不犯札 第五話
……力が外へ吐け出せぬとなると、内側を喰らうしかない。しかしその内側さえ歯止めをかけられてしまった。妙誓という尼がいらぬ正義を振りかざした結果、これ以降は意図せぬ方へ向かっていくのである。為信はもちろん、浪岡御所や横内の堤氏、油川の奥瀬氏にとっても。
ずっと膨張をしてきたその存在は、外側と内側より強い圧で制せられ、ひたすら “力” をため込んでいく。いつか爆発を起こせば、その矛先は内外関係なく向かっていくだろう。すべてをぶち壊し、何もかもがリセットされるか……そうなる前に内側か外側の歯止めが取っ払られれば、もちろんそういう事態は防げようが。そういうところを理解して手を打てるとのできる者はそう多くなく、できる者が為信なのか、はたまた違う人間か。
何かのきっかけがほしい。何かを起こすための転機がほしい。……荒れ狂う他国者の思いである。そんな折……津軽の領内を傍観する者らがいた。大浦城下で商いをしている豊前屋である。豊前屋の主は徳司といい、元々は羽州秋田の出身である。その実は秋田の大名である安東愛季ともつながっているので、時には安東氏へ交渉する上での窓口ともなる。
実り深き頃合い、徳司はとある津軽のエゾ村にて商品を買いそろえていた。獣の皮やきれいな刺繍などを持ってきた銭やコメと替えていく。中途半端に物々交換と銭での取引がまじりあう世界……徳司にとっては手慣れたものだ。
村からでようとすると、門前には “不犯札”。妙誓の名前によってエゾ村を襲うことを禁ずることが書かれている。二、三ヶ月経つ今になってもだいぶ効果があるらしく、どこの村も襲われていないらしい。それでも警戒を緩めることはせぬらしいが。
ここでふと徳司の頭によぎる。“あまよくば” の話であったが、安東氏は蝦夷島を持っているし、エゾ衆との繋がりもある。津軽のエゾを助けるという名目で、再び津軽に攻め入ろうかとも安東は考えていた。平賀郡の多田氏などもけしかけ、エゾの力も利用し、弱体化した津軽を平らげる……。
しかしこの ”不犯札” によって ”蝦夷荒” という抵抗は和らいだ。ただただ後に残るのは南部氏に従属したままの大浦氏だけ。安東にとっては大浦は縁者の浪岡を潰し、六羽川で争った宿敵。いつか滅したいのはもちろんだが……理想論だけでことは進まぬ。周りは再び敵だらけの上、南部氏が津軽を取り込んで強大になってしまうと……安東はいつか滅ぶだろう。切迫した状況なのだ。




