嘆き 第三話
妙誓は寺の庫裏にて縄で縛られている。決して痛めつけるためにそのようにしているのではなく、あくまで事が終わるまで黙らすためだ。下手な横やりを入れられては迷惑でしかない。ただそのことを奥瀬様にどのように説明したらいいものか……説明も何も、してはならぬのだ。
はよう、はよう……あいつを連れてこい。……と頼英は目を強く瞑りながら願った。わしの寿命はもういらぬから、あやつさえ連れてくれば、奥瀬様は信じざるを得ない。城門の方へ意識は飛び、今か今かと待ちわびる。
もちろん奥瀬にはそのような頼英の心の内は知らない。だがふと城門の方に目をやった。すると……人のせわしなく動くその奥に、何人かの僧侶に抱きかかえられている見知った男がいた。袈裟姿ではあるが、まさしく奴だ。
久慈信勝……。
なぜおまえがここにいる。為信が裏切ったとすれば、その弟は直接私を騙した張本人ではないか。縁談の話を……私の息子と為信の娘を結ばせようと勧めたのはまさしく奴だ。奴のおかげで……危機に瀕している。そこで奥瀬はいてもたってもいられなくなり、動かぬ頼英を捨て置いて城門の方へ向かった。そして信勝を前にして……強く頬を殴った。信勝はそのまま崩れ落ち、地べたに膝と手を付き、ひたすら涙する。奥瀬はそんな彼の姿を見て “何事か” と思い、さらにわけがわからなくなってしまう。どのような言葉を吹っ掛けるべきかわからぬし、果ては困惑したまま彼に付きそう僧侶へ顔を向けた。
すると僧侶が言うには
「私は浪岡へ移った法源寺より参りました。明行寺の求めを受け、久慈信勝様をお連れいたしました。」
元々油川には三寺あり、浄満寺・明行寺・法源寺の三つである。浪岡が再び南部氏の勢力下に入って以降、津軽郡代による統治の一環として天正十年(1582)に法源寺は油川より浪岡へ移転していた。頼英は策のため密かに法源寺と接触。奥瀬善九郎の説得のために……奥の手として久慈信勝を連れ出せはしないだろうかと画策。沼田祐光の話では久慈信勝も一種の被害者、悲劇の人。そこで頼英は賭けていた。すべてを知った後ならば……動いてくれるだろうと。彼の清い心ならば、なんとかして戦は避けたいと思うはず。いや、思わねばならぬのだ。
奥瀬善九郎という男は、山の松明だけでは企みを見抜いてしまうかもしれぬのだから。
為信方の者らは……あからさまに彼を避けて動いていたので、独りぼっちで漂っていたところを法源寺の僧侶らが必死に説得し、油川へ連れ出すことに成功した。もちろん為信方は浪岡と油川の間の道を封鎖しているが、明行寺の者と名乗れば不審がられることはない。




