【サイレント実装。】
次に竜巻を起こすBMがPOPしたのは8時間後だった。
咲は春風のタクトを使って、わずか10分で倒し切ってしまった。
「なっ…ほんとうにただのAIか?」とクリュードさんは酷く青い顔をして驚いていた。
「うん。ただのAIだよ。」と咲。
「じゃあ、次はどうしようか。」
「次にPOPするまで俺の国で休んだらどうだ?」
「あぁ。そういう訳にはいかないんです。POP時間を測ってるんで、何体か狩るまでここを離れられないんですよ。」
「そ、そうか。そうだよな。どこか甘く見てたな。」
「次は僕が行ってもいいですか?行動パターンを把握しておきたいので。」と護。
「あ、うん。俺と咲じゃ、読み取る前に終わっちゃうもんな。毎回ごめん。」
「気にしないでください。わりと楽しいんで。」と護はうっすら微笑む。
次にBMがPOPしたのは10時間後、俺らはその間付近にキャンプを作って適当に休んでいた。
「いけるか?護。」
「はい、問題ありません。タイマーの方よろしくお願いしますね。」
「うん、わかった。」
一応俺はエイボンを使ってBMを見張る事にした。
護がBMに近づこうとすると、風の魔法を使って大きな龍を作っていた。風の魔法は基本的に緑色の魔力を使うから風にその緑色の魔力が混ざって魔法の風は基本緑色に見える。
あのドラゴンの正体はただの強力な風魔法ってことか。
それにしても護の飛行術は凄くて、突風をちゃんと見極めて飛んでいるというか、風の流れを把握してるかのような鋭い飛行をしてBMに近づいて魔法を詠唱して大きな竜巻の中にぶち込んで竜巻を火の渦に変えた。
ダメージが通ってるようだ。背後から緑色のドラゴンが護を襲う。護は防御の為に火柱の壁を背後にたてる。
けど、大きな火の竜巻から緑色の刃のようなものが飛んできて護の腹を裂いた。
「なるほど…見えました。」
護は火柱を解いて全方向に手から毒々しい赤黒い色の炎のようなものを炎の竜巻に突っ込んだ。
それを何度も何度も続けてると緑の龍の動きが止まった。
竜巻から緑色の妖精が出てきて、護はその妖精目掛けてさらに毒々しい色の炎を突き刺して止めをさした。
周辺の竜巻が消えるたと同時にタイマーを押して次のPOP時間を測る。
俺は急ぎでスゥに護の回復をしてもらった。
「見えました。最初タンクがあの竜巻の中に剣や大剣で突っ込んで緑の龍を引き付けて、アタッカーがその隙にBMを殴るって感じですかね。タンクは常にヘイトがくるようにBMに色んなスキルをぶち込む必要はありそうですけど。」と護が狩る方法をざっと出してくれた。
「じゃあ次、3人でやってみようか。」
「…俺も入れるか?」とクリュードさん。
「そうですね、その方が良いかもしれません。俺がタンクやるんでアタッカーやってもらっても大丈夫ですか?」
「ああ。それと、そんな丁寧に話さなくても良い。気軽にクリュードって呼んでくれていい。」
「クリュードって…呼び辛いな。スクショって結構大きなギルドだし…俺なんてほんと最近復帰した新人っていうか…プレイ時間も少ないし。」
「……俺は3年前にプレイした。最初はギルド【ELL】に入ってて、1年前に俺は抜けてギルドを立ち上げた。……ログアウトができなくなってからな……。」
「え。ログアウトできなくなったんですか?」と俺がクリュードに聞き返すとクリュードは大きく目を見開いた。
「な、え?……ログアウトできないって聞こえたのか?」
「聞こえたよ?」と咲。
「はい。」と護。
「そんな……ログアウトできない事を誰かに言おうとすると毎回言葉が通じなくなってたのに…。」
「詳しい事は言えないけど、今はそういうの緩いみたい。」
「そうなのか!!!じゃ、じゃあ…俺を助けてくれよ…。俺、軽い気持ちでバトル王になって…給料もでるっていうから、ゲームしながら給料がでるとか最高だと思ったんだ。でも、でも違ったんだ…。信頼できるAIも武器に混ぜちまって俺は一人だ。」
咲は突然クリュードを殴り飛ばした。心配で駆け寄って見てみると、気絶していた。
「どうしたんだ?」
「…虫唾が…走っちゃった。AIを大事にしない人はあんまり好きじゃないから。」
「僕はちょっとすっきりしました。」
「うん、まぁ。そうだけど…気絶は可哀想だ。」
気絶するほどだから相当痛かっただろうな…。
しばらくしてクリュードは目を覚ました。
「……俺‥。」とクリュードは咲を見るなり、ビクっと脅えてしまうようになった。
「一つ言っておくけど、AIは体はないけどちゃんと生きてるの。それを混ぜたアンタは人として最低だよ。一生ログアウトできなくていい。罪をここで償えばいいよ。」と咲。
「まぁ、まぁ。」と俺は咲をなだめる。
クリュードは大粒の涙をボタボタと流しはじめた。
「はぁ。とりあえず、今はログアウトできない事に関しては数件知ってるけど、誰一人無事にログアウトできてないんだ。あ、でもヒルコさんってどうだったんだろう?」
「ヒルコは特別よ。現実世界でそこそこ力のある人だから、この世界に閉じ込める事はできないよ。」と咲。
「俺だけじゃ…ないのか?」
「うん、残念だけどみんなが苦しんでる。」
「…お前のとこのギルドが欲しい情報って多分。俺がヴァンパイアかどうかだろ。」
「え!?ヴァンパイアだったのか?」
「ああ、ログアウトできなくなったと同時に見た目を変更できなくなった。日の光をまともに浴びると頭痛がするようになった。それから…魔力回復はPOTとか睡眠とかで回復されないんだ。他人を噛むと噛んでる間ソイツの魔力を吸い取って回復する。で、1週間くらい前から俺に噛まれた奴はヴァンパイアっていうスキルが表示されるようになった。自由にポイントをふれるそうだ。俺は…何度リセットを押してもヴァンパイアスキルがMAXになった状態だけどな。」
「なるほど、てことは大型アップデートがサイレント実装されてるって事か。」
「りき、とりあえず千翠に報告メールした方がいいと思う。」
「あ、うん。」
俺はホログラムキーボードを取り出して千翠さんに今もらった情報を打ち始めた。
「大型アップデート…そうか。さすがミルフィオレだな。情報が鬼早い。」
「ヴァンパイアって何ができるんです?」と護。
「夜だと翼が出せて自由に飛べる。それとステータスと攻撃力が2倍になる。日が出てるうちは日傘をさしてないとまともに動けやしないから夜限定で強くなれるってとこか。」
「2倍はデカイね。でも魔力の回復方法が辛すぎるなぁ。他人から摂取しかないなんて。」と咲。
「ああ。ヴァンパイア同士では魔力の回復が無理で俺のギルドの副官一人はもうヴァンパイアスキルにふって…なかなか頼める奴がいなくて魔力空っぽで過ごす日とかある。」
「国の防衛戦とか大丈夫なんですか?」と護。
「ああ。空っぽでも攻撃力は二倍なわけだし、近接系は魔力を使う事がないからな。」
「なるほど。でもヴァンパイア状態を解除できないって辛そうですね。望んでもないのに。」
「そうだな。もう慣れたけどな。」
その後【リアル】内3日間、風を使うBM攻略に時間を使った。
倒し方を色々考察して、そこそこ強い人がちゃんと普通に倒せるやり方をみつけて、実際に倒せるようになって、この依頼は達成された。
クリュードはいつでも遊びに来いって言ってくれて、ギルドに帰ってみると千翠さんに期待以上の仕事をしてくれたと褒めてもらった。
ヴァンパイアのサイレント実装。なかなか大きな出来事だった




