嘆き 第五話
「私はこれから汚名を進んで受けよう。“奥瀬善九郎” という男は、大浦為信の前に戦わずして逃げたと。」
その言葉は頼英や久慈信勝が望んだことであったが、あまりにも物分かりが良すぎるし、奥瀬の心のあり様というものが計り知れない。そんな彼らの想いを察したか、奥瀬は次の言葉を添える。
「勝ち目のない戦をやって無様に殺されるのは損だぞ。馬鹿らしくも思えてくる。……ただし収まらぬのが、戦支度をしている将兵らだ。久慈殿、後のことを頼んだ。」
そういうと信勝の肩に手を載せて、二回ほど軽くたたき、まるで後のことを信勝に任せるとでも伝えているかのよう。……つまりは奥瀬に為信の謀反を伝えに走ったとするならば罰を受けざるを得ないだろうが、説得の末に開城させたとなれば話は違う。奥瀬なりの信勝への気のかけようであった。
そのあたりの考えを頼英や僧侶らは悟ったのだろう。その場にひれ伏し、その場を去り行く奥瀬の後姿を涙ながらに見送った。そして奥瀬に付き従っていた配下の者らも大将の意を汲み、他の者へ戦支度をやめるようにと指示を出していく。
“殿さまは大浦があまりにも強大で、勝ち目がないことを悟られた。そこで城を開け放ち、将兵と町衆の命を乞うことにした”
“すでに浪岡は落ち、後ろの山々では兵らが屯し、今こそ攻め入らんとうずうずして待っている”
“これより油川は大浦家の勢力下へと収まる。兵が入られるまで久慈殿の指示を仰ぐように”
そして当の奥瀬は、城の本館へ再び入り、奥まった角にある書斎にて灯をつけ……筆を執る。周りは未だ騒がしいが、心底落ち着いているようで。奥瀬の耳には硯をする音だけが聞こえる。そして妹あてに、文書を認めるのだ
”これから油川の民を、本当の意味で守るのはお前しかいない。よくよく周りの人の意見を聞いて、努める様に”




