【後味の悪さ。】
晩餐後…咲と共に練習場へ移動した。
「きたか。」と聞き覚えのある声が聞こえた。
練習場にいたのははやたんさんとイチカさんだった。
「あ…こんばんわ。」
「こんばんわ!さて、じゃあはじめよっか!」
「俺の相手は…やっぱり りき。お前だよな。」
咲はニッと微笑んでいた。
僕はタクトを構える。
2vs2の練習試合が開始した。
真っ先に咲は何かをブツブツ呟いて宝花の賢者ステッキを解放状態にして自分のステータスを上げた。
「りき!!かなり攻撃を受けている!!!」とウォールから声がかかった。
そうか…はやたんさんの攻撃早いから見えないんだ…。
ハクでどうにか!!
「きゃっ!!!!」とイチカさんが随分遠くまで吹っ飛ばされて…
「イチカ!!!」とはやたんさんの攻撃が止まって姿をとらえた。
そこをハクが斬りにいく。
チラっと吹き飛ばされたイチカさんの体力みると…イチカさんの体力は全然減っていなかった。
そんな…どうして…
「りき…ちょっと本気…だしてもいいかな?」と咲が真顔で言う。
「…えっと、うん。ストップって言うまでなら。」
「………ちょっと…やっかいかも。」
咲が凄いスピードでイチカさんを攻撃しにいったが、それをはやたんさんが阻止した。
「…女同士の戦い…じゃなかったっけ。」
「……やめだ。…っあ!!!」
はやたんさんが咲の攻撃を受け止めてる最中、ハクではやたんさんを斬り、呪いをかけた。
「何に斬られた??この俺が…気づかない・・・だと?」
もうハクで削り切ってもらおう!!
もう少しというとこでイチカさんが立ち上がって、はやたんさんを全回復させた。
「間に合った!」
「さんきゅっ。俺の女神。」
それでも呪いのせいで体力は徐々に削れていく。
「はやたん…。」
「…ちっ。…まじかよ。…まさか…本気をださねーといけねーようだな。」
はやたんさんは黒いオーラを纏いだした…それからみるみる肌が黒くなっていく…足は狼のような獣の足になった。
「あのAIは…間違えありません。百鬼夜行シリーズのAIシイです。素早さがさらに上昇するんです。」とエイボンが説明してくれた。
それから咲とはやたんさんは早すぎて目が追い付かない試合をしだした。
僕の相手はイチカさんに変わる。
ハクで斬りにいってもらうと…全くダメージが入らなかった。
「恐らく…聖属性の防具を身にまとっているせいでしょうか。」とエイボンが説明してくれた。
…そうか…ハクの刀は闇属性だったのか。ちゃんと見てなかった…。
じゃあ、ハクは攻撃できる隙をみつけて、はやたんさんを攻撃してきてほしい。
そう指示をだすとハクははやたんさんの方へ向かった。
ハナビが魔法詠唱を開始する。
イチカさんは僕から距離をとって聖属性の聖なる光でできた弓矢で矢をうってくる。
ウォールの魔力がガクっと減る。
僕はそこで目を瞑って…集中する。
咲の体力が減りはじめたのか…スゥがそれを回復してスゥに魔力を注入する。
ハナビの詠唱がやけに長い気がするけど…今は信じて…みんなの魔力を切らさないように集中する。
回りで凄い音が鳴っている…気になるけど…よそ見をしてしまえば…誰かの魔力がつきて…歯車がくるってしまう気がする…
エイボンの指示は的確でいつも絶対に勝利してくれるから…
ドン!!っと…真隣で凄い音と揺れを感じた…
「はやたん!!!!」どうやら、はやたんさんのようだ…凄い近くて怖い…怖いけども!!
集中するんだ。
しばらくして…「りきさん、お疲れ様です。」とエイボンが声をかけてくれて目を開けた。
はやたんさんもイチカさんも倒れていて…勝ったのは僕らだった。
……また僕…何もしないで勝ってる…。
「二人ともダウンさせちゃうなんて。ハナビの魔法?」
「え?…ごめん、僕目瞑ってたから全くわからなくって。」
「いきなりでっかいマグマみたいな球体がでてきて、凄いダメージ入ったんだよ?」
「…ハナビっぽいね。」
「くっ…まさか…負ける日がくるなんて…化け物幹部達相手にしてるみたいだったぜ。」とはやたんさんが立ち上がった。
「凄い速さだった。私ギリギリ追いつけなかったもん。」
咲でも追いつけない速さって…
「…イチカは…気絶か。試合終わってんのにな。」
はやたんさんはイチカさんをお姫様抱っこする。
「俺たちは部屋に戻る。りき、早くAIを揃えろ。んで、4vs4の試合をしよう。全力の試合をしようぜ。」
「頑張ります。試合ありがとうございました!」
僕と咲も部屋に戻った。
咲は薔薇風呂に入って…僕はさっきの試合のVTRを見ていた。
最後はハナビが馬鹿でかいマグマっぽい色した球体を大きく膨らませて大ダメージを与えて終わっていた。
あの魔導書…相当強い。
咲がお風呂からでてきて…「何見てたの?」と聞かれて、さっきの試合の最後を見ていたと話した。
「………言い忘れてたけど…春風のタクトの強さはゲームバランスをぶち壊すくらいの破壊力を持ってるの。だって…GMが作ったチート武器なんだもん。魔力が無限にあるのならウォールがいれば基本的にダメージは受けないし。ハルにラストカントリーで手に入る【無限桜の木の枝】を持たせたら魔力は無限になるし。」
「え…どういう事?…シンさんからはただの睡眠耐性と氷雪体制のついたただの盾だって聞いたんだけど。」
「…防御力が初心者の町で売ってる安い盾よりないから誰も装備しないと思う。説明も「永久の時間を…」だけだし。だからそれをただの記念品の盾だと思い込んでる人とか…見た目用に使ったりしてる人が多いと思う。それに…ラストカントリーは全MAPが解放されてないといけない場所。」
「…そんなに凄い盾なのか…。でもこんだけプレイヤーがいれば誰か一人くらいは使ってそうなのに…。」
「……発動条件が限られてるの。…その盾も…当時、春風のタクトを使っていたGMが楽をする為に用意したもので…ハルにしか使えないのよ…。」
「………ズル……じゃん。」
僕は…ショックを受けた…何にショックを受けたのかさっぱりだったけど…心が重くなった気がした。
「…ごめん…ちょっと…ログアウトする。」
「あっ!!待って!!」
僕は…ログアウトをした。
……この…ちょっと考え事をしてるこの瞬間も…【リアル】では時間が進んでいる…。
ルナさんに毎日練習試合しろって言われてたのに…すっぽかしちゃう事になっちゃったな…。
コンコンとドアをノックされた…早い…相手はわかっている…咲……じゃなくて…陽子さんだ。
ガチャッと勝手にドアをあけられた…陽子さんの目は、すぐにでも泣いてしまいそうなくらいうるうるしていた。
「ごめんなさい!!」
「・・・・・・。」
「話を聞いて!!色々思い出した事があるの。」
「・・・・・・なに?」
「ムーンバミューダ社は…悪い会社なの!!私はその会社から逃げてきて…どうにかしないといけなくて!それをどうにかするには…りきの力が必要なの…最初は純粋にゲームを楽しんでもらって、ゆっくりやっていってもらえばいいって思ってた…でも!!私の目的は…りきを絶対傷つける…。どう悪い会社なのかは思い出せないし…りきには純粋にゲームを楽しんでほしいって思ってるけど…【リアル】で一番強くなってもらわないと私の目的は達成できなくって…」
陽子さんの目からはポロポロと涙がでていて…。
僕は…胸がざわついて…それを落ち着かせたくて陽子さんを抱きしめた。
「ヒッ…ヒック…嫌いに…ならないで…。」
「……ごめん、その…みんな色々頑張ってるのに…何もしないで僕は勝ってしまって…それがチート武器のせいだってわかって…ズルしてる罪悪感…とかあって…。嫌になったってわけじゃなくて…。何のためにゲームしてるんだろうって…。」
「世界を…助ける為に…力を貸してほしいの。」
「……世界を助けるって…ただの高校生の僕が?」
「りきしかいないの。…りきじゃないとダメなの。」
どうしてだろう…無理だって…そんな世界を救うみたいな事…絶対無理だって…わかってるのに…
どうして…この人を助けたいと思ってしまうんだろう。
「救えなくても…文句言わないなら…。」
「うん!…うん!…文句は言わない!!」
……僕は陽子さんを抱きしめたまま頭を撫でた。
「陽子…って呼んでもいい?」
「うん…。」
「ほんとに二十歳超えてる?」
「超えてるよ!」
「見えない…。中学生みたい。」
「もぅ…。」
「…僕は何をすればいいの?」
「まずは私の残した武器を使って…強くなって有名になってほしいの。今はまだそれしか言えなくて…言っちゃうと別の方向に進んじゃいそうで…。ごめんね、せっかく楽しめるはずのゲームなのに…絶対りき一人が損する事になっちゃう。」
「ううん、もともと辞めるつもりだったし…咲っていう存在がいたから戻っただけで…それが咲の願いなら…陽子の願いなら協力する。……うん、みんなに申し訳ない気持ちでいっぱいだったけど…今吹っ切れたし。」
「ありがとっ!!!ありがとう…!!!」
陽子はぎゅっと僕の服を掴む。
声が咲だからかな…ドキドキする…。
愛おしいって少し思っちゃうのは…やっぱり咲でもある…からかな。
「じゃあ、戻らないと…一ヶ月くらい過ぎてそう。」と僕は時計を見る。まだ5分もたってないけど…
「うん。一緒に…いていい?」
「いたいけど多分何らかのセンサーに引っかかって強制ログアウトしそうだから…陽子はベッド使って、僕は椅子に座るから。」
「うん。」
僕は陽子から離れて椅子に座って、陽子はベッドに横になる。
僕は…自分の使っているものがどれだけせこい武器かを知って…凄い罪悪感を受けて…色々な気持ちが溢れてログアウトしてしまった…でも…それ以上に…僕は…咲の事が…。
二人で再び【リアル】にログインした。




