【大いなる目的の為に。】
ヴィーが目覚めたのは三日後だった。
彼女が目覚めてから分かった事は、チュートリアル学校に入る前に別の学校に行っていたらしい。そこを卒業してからチュートリアル学校に入ったと教えてくれた。
国や町を回る授業で外へ出た時、綺麗な光る緑色の玉があって、それを夢中になって見ていると学校の仲間と外れて、とりあえずその玉の方へといってみると気づけば暗くて寒いところにいたらしい。
つまりあのタマゴの中だ。
これをヴィーから引き出すのに練習試合をヴィーに申し込んで、あれやこれやと技をかけて聞きださなければならなかった。
俺には刺激がきついからとその間は部屋を追い出されていて、終わってからユナさんに聞かされた。
シンから聞いた話だけど、あの荒れた町は元々現実世界時間で約一ヶ月ごとにバトル王NPCが変わっていて約一ヶ月事に変わる街並み。
NPCには寿命がある。彼らにとって、【リアル】での1日は現実世界時間の1日。酷い時間圧縮が起きた日には今日喋ったNPCは明日になると老衰で亡くなっていたり、遥か昔の存在になっていたりする。
まぁそれも、大型アップデートがくれば少しだけ緩和されるらしいけど…確か24時間が96時間になるんだっけ…。
ヴィーみたいな子がこれから増えてきてしまう事を思うと、早くこんなゲーム終わらせる必要がある。
このゲームが終わったら…みんなどうなるんだろう?
咲は世界がガラっと変わるって言ってたけど、いまいち小さい頃の事なんて覚えてないから想像つかないな…。咲のスパルタ授業のおかげで歴史は一応ほとんど頭には入ってるけど…。
咲はしばらくの間、ヴィーに町作りに関するノウハウを叩き込む為シンの部屋でほぼ付きっ切りで勉強を見ていた。
その間俺は自室でシンとのんびり雑談して過ごしていた。
「そういえばリオさんは?」
「リオさんは荒れた町で図面書いてるはず。しばらくはあそこに配置させるから。」
「そっか。町作りって結構大変な感じなのか?」
「うん。ちゃんと配置しないとNPCが住みづらいからね。」
「そういえばNPC配置されないと何か不都合があるのか?」
「ある。ゲームのアプデ内容を掴んでるNPCがいたり、ランダムダンジョンのヒントを知ってるNPCがいたりするんだ。良い町を作んないとNPCが脱走して別の国か町に移住しちゃったりもするからめちゃくちゃシビアだよ。」
「奥が深すぎる…。国レベルになってくると管理とか大変なんじゃ…。ルナさんってどうやってるの?」
「副管理の権限を千翠さんとラートさんとシュガーさんと番人が持ってるから、それでなんとか回してる感じかな。」
「番人って?」
「うーん、番人についてはおいおいね。最重要機密の上をいく秘密でさ。」
「あ、いいんだ。話せない事は話さなくて。」
「うん、話さなくても勝手にそっちへいくのがりきだから後で知る事になると思う。」
「うーん…勝手にそっちへ行くって‥。」
「ほんとの事でしょ?」
「まぁ、うん。咲に上手い事誘導されてる感があるからね。」
「はっ…はははっ。ほんと尻に敷かれてるよね。」
「笑うなよ。」
最近のシンは良く泣くし良く笑うし…俺と喋る事で色んな感情が芽生えたのかもしれないな。
今回はまったりギルドハウス内で過ごして【リアル】を終えた。
現実世界に戻った翌日の夕方に陽子からムーンバミューダ社がやろうとしている悪事を少しだけ聞いた。
捨てられた子や親を早くに無くしてしまった子…虐待を受けてる子等をバミューダ社の施設で保護し、ゲーム内に入ってゲームを盛り上げる手伝いをしてもらう計画。
【リアル】内の学校に通って卒業した者は現実世界でも卒業資格を得られるようにする計画。
これを通してしまうと、【リアル】の中にずっと潜り続ける事になるから早くに寿命が来てしまうそうだ。
開発に携わっていた陽子は…これを止めつつ俺に【リアル】というゲームを楽しんでほしかったらしい。
だから何も言えずにいたみたいだけど、今回のヴィーを見て一刻も早く何かしないといけない気になった。
陽子は…俺の事を大事にし過ぎてて全部を打ち明ける事ができないみたいだった。
まぁ、どの道、あと一回負けたらペナルティになってしまうから大きく動けないという結論にいたってヴァルプルギスが終わるまでは大人しくルナさんの任務をこなしていく事になった。
それと…【リアル】が終わってしまうと、シンや護…仲良くなったAI達との永遠の別れが待っているという事を陽子に言われて…また心と頭がいっぱいになってしんどくなった。
シンとはもう…誰よりも仲が良い親友だ。失いたくなくて…。
でも、生きた人間が【リアル】に取り込まれるのは絶対にダメだしよくない。この先もっと被害者がでる…。いやだ…答えが…みつからない。
苦しい…まるで…ヴィーのように黒いドロドロの液体が俺に絡みついてるかのようだ…
【リアル内】
「どうしたの?何かあった?」とシンに声をかけられて、ふと顔をあげると自分の部屋で向かい側にシンが座っていて心配そうな顔をして俺をみていた。
「あ…あれ…俺…いつの間に【リアル】に…。」
「は?大丈夫?」と俺の心配をしてくれるシン。…シンが消えてしまうなんて…。
涙がポロポロと溢れ出してきた。……俺、泣いてるのか?…止まれ…止まってくれ!!!
「シ…ン…ごめ…っ…。」
バタンッとドアが閉まる音が聞こえた。
「りき何かあったの?」とシンは部屋に入ってきた誰かに問う。
「このゲームが終わってしまったら…シンや護とお別れする事になるって…言ったの。」と咲の声が聞こえた。
「あぁ。それで…。」
「俺っ…わからなくて。嫌だよ…シンを失うなんて…できない…。」
「僕は、りきの事が大好きだけどさ、それ以上にルナの事が一番好きで…僕が消えないとルナが消えてしまうっていうなら僕は喜んで消える。僕の願いはルナが解放される事だから。りきと離れるのは心が痛いし寂しいけど、歩みを止めないでほしい…かな。」
パタンっとまたドアの音がして護が入ってきた。
「りき、僕はセーレとして2、3年間縛られていました。ですが今こうして心の自由を与えてもらって、とても気分が良いんです。幸せになりました。僕みたいに縛られている人がいるなら助けてあげてください。その過程で僕を失ったとしても…一人でも多くの人に自由をあげてください。」
「俺…そんなに強くないよ…。できないかもしれない…。」
「その時はその時でいいけど、とりあえず僕は僕が消える事になっても、りきを恨んだりしない。むしろ世界の為にルナの為によくやったって思うし、友達として…ううん親友として誇らしい気持ちになるさ。」とシン。
「僕も同じですよ。」と護。
「大丈夫…りきならできるよ。私はいなくならないよ。」と咲。
「わかった。やれるだけやってみる。」
「りき!!」とシンが嬉々とする。
「うん…決めた。今から俺は誰がいなくなるとか…そういうの考えないようにするから…咲、俺が道を間違わないようにしっかり見ててほしい。多分咲は正解のルートを知ってても、咲がルートを辿る事は不可能で俺が辿って咲の変わりをやるしかないんだよね。」
「…うん。」
「りき、僕からも頼むよ。ルナをこの世界から救い出して。これが【大いなる目的】のひとつさ。ルナも相当悩んで苦しんで承諾したギルド方針なんだ。」
「そう…だよな。シンカさんとシンを何よりも大切に思ってる人だもんな。…辛いよな。」
俺は心に蓋をする。このゲームが終わるまで…不都合全てに蓋をするんだ。
【大いなる目的の為に。】




