【ラストカントリー】
現実世界で一ヶ月が過ぎた。
姉と陽子はとても仲良くなっていて、本当の家族みたいに馴染んでいた。
今は変わらず陽子と共に【リアル】の中にいる。
そして…【リアル】の中では相当な日数が経過しているのに護はタマゴのままだった。
色んなクエストをこなして、狩りだって死ぬほどやったのにどうしてタマゴのままなのか不思議で仕方がない。
コンコンと部屋をノックされる音が聞こえてドアをあけるとシンカさんが立っていた。
「え。珍しいですね。こんにちは。」
シンとはほぼ毎朝会うけど、シンカさんが訪ねてくる事なんてこの一ヶ月なかった。
「どうも。」
「え?シンカ?珍しい。」と咲も驚いて椅子から立った。
とりあえず、部屋に入って座ってもらった。
「何かあったんですか?」
「はい、今からする話はギルドの幹部とごく一部の人しか知らない事なんですけど、ギルド【ヒルデガーデン】の副官二人が失踪しました。」
「失踪?ゲームを辞めたってだけですよね?」
「いえ、現実世界では行方不明…だそうです。」
「は!?」
「え!?」
「シンカはそれをどう考えてるの?」
「恐らく…ヒルコのせいかと。現実世界で警察関係の仕事をしてる知り合いに掛け合って調査してもらってるんですけど見つからず…。」
「……ダメよ。警察はもう…落ちてる可能性がある。【リアル】で起きた事件は全て揉み消される。すぐに調査を辞めさせて!」
「え?」とシンカさんは目を見開いた。
「目を付けられたらアカBANをくらっちゃう。」
「アカBAN?」
「アカはアカウントの事。BANは英単語で禁止って意味。つまりアカウントを停止されるって事。」
「今回、自分が伝えたかったのは事件と、りきさん達は一度顔がバレてるので気を付けてほしいという事なので…自分は今から千翠にそれを伝えてきます。」
「それがいいと思う。」
シンカさんは立ち上がって部屋のドアから出ずにゲートを開いて部屋から出て行った。
「どうやら…ヒルコと決着をつけないといけない時がきたみたい。」
「え!?」
「急ぎでラストカントリーまで行く必要がある。ルナの力を借りよう?シンがラストカントリーの事知ってたから全制覇してるはず。」
「わかった。相談してみる。」
ヒルコとの決着をつけるには無限の魔力が必要で、その無限の魔力を作る為のアイテムがラストカントリーにある。
ラストカントリーに入る条件は全MAPの制覇。196ヶ所を廻る事。
なるべく自分の目で色んな国を回りたいと思ってたけど…仕方ないか。
…ルナさんに相談してみると…
「なら!空を飛ぶのが一番よ。シンカ、お願い。」
「え?」とシンカさんが眉間に皺を寄せて嫌そうな顔をした。
「シンは馬しかスキル上げてないじゃない。シンカだけなのよアレを扱えるのは。」
アレってなんだろう?
不機嫌そうな顔をしたシンカさんと俺と咲はアトランティスの外へ移動した。
それからシンカさんはスマホを操作してオープンカーを出した。
アレって車の事だったのかな?
「さっさと乗ってください。」とシンカさんはいつもより声低めだった。
俺と咲は車の後部座席に座った。
「あの…MAP確認しながら行くんでりきさんは自分の隣に。」
「あっ!すみません。」
俺は助手席に座り直した。
シンカさんが座ってハンドルを握ると…車が浮き、アトランティスが段々小さくなっていく…。
改めてアトランティスって凄い大きな国だったんだと感じた。
「じゃ、飛ばしますよ。りきさんのMAPを自分にも見えるように公開ホログラムでだしておいてください。」
「はい。」
MAPを出すと凄いスピードで移動していく。それはもうジェットコースターのようだった。
「おっ落ちる!落ちる!!」
「座ってる限り…落ちないんで…。」
「わぁ!!!すごーい!!!」
「ふっ…普通の車はないんですか!?」
「あんたら現実世界の人間が【リアル】と現実世界の区別がつかないせいでこうなったんでしょうがっ!!」と喋りながら急カーブを決めるシンカさん。
「まぁ、たしかにね。」
「どういう意味?」
「【リアル】での車は人をはねても死なないし、壁にぶつかっても壊れない…もちろん壁だって壊れない。でも…それに長く慣れてしまった人が数人…現実世界でも同じようにしちゃって人が死んだの。それから恐らく車を廃止して空飛ぶオープンカーを実装したってところかな。」
「なるほど。そんな事件が。」
「もちろん、メディアも落ちちゃってるから長くは報道しなかったけどね。」
この咲の言う「落ちる」はムーンバミューダ社に落ちたという意味。
つまり【リアル】関係の事故事件はほとんど報道されない。良いことしか…。
日本の政治家達の9割は落ちてるらしい。もうほとんどの国がムーンバミューダ化しているそうだ。
物価の値段もおかしくなりはじめているそうだ。そんな事全く気付かず生きてきた。
ふと隣を見るとシンカさんの顔が青くなっていた。
「え…どうしたんですか?」
「自分……車酔い…するんです。」
「むっ、無理しないでください!」
「急いで行く必要があるんですよね?…じゃあ大人しく座ってて下さい。」
MAPに視線を移すと…モヤモヤのかかったMAPがどんどん綺麗になっていき…色んな国や町が表示されていく。
すみません…シンカさん。
シンカさんのおかげでラストカントリーへのゲートが開けるようになった。
死にかけたシンカさんを置いてラストカントリーへのゲートを開いた。
「シンカさん、ほんとに大丈夫ですか?」
「……自分はゲートで帰るんで…気にせずどうぞ。」
「行くよ。」と咲が俺の手を引いた。
「うん。」
【ラストカントリー】
その国は…雪が降っていた。それからとても冷たい風が吹いていて…静まり返った寂しい雰囲気が漂っている。
「凄い違和感があるんだけど。」
「違和感?」
「なんだろう?何かがずれてるような?」
「あぁ。もしかして…風が吹いてるのに雪が真っすぐ下に落ちていってるせいじゃない?」
「あぁ!なるほど!!なんか気持ち悪かったんだ。」
「冷風と雪を一緒に作れなかったの。ここはまだ…そのままだったんだ。」
「作れなかったって…咲が作ったの?」
「プログラムを組んだのは別の人だけど、考案したのは私。知れ渡ると消されちゃうから…絶対に消されない隠し場所に作ったの。」
ビルや家…人がいなくなってしまった都市を連想させるかのような国だった。
「ここの国の王って運営?」
「うん。………ソルだよ。」
「・・・・。」
「センスない?」
「ううん、少し寂しい気がして。」
「でしょう!?現実世界の色んな国の都市を見て良い感じに合体させて誰がもが寂しさを感じる国にしました!えっへん!」
「またなんでそんな…。」
「誰も近づかないように。それでもここに住んでいる人はいるんだよ?」
「えっ!凄い不便そう…お店とかないし。」
「現実世界じゃないんだから、ゲートで飛べばすぐじゃん。」
「たしかに。」
「えっとね。わざと人が寄り付かないようにしてるの。盾の秘密を知られないように。億単位の人が持ったら流石にバレちゃうし。」
「そっか。」
しばらく歩いていると大きな桜の木がある丘についた。
こんな真冬設定に美しく咲く桜には違和感を感じる。
「この木がクエストボード。」
クエストボードはタッチすればクエストが発生するオブジェの事で桜の木がそれになっているようだ。
「このクエストは難しい?」
「うん。だからスケットを呼んでます。」
「スケット?」
桜の木の後ろからシンがひょっこり現れた。
「早くパーティー誘ってくんない?ずっと待ってたんだけど。」
「シン!」
「ここは精神汚染系だから、シンの力が必要になると思う。」
「正直、精神汚染はシンカの方が得意なんだけどね。今使い物にならなさそうだし。」
「そっか。さっき凄い酔ってたもんな。」
シンをパーティーに誘って加入を確認してから桜の木をタッチする。
クエスト内容はランダムで一人、幻覚を受けながら雪山を登るクエスト。
1人…だったら最悪担げばいいし、なんとかなるかな。
「ここの幻覚は覚悟して。僕は一応耐性はあるけど…。」
「ランダムで一人って記載だけど、一人の幻覚が終わったら次の人って感じで回っていくから頭に入れといてね。」
「わかった。じゃあ開始する。」
クエストが開始されて俺達は雪山の麓に立っていた。
「咲、マントをつけて。」とシンが指示して、咲はソロモンの塔で得たであろうマントをつける。
山を登り始めると…どうやら幻覚は俺からのようだった。
「声が聞こえるし、目が少し…かすむ。」
「りきからか。」とシンさんが僕の手を握って、咲も僕の手を握った。
「かかった人にはこうして手を繋いで誘導していこう。」
「そうね。」
登っていくと幻覚幻聴が酷くなっていく。
「お前は働いてもない癖に家事もまともにできないのか!」と父さんの怒鳴り声が聞こえた。
「じゃあ働くわよ!!」と母さんの荒い声が聞こえる…。
そうだ…母さんと父さんは喧嘩をして…この後母さんが働きに出て、家に帰ってこなくなったんだっけ。
それかもずっと父さんと母さんが喧嘩をする幻覚幻聴が聞こえ続けて、もうそれが嫌で嫌でたまらなかった。
耳を塞いでしまいたい。僕…良い子にするから…勉強だって家事だって…僕がちゃんとやるから!!
母さん…行かないで!!!
………遠くの方で声が聞こえる。
「りき!りき!しっかりして!!!」
「りき、声聞こえる?私の声を聞いて!」
誰の声だっけ。
頭の中にふわっとしたピンク色の髪の毛が浮かんだ。
それから僕に「いらっしゃいませ。」と微笑みかける。
そうだ…僕じゃない…今は……
「あれ、俺…何して。」
意識が戻ると麓はもう見えず、結構登ったようだった。
「焦った。足が動かなくなったから棄権になるかと思った。」
「もう、りき!!しっかりしてよ!!」
「ごめん。凄い心の傷をつつかれた。」
「チッ…そっち系か。」
「そっち系って?」
「幻覚にも色々種類があるの。楽しい幻覚とか悲しい幻覚とか。今回は心の傷をつつかれるような幻覚を見させられるって事。」
「相当キツイね。ゲームなのに。」
「うん、でも問題にならないとこまで世界はおかしくなってるから大丈夫!」
「それ大丈夫なの?」とシンが言うと、シンは大きく目を見開いて足を止めた。
「どうやら次はシンのようね。」
今度はシンを真ん中にして手を繋いで山を登っていく。
「幻覚を見てる間って、こんな風になるんだ。」
シンはぼーっと、ただ足を動かすだけの人形みたいになっていた。
「ずっと声かけたんだけどなぁ。」
「ごめん。」
「このまま山を登りきるわ。頂上にはあの桜の木があるの。」
咲とたわいもない雑談をしながらシンを引っ張て登り続けて、ようやく桜の木が見えてきた。
そこで、シンが暴れはじめて先端が太陽のカタチの杖をとりだした。
「幻覚が悪化したみたいね。」
「なっ!?シン!!落ち着いて!!シン!!!」
「裁きを。」
杖から光線が出て、俺と咲はその光線をよけた。
「シン!!!!」と大きな声で叫ぶとシンはピタっと動きをとめて武器を落とした。
「はっ…頂上?…りき!急いで咲の手を!!!」
シンは正気に戻ったようで、戻ってすぐ状況を把握して次は咲が幻覚にかかるとわかり、咲の手を繋ぐよう指示してくれた。
急いで咲を真ん中にして手を繋いで、半分引きずるような感じで登りきって、桜の木にタッチをしてクエストを終える。
クエスト達成の報酬画面が開かれる。
「なっ!?」
「えっ。何?」
「…盾…でなかった。」
「……まぁ、あるあるだよね。」
「もう疲労バフも空腹バフもかなり蓄積されてるから一回帰らないと。」
「えっ…気づかなかった。」
「色々と麻痺してるんじゃない?」
あのクエストはほぼ1日潰れてしまうのか。幻覚にかかっている間に結構な時間がたっていたようだ。
確かにシンが幻覚にかかっている間、かなり時間が経過していた。
「出るまでやるよ!」と咲が言う。
「うん。」
「僕も自分を鍛える為にも手伝うよ。」
それから6日間ラストカントリーのクエストをした。




