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津軽藩起始 油川編 (1581-1585)  作者: かんから
第八章 奥瀬善九郎、田名部へ去る 天正十三年(1585)三月二日未明
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嘆き 第四話


 奥瀬(おくせ)善九郎(ぜんくろう)法源寺(ほうげんじ)の僧侶が目を見合わせて戸惑っているとき、突如として久慈(くじ)信勝(のぶかつ)は叫んだ。



「すべて私が悪いのです。私が(たぶら)かしたも同じ……ひたすら南部と大浦の和を願い、精進して参りました。しかしこれほど報われぬ事がございましょうか。」



 目には涙、次第に鼻からも水が垂れ、ただしそのようなものはお構いなしに、信勝は叫び続ける。


「白取と大浦を仲良くさせようと結ばせてみれば、いつの間にか白取は大浦の手駒に成り下がり。奥瀬様と大浦を結び付けようとすれば、悪巧みに利用される……。こんなにコケにされて、叫ばずにおれましょうか。」




 そして信勝は奥瀬の黒い袴を掴み、必死になって訴え始めた。


「私は罰せられてもよいのです。ただ……戦だけは避けて下され。私の願いはそれだけでございます。すでに浪岡には大浦軍が入り、油川へ向けて兵を進めていることでしょう。虚を突かれた油川に勝ち目はありませぬ。町を戦火に及ぼしたくないのであれば……ご英断を。」



 奥瀬から表情が消え、笑いや哀しみなど一切ない。ただただ信勝の顔を見て、さらに近くで見るために身を屈めて同じ目線に座った。そしてそのまま信勝に問うのだ。



「お主はこれからどうするのだ。」


 こちらへ伝えに来たということは、兄である為信を裏切ったことになる。それを承知しているのだろうか。おそらくは……信勝は切羽詰まってしまい、そこまで考えてはいまい。




「どうぞ刀を腹に突き刺して下さい。それが嫌なら首を手で直接お締め下さい。どのような御命令にも従いまする。」






 その言葉を聞いて、奥瀬の顔に表情が戻る。その面構えはたいそう穏やかなもので、戦支度で荒れ狂うこの場所には不釣り合いなものだった。


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