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津軽藩起始 油川編 (1581-1585)  作者: かんから
第九章 浄満寺戦争 天正十三年(1585)三月二日午後より
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再会 第五話


 兼平は仏殿の場外にて兵共に “放て” と掛け声を出す。すると柵の向かい側、浄満寺(じょうまんじ)に向けて三十丁もの火縄で銃撃する。ジリジリと音を立て……皆で火蓋を切れば、弾は一瞬にして飛んでいく。まったくもって夜中であるので、柵ごしにあちらの様子はまったくわからぬ。ただしあちら側からは女子供の驚く声も聞こえるようで。慣れぬ音に怯えているか……しかし手を出したのはそちらだ。覚悟して籠っているはずなのだから……。生半可ではなるまいぞ。戦とはそういうことだ。



 火縄を打ち終わると、今度は後ろに控えていた弓隊が立ち出で、矢をあちら側に放つ。鉄砲とは違い矢は頭上から降り注ぐので、真正面に竹束やタンスを置いて弾避けにしていたところで、あまり効果はない。外に出ていた者らは急ぎ建物の中や裏に隠れて、そこから鉄砲を撃つなり弓で射るなりして応戦。浄満寺の屋根に侍ている火縄を持つ者ら、続けて明行寺(みょうこうじ)を狙わんと撃ちかけてくるし、ならばと兼平、あれほど狙いやすい標的はないぞと屋根の上を撃つように鉄砲隊へ命令。いざ撃つと瓦によって弾かれ、もしくは粉々になって割れる音が重なって、頭の中に嫌な響きが突き刺さる。加えて互いに矢の行き来は激しく、恐らくは矢の尽きるまでやるだろうか。



 そのうち浄満寺で勇気がある者は柵の前へ居立ち、乗り越えて明行寺へ攻め入ろうとする。一人が続くと二人三人とイノシシ共が参ろうとするが……彼らにはもちろん容赦なく火縄やら弓矢の餌食になってもらう。それでも同じような者らがまた何人も現れて、こちらへどんどん進み出でる。


 悲鳴を上げ、次に声は途絶え、新たに積み重なっていくは(しかばね)。それでも意地をみせんと、血を流すことを厭わず、勝つことを信じて攻めていく。大浦兵からしてみたら不気味でしかない。……ただし生玉(なまたま)角兵衛(かくべえ)のような真宗の者から見たら、わからぬわけでもないが。もちろん同じ門徒で争うのは心を痛めるし、できることなら避けたい。だが我らには禄を与えるべき仲間がいるし、遠地より連れてきた家族もいる。勝ち馬に乗ることが最上と割り切っている者ばかりだ。そのためにはいくらでも悪事に身を染める。



 戦は続く。新月の終わったばかりの細すぎる月が天井に上がっても、砲撃や矢の風を切る音は辺りに響き渡る。そんな中、軍配を握り続ける兼平は思う。


 ……浄満寺は併せて倍近くの兵に囲まれているはずなのに、勢いはあちら側にある。……手ぬるいのは判っている。寺を囲んでいる我らが本気を出せば、一斉に攻め立てれば落ちるのは当然の事。だがそれは……大浦家がこれから油川を治めていくことを考える上で、一番の悪手だ。元油川城兵と共に、二百人ほどの町衆もあちらに籠っている。彼らを殺してしまえば……さらなる恨みを買うことになる。だからこそ明行寺からの反撃はするものの、それ以上のことを避けている。


 ただしここで長く混乱が続けば、南部氏がどのような動きをしてくるかわからぬ。……小笠原殿や森岡殿にも相談の上、やるのならやるで早急に決めねばならぬ。



 はたして我らに、その覚悟はできるか。


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