暴発の矛先 第一話
しばらく時は経ち……大浦城下の辻に立つ銀杏は禿げた姿をさらし、根元は黄色い葉っぱで覆われている季節。夜になると星や月の明かりは弱いながらも、落ち葉は光を受け、しっかりとその色を輝かせていた。辺りの黒さもかえってその姿を際立たせている……。
久しく為信は城下にある豊前屋へ密かに出向いた。足を運ぶのは六羽川合戦の前以来。安東氏との話し合いが決裂し、無様なる戦へと突入していったのが思い出される。
伴として連れるのは沼田と八木橋。頭のまわる二人を選んだのにはわけがある。突如として安東が密約を結びたいと申してきたので……はたして裏に何があるのか。騙されるようなことがあってはならぬ。……もちろん豊前屋の中で襲われる危険もはらむが、それはおそらくないだろう。為信が死ねば津軽における南部氏の実効支配は強まり、安東にとって損でしかない。故に殺されることはない。
では“裏”とはなんだろうか。我らが南部氏を裏切って安東の下に付くということはありえないし、なにより“じょっぱり”の津軽衆は黙っていない。
後ろを歩む八木橋は少し怯えた感じで、夜道を警戒しながら進んでいる。沼田はというと……なぜか落ち着いているようだ。為信は沼田のその様を妙だなと思いつつ、すでに目の前には豊前屋の裏。そこに使い走りの使用人が一人。静かに礼をして、奥へと手引きをする。為信と後ろの二人は互いに相槌をし、その者の後へ付いていくのみ……。
廊下を進み、足が木の板を踏む音が嫌に響き渡る。……緊張の面持ちで、いつしか頬に一筋の汗が垂れる。八木橋もさすがにここまでくると覚悟を決めたようで、軽く頬を引きつらせながらも……できる限り落ち着いているように為信と沼田に見せている。
奥の襖を開くと……いつか見た光景。為信は何度か入ったことがあるので、何も変わっていないそ一室は為信自身に妙な安心感を与えた。脇に置いてある行灯は優しくその周りを照らしている……。そして目の前に座す豊前屋徳司は、深々と頭を垂れた。




