めて手離せた。……こんな俺でも一緒にいてくれるか?」
「なかなかのクズね。」と咲。
「さ、咲…。」と俺は汗をかく。
クリュードに厳しい咲だけど、ちゃんと救おうとしてるんだよなぁ…。
「ううん、私が側にいたいの。」と言ってます、とエイボンに言われてそれをそのままクリュードに伝えた。
「シーウィー!!」とクリュードはタマゴを抱きしめた。
「りき、行こう?不眠バフ溜まってるし。」
「あ、うん。」
俺達は無事にアトランティスに入ってギルドハウスに向かって歩き出した。
暫らく歩いていると咲がピタリと足を止めた。
「りき、この事件には黒幕がいると思う。」
「え?黒幕?」
「うん、護はどう見てる?」
「・・・僕は、今のところ千翠さんって線は無いなとだけ確信してるだけですね。千翠さんのデータを盗める誰かだとは思ってますけど。」
「そうだよね。ラートかルナかよね。」
「ラートさんはないですよ。ルナさんにはとてもそこまで考えられそうにないですし、あるとすれば…シンカさん、じゃないですか?」
「シンかシンカで…シンはりきと仲が良すぎるからこんな残酷な事したりしないもんね。やっぱりシンカだよね。色んな権限も持ってるし。」
「はい。シンカさん以外ありえないかと。」
「え…そうなのか?なんの為に…。」
「それを今から問い詰めにいくの!」
(…正直眠すぎるからもう寝たいんだけどな。ていうかクリュードが可哀想で救ったわけでもなさそうだ。)
「でもなんでシンカさんってわかるんだ?」
「それは…まぁ、色々護に変な事吹き込んでたからね。」
「変な事…?」
しかし…アトランティスの門からギルドハウスまで結構距離がある…これ何分かかるんだろ…歩いても歩いてもギルドハウスに近づいてない気がする。
「あの…この距離どうにかならない…かな。」
「僕も思ってました。飛びましょう。」と護は美しい背中の羽をバァサッと広げる。
「うわぁっ!!」
護は俺をひょいっと持ち上げて飛び始める。
「咲さんは、一人でもいけますよね?」
咲はスマホをいじって、ふりふりのレースのついた傘をとりだして広げるとフワっと体が浮いて、俺達に追いつく。
「いつの間にそんなの買ったんだ?」
「うっ…可愛くてつい…。まさか護に知られてたなんて。」
「丁度僕もオレオと買い物に来てたんです。」
あっという間に俺達はギルドハウスの前に到着した。
ギルドハウスの入り口の前にはシンカさんが立っていた。
「意外と早かったですね。」とシンカさん。
「探す手間が省けた。クリュードの件、どういう事?こっちがペナルティぎりぎりだってわかってるよね?」と咲がシンカさんの胸倉をつかんだ。
「ちょっ…さ、咲!?」
俺は急いで咲を止める。さすがに胸倉使うのはやばいって!!
なんとか、咲の手を止める事ができた。
「はい、まぁ。りきさん達が負けるわけありませんし、それにクリュードに恩を売れたのなら、町は返しますって。」とシンカさん。
「なるほど、クリュードに恩を売って完全に此方側に引き込みたかったわけですか。寝床を一緒にして、わざわざ悪い知識を色々と吹き込んでいくもんですから、おかしいなって思ってたんですよ。」と護は笑う。だけど目が笑っていなくて少しこわい。
俺が一番怒りたいところだけど…二人が殺気を放っていて、凄く冷静になれてしまった。
「良くわかってるじゃないですか。全て良くなったんでしょ?なら良かったじゃないですか。彼女さんの寿命ものびて…こっちは恩を売れて…素晴らしい活躍じゃないですか。」とシンカさんはパチパチ手を叩いた。
「素晴らしい?…りきの心を一瞬でも悲しませて良くそんな事が言えるね!!」
「シンカさん。これも必要な事…だったんですよね?」と二人のおかげでやけに冷静になれた俺はシンカさんに問う。
「もちろん。」とシンカさんはニコリと笑う。
「なら、俺からは何もありません。」
「りきさんの部屋に軽食をおいてます。よかったら召し上がってください。」
「ありがとうございます。」
俺は咲の手を握って自室にもどった。
「どうして何も言わなかったの?」
「ちょっとだけ…少しだけ必要な事だったかもって思えたから。咲はどう?」
「必要かもしれないけど、りきが傷つくのは…嫌なの…。」
「ははは。ありがとう。」
自室に運ばれていた軽食を食べ始める。
「僕も、りきが傷つくのは…あまり好ましくない…ですね。」
「護…ありがとう。ごめんな。」
普段、ほんとに無口な護にそう言ってもらえたら心が楽になるよ。
クリュードの件は確かに心が痛いけど、これも必要な事だし…慣れていくしかない。
食事が終わって俺達がベッドに入ろうとすると、ガチャっとドアが空いて振り返ってみるとシンカさんだった。
「ふぁーあ。おやすみなさい。」と何事もなかったかのように護の部屋へ入っていった。
「りき…すみませんが…しばらく一緒に寝ても良いですか?」と護。
シンカさんが護の部屋に入って、めちゃくちゃ嫌そうな顔をしていた。
「あ…あ、うん。いいよ。」
久しぶりに3人川の字になって眠る。
クリュード…大丈夫かな。寝るとこ…あるのかな。
そういえば…昨日、姉さんがお爺ちゃんに連絡がつかないっていってたけど…ついたのかな…。
まぁ、現実世界に戻るのは随分と先になっちゃいそうだけど、戻ったら聞いてみよう。




