【僕と俺】
目を開けると自分の部屋で咲の姿はなかった。
昼の3時か。とりあえず、咲が戻ってくるまでタマゴの設定でもしてみようかな。
スマホのAIボタンをタップして護の設定を見ると一番下に【心の設定】という名前のボタンがあった。
通常押せるボタンはオレンジ色だけど、何故か灰色になっていて押せない。
護の設定は経験値と共に勝手に埋まっていてた。もちろん変更する事もできるけど、これってなんか強制してるようで気が進まないし。
得意というボタンをタップすると魔法と近接と遠距離と回復が選べた。これも好きな武器を使ってほしくて選べないし…。
コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「はい。」とドアを開けるとシンさんが立っていた。
「シンさん!」
「りき、久しぶり。」
「あ、そうだった。シン、久しぶり。」
そういえば敬語やめるって言って落ちたっけ。
「クスッ…何かしてた?」
「AIのタマゴの設定をちょっといじってたんだけど、うまく決められなくて。僕が決めちゃうと強制してるようで嫌だなって。」
「良かったら…僕もAIだけど、アドバイスしようか?」
「お願いしようかな。」
シンを部屋に招きいれて椅子に座ってもらった。シンにも見えるように公開ホログラム画面をだして護の詳細設定を開いた。
「うわぁ…。何これ。僕のと全然違うや。んー…あ。この得意ってやつ。選んどくと攻撃力か魔法力が上がるから選んでおいた方がいいんじゃない?」
「んー…魔法か回復か…。」
「魔法にしときなよ。回復は自分でも咲でもできるんでしょ?」
「あぁ、そっか。魔法にする。」
「あとは一番上に戻ってアビリティのボタン押してアビリティポイントを振るとか…ってタマゴだからまだポイントないしボタンすらないか。」
「あの、この心の設定ってなんですか?」
「これを押すと、別の真っ暗な空間に飛ばされてNPCが一人いるんだけど、AIになりきって質問に答えてくださいって言われて色々答えて埋めていく感じらしいよ。僕はそれを千翠さんに埋めてもらったんだ。」
「なるほど。もしかして心が決まってるせいで押せないのかな。」
「そうじゃない?シンカもそうだし。」
「色々灰色すぎてこれ以上設定できそうにないなぁ。」
「ほんとだね。」
「てことはクエストと狩りで経験値貯めるしかないのかぁ。」
「どんまい。」
「あ、そうだ。現実世界でイメチェンしてみたんだけど。どう?」
【リアル】に入る前に現実世界で僕は自撮りしてそれをゲーム内に持ち込んだ。
「うわ。一緒じゃん。あーでも、やっぱり僕らよりなんていうか…こわい。目とか。」
「あはは。だよね。」
色々写真を見てもらいながら現実世界の話をしていると咲が帰ってきた。
「あー!!!また二人一緒にいる!!」
「嫌ならピッタリくっついとけば?」とシンは高圧的な態度をとる。
「ぐぬぬぬ!!」
「お帰り、咲。何してたの?」
「それがね、現実世界で虐待されてるっぽい子がいて、色々話聞いてたのよ。エリィって名前の新人。」
「へぇ。じゃあその子ギルドから蹴ろうかな。」
「え!?なんで!?ここでみんなと遊ぶ事だけが幸せだって!!」
「…じゃあ、まず。虐待されてたらここログインできないんじゃない?親から離れられないって事は未成年の可能性が高いし、あとログインも現実世界の17時過ぎくらいだったはず。未成年だと保護者の同意書がいるし、それなりに良い回線も必要だし。」
「え、でも…そんな嘘ついて何のメリットが…。」
「可哀想…どうにかしてあげたいって…思ったでしょ?親に虐待されててお金がないの…とか言われたらあげちゃう男の一人や二人いそうだよね。」
「なっ!!!…そんな手が…。」
「僕騙されそう。」
「ほんとだ。りきは騙されてたかもしれないね。」
「ていうか、咲ちゃんさぁ。こんなのに騙されてたら大好きなりき君守れないよ?」
シンは笑顔で咲を煽った。
「シ、シン!」
「腹立つぅ!!!」
「まぁまぁ。咲。落ち着いて。」
「大人だから落ち着いてるし!!」
全然落ち着いてる顔してない…。
「じゃあ、僕はそのエリィって子調査しなくちゃいけなくなったから帰るよ。りき、またね。」
「あ、うん。」
シンは部屋を出て行った。
「咲、怒ってる?」
「怒ってない!…自分にちょっと怒ってる。簡単な嘘に騙されて…」
「色んな人がいるから慎重にいこう。みんなに嘘つかれても僕は咲に嘘つけないしそれだけで今はいいんじゃないかな。」
「その…僕っていうの。」
「ん?」
「僕っていうのシンと一緒で嫌。」
「え…えー…。」
「俺にして!」
「えぇ…長年僕だったんだけど、治せるかなぁ。」
「・・・。」
「頑張るよ。うん、俺…俺ね。」
僕このゲームのせいで人が変わっちゃうんじゃないかな。
それからソロモンの塔へ行って、帰ったら丁度晩餐で大広間のいつもの席に座った。
別のセーレさんは無口な人で話をしてみたけど、早く倒したら?と言われるだけで、倒そうとすると魔法で攻撃してきた。僕と護の出会いはもしかして奇跡に近いのかな。
「よぉ!りき!どうした?ぼーっとしてんぞ。」とシュガーさんが隣に座った。
「あぁー…えー…っと。あ、今日から一人称俺にするんでよろしくお願いします。」
「はっははは!どうした?いきなり。」
「色々ありまして…。」
「ログインするたびに色々変わっていくのな!面白れぇぜ。ほんと。」
晩餐が終わって、咲といつもの練習場へ行くとダリアさんがいた。
「あれ…ダリアさん?」
「今日こそ。勝つ。」
この人…もしかして…
背後からコツコツと足音が聞こえて振り返ると千翠さんだった。
「ダリア、今日のりきの相手を脅したそうですね。」
やっぱり。脅して対戦相手になったんだ。ダリアさんって何か凄いオーラというか圧というか。
見た目は凄い綺麗なのに。睨まれたりしたら「ヒィッ」ってなってしまう。
「どけって言っただけだ。そしたらどいた。相手がいないとダメだろう?」
「はぁ~…(深いため息)お前ねぇ…。」
「今日はちいろもミズホも武器化させてある。千翠をつけて2対2にしよう。」
「勝手しないでもらえますか?…はぁ…(ため息)今回だけですよ。」
「よし。」
ダリアさん、結構強引だなぁ。
「咲、いけそう?」
咲はとてもワクワクとした顔で「えぇ。いつでも。」と言った。
ダリアさんから練習試合を申し込まれて、僕…じゃなかった俺と咲は武器をかまえた。
「最初、避けないと武器解放できないから要注意。」
「誰にいってるの?当たらないから!」
カウントダウンが0になって速攻でダリアさんは咲目掛けて切りかかろうとした。
千翠さんが俺の近くにきて、爪で僕を切り裂こうするがウォールがガードしてくれた。
チラっと咲を見るとステッキを解放できてるようで安心する。
「私相手によそ見ですか。舐められたものですね。…ですが…そうですね。切った感触は鉄と言ったところでしょうか。武器の耐久具合を見てもほぼ間違いないでしょう。目には見えない盾…ですか。」
凄い。一度の攻撃でそこまで考えるなんて。
僕はハナビでダリアさんを攻撃し、ハクで千翠さんを斬りつける。
「ふむ、なるほど?見えない近接攻撃ですか。あっちは見えない魔法攻撃。」
千翠さんはスマホで眼鏡やモノクルや色々と目の装飾品をつけて見ようとするが見えないようだ。
「これもダメですか。興味深い。」千翠さんはダリアさんと咲の戦闘を見て「見えないAIがいると聞いてますが、音までは消えてないようですね。」と言った。
その瞬間からハクの攻撃が全て避けられてしまった。
「なっ!!」
千翠さんは更にハクを掴もうとするが掴めず。
「ふむ。そこにいたのは確かなのに実態がない…と。なるほど、ならば。」
千翠さんは黒いキューブの中にハクを閉じ込めてしまった。
「ハク!!!」
「ほう、これはハクという名前なんですね。やっと私にも見えました。白髪で、妖刀を持っている。」
「なっ!?どうして…。」
「あぁ、安心してください。私の知る限り、この武器を所持しているのは私とダリアのみ。実際に運営の出す使用武器調査でも2としか表示されてないのでほぼほぼ大丈夫でしょう。」
まさか、見えるなんて。どうにかしてハクを助けださないと…。
「りき!こっちは自分でなんとかするから!!ハナビを使って!」と咲に言われて、ハナビを使って千翠さんを攻撃する。
「このダメージ。それから傷の具合からして…魔法攻撃に【獄炎の書・冥】ですかね?」と笑顔で言う千翠さんに背筋がゾクっとした。
減ったダメージは回復されていて、ダリアさんの回復もしっかりとしていた。
恐い…勝てない…やっぱり僕じゃ…この二人には。
「そろそろ終わるな。」
「気持ちで負けたら…勝てない!!!最強の武器持ってるんだから勝てないとおかしいの!!負けるわけにはいかないの!!」
僕はその言葉にハッとしてスゥで咲の回復をする。
そうだ、僕は…僕じゃない俺は…勝たないと!!!
どんなにせこい手を使ってでも勝たないと。ハナビに大技を唱えさせた。
「ですが、見えないとやっかいですね?獄炎の書の大技をだしてくるかもしれません。」
『ウォール、千翠さんにタックルしてきてくれ。エイボンは千翠さんからくる魔法攻撃を無効化してほしい。』と心の中で指示をだした。
ウォールが千翠さんにタックルをすると千翠さんがそのまま押されて壁に激突する。
千翠さんの手の中にある黒いキューブが禍々しい炎で焼かれていく。
ハクが中からでてきて千翠さんを斬りつけた。
「っと。危ない。」と言って自分を回復する。
「なるほど?妖刀の特殊攻撃で焼いて武器の耐久値を減らしましたか。一つ、不思議に思っている事がありまして。どうしてりきさんは常にタクトをふっているのかという点でして。」
「あぁ、それは。俺が小人達に魔力を送っているからです。」俺は笑顔で答える事ができた。
なぜなら、ハナビの詠唱が終わって試合が終わるからだ。
ハナビが詠唱を終えて大きな大きな部屋を埋めるほどの炎の球体を作り出して千翠さんとダリアさんの体力を0まで減らして試合が終わった。
「これはやられました。」
「おい!!真面目にやらなかっただろ!」とダリアさんは千翠さんの胸倉をつかんだ。
「見た事もない攻撃にダメージをくらって、獄炎の書の大技詠唱中であろう事をすっかり忘れていました。」
「もう一回だ!!」
「ダリア、随分と倒すのに時間がかかっていたようですが、もっと早く仕留められていれば終わってたはずでは?」
「何がいいたい。」
「鍛え直せ…と。武器にばかり頼って本体の強さが少し鈍ってしまってるのではと。」
「チッ。」
ダリアさんは凄い怒ったような顔をして練習場が出て行った。
「ふぅ。」と千翠さんは一息ついた。
「大丈夫ですか?ダリアさん凄い怒った顔してましたけど。」
「本当の事を言われて突き刺さったんでしょう。あのまま大技無しにしてもあの体力の減りでは私は回復武器を持ったままで大技の攻撃に移ることができませんでしたし。連続回復ありにしてもダリアをあそこまで手こずらせる咲さんは凄いと思いますよ。」
「やったー!」
「俺はどうですか?」
「せこい。ですかね?」
その言葉が心に突き刺さり少し気が落ちた。
「私とダリアのペアに勝つのは相当凄いですよ。この調子で頑張ってください。」
「はい。」
「では私はこれで失礼します。」
千翠さんはゲートで帰っていった。
俺と咲も自室に戻った。
「咲、俺もっと頑張るから。」
「クスッ…やっぱり俺の方が似合うよ。」
「そう…かな?」
「うん!」




