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第2話 黄金色と陽炎②

 「昨日の魔術、失敗したの?」

 「えっ」

 バレた。え?バレてた?

 喉がこわばる。思考の一切がシャットアウトされ、頭の中が真っ白になる。

「あ、ごめん!責めてる訳じゃないよ!」

 スタッドに肩を揺らされ、我に返る。...相変わらず返す言葉が思いつかない。

 そして、スタッドが次の言葉を紡ぐ前。

「返却作業終わったよ。ほら、騒ぐんなら外でご自由にどうぞ。」

 司書の言葉が、私とスタッドの間に割って入る。

「あ、あぁ。ありがとう。また来る。」

 そこで、ようやく私は言葉を返せた。

「こっちも、ご迷惑おかけしました。」

 スタッドは軽くお辞儀する。司書はそれを微笑みで返した後、さっきの本を持って資料室へ行ってしまった。返却作業とはなんだったのだろうか。ドアを開く。差し込む陽光は、先ほどよりも柔らかだった。

 そこから、どう切り出せばいいかも分からぬまま、スタッドに優しく手を引かれる。気づけば、家からもほど近い公園までやってきていた。夕暮れには遠いが、午睡には遅すぎる。そんな微妙な時間に、2人でベンチに腰掛ける。スタッドが微笑み、こちらを向く。急かすつもりだとかは無いらしい。....少し、心の中で深呼吸してから切り出す。

「...さっきの、"責めてる訳じゃない"ってどういう事?」

 それを聞いたスタッドは、一瞬、パッと明るい表情をした後、視線を私から、オレンジに染まった空の方へ移す。それに倣い、少し遅れて私も同じようにする。

「んーっとね、最初は普通に失敗したのかと思ったんだけど...もしかしたら、私やあの子に当てないために、わざと失敗したのかと思ってさ。」

 あの子...多分浮浪者に掴まれていた幼子の事だろう。...にしても、部分的にあってるから...返答に困るというか。

「そうなんだけど、そうでもなくて...」

 スタッドがきょとんとする。....すっごい変な返し方になってしまった。

「.......」

「.......」

 ...沈黙が続く中、スタッドが静かに切り出す。

「レアルは凄いよ。だから、もうちょっと自信持ちなって。」

「う、うん...」

 うーむ...このままじゃ重大な誤解が生まれそうな気もする。お互いにとってそれはよくないだろう。...仕方ない。私はスタッドの顔に目線を寄せる。それに気づいたのか、スタッドもこちらに視線を合わせる。

「...ねえスタッド。もしよかったらでいんだけど...3時間後くらいにもう1回ここに集まらない?そこで、改めて色々説明させて欲しい。」

 少々無理やりだが、今この場、魔道具を家に置いてきたのもあって、こうせざるを得ない。幸い、スタッドは特に眉をしかめるでもなく、落ち着いた口調で私に返した。

「? ..うん、分かった。こっちこそ、急に押しかけてごめんね。」

 どこまでいい子なんだよ、この子は。背格好は同年代だけど、中身からして違い過ぎる。

 ....ともかく、おかげでこの場は何とかなった。このからなら、家に帰るのにもそう時間はかからないはずだ。...にしても、疲れた。

 ――――――――――――――――

 あれからスタッドと別れ、私は帰路に着くなり、ソファーに深く沈みこんだ。...まさか、あの時咄嗟に出た嘘から、こんなことになるなんて。だが、不思議と悪い気もしない。まぁ、スタッドにかなり救われているのだろう。

 合流までは、まだ2時間半はある。立ち上がって、ドリッパーからコップにコーヒーを注ぐ。それを片手に、ソファーを通り過ぎて、作業机の前に座る。


 珈琲を一口飲み、机の上に置いていたフェーダーを床に置く。そして、近くの棚から、作りかけていた魔道具を取り出した。

 ....正直なところ、フェーダーも、100%私が作ったとは言い難い。靴に付けるメインの部分は、父さんが作った船の廃モーターから、(許可を取って)拝借し、少しだけ改造を施した物。それに、足に付けるベルトを取り付けただけなのだ。

 「はぁ...」

 ....それに対して。これは、できはアレだが....正真正銘、私が100%作った物。

 腕に装着できる折り畳みの盾。魔力を込めたら盾が開く。廃材とはいえ、金属製だからナイフくらいは多分防げる。....以上。久々に見たが....うなだれる頭を、肘をついた左手で支える。

 「これ、やっぱり魔術とか....フェーダーと比べても地味だよなぁ....」

 魔術は昔、幼馴染が魔術を見せてくれた時から。魔道具は、父さんの仕事に憧れて。魔術はほとんど使えなかったから、対抗心で魔道具を勉強するようになって、それから...


 ...魔道具技師になるために、学校に入る為に、田舎から出てきたんだ。

 

 壁に掛けた雑巾と道具を取る。スタンドに置かれた赤い石へ向かって、人差し指に小さな炎を灯して近づける。魔術を使えないといえど、最低限の最低限。というレベルなら、最近は安定するようになった。熱源との反応で、机周りはやんわり温かい光に照らされる。

 雑巾をキッチンで濡らし、机に置いた魔道具の埃をゆっくりとふき取っていく。外されていたベルトを腕に巻き、締めてサイズを調節してから、本体との留め具を付け直す。

 ...何で今更、こんな玩具を持っていくのかは分からない。ただ、フェーダーを見せて納得してもらうのも、何か違う気がした。

 ...試しに付けてみる.....ずっしりと重い。これも安い金属の定めか。上から少し大きめの上着を羽織り、魔道具を隠す。外から見れば、そんなに違和感もないはずだ。

 予定時刻にはまだ少し早いが、フェーダーも一応見せれるように。足に付ける為のベルトごと鞄に詰め、私は再び外へ歩き出した。

 

 ....あ、新魔道具の名前考えてない。行きながら考えよ。

 

 * * *

 

 スタッドは一足先に集合場所に戻ってきていた。日は既に落ちかけ、月が空に浮かんでいる。

 

 予定時刻の15分前。流石にレアルはまだ来てないかぁ。それにしても、

 同級生っぽいけど、昨日、私の学科の入学説明会にはあんな子はいなかった。てかそうだ。魔導士学校に入るのかどうか聞きそびれちゃったな。後で聞こっと。

 それはそうと。レアル、なんであんな強力な魔術を使えたんだろう。本当に才能がないのなら、そもそもあんな魔術、発動することもできないはず。

 レアルはまるで――

 1人分、足音が聞こえた。この時間、待ち合わせでもしなければここに人は来ない。そう踏んで、警戒されないよう、少し微笑んで振り返った。

「あ、レアル。さっきぶり――」

 状況が変わった。私はすぐに、右腕を左腕で支え、向かい合った者にして構える。

 「よう、昨日ぶりだな?朱色の嬢ちゃん。」

 「あんた、なんでここにいるのよ。」

 昨日の浮浪者。あの様の割には元気だ。だが、

 「"どうしてここにいるのか"って顔してんな。俺の部....兄貴のおかげだよ。お前を探してもらったのさ。こうやって、また会うためにな。」

 奥の方から、深くフード、いや、最早ボロきれといっても差し支えない衣服を被った、もう一人の男が現れた。浮浪者の言葉からして、魔導士...いや、"元"魔導士か。

 「お前、こんな小娘に。本気でやるつもりか。」

 魔導士崩れは、浮浪者に向かって怪訝そうに顔を向けた。

「当り前じゃないっすか!こいつ、昨日俺を殺しかけたんすよ!もうほんっと、ボコボコにしてやってくださいよ!」

 興奮する浮浪者に、魔導士崩れは呆れるように目を瞑る。そうして、今度はこちらに顔を向ける。

 見開いた瞳は、憐れみと、どこか後悔が混ざったような色をしていた。

 「悪く思うなよ、見習い。俺はこうやって生きるしかねぇんだ。」

 藍色の空と対を成すような赤色。男は両手それぞれに火球を携えた。浮浪者は満足そうに、魔導士崩れの後ろに移動した。私も風の弾丸を構る。夜の公園に、風を切る音だけが響いた。


 先に動いたのは、私だ。

風烈弾(ウィンド・シュート)!」

 詠唱と同時に、反動で少し腕が痺れる。だが、風の弾はまっすぐ魔導士崩れに飛んでいった。私は様子を確認せずに、次の風烈弾(ウィンド・シュート)の為に構える。

 構え終わるのと同時、最初に撃った方が炸裂したのが見えた。爆発。直撃したにしては手前すぎる。まだ構えは解かずに、様子を見る。

「ケホッケホ。なんだこの威力。お前...ホントに見習いか?」

 案の定というべきか、爆風が収まると同時に男の影。男はせき込んでこそいるが無傷。両腕に無い辺り、火球2つで相殺したのだろう。後ろでは浮浪者が腰を抜かし、尻餅をついている。

 悪くない、立て続けにもう一発。

風烈弾(ウィンド・シュート)!」

 今度も、正確。やっぱり人間一人程度の的なら、精度もそこまで悪くない。周囲の空気を歪ませながら、弾は魔導士崩れへと向かう。まだあっちは魔術も構えてない。

 今度は、風と共に土煙が立つ。恐らく正面から入った! 次は浮浪者だ。もう一度魔術を構え――

 視界左から、何かが迫ってくる。炎だ。だが、それに反応する前には...

 爆ぜた。爆発する魔術だ。吹き飛んだ上、体制を崩して背中から地面に叩きつけられる。

「馬鹿正直に正面から受けると思ったか?そこらへんは見習い相応だな。」

 正面、視界にして斜め上。魔導士崩れが見下ろす。咄嗟に右腕を構え、魔術の準備を。

「もうやめろ。...お前、片腕じゃ碌に撃てねぇだろ。」

 先ほどの火球を、左手に灯す。

「安心しろ、殺す気はないし、顔に撃つ気もない。それに...」

 そこまで言いかけて、男は黙って、火球を私に落とす。

 ゆっくりと、私のお腹の上に、ボールを落とすように。

 視界の上で、揺らめく火球は。落ちて。

 

 来なかった。直線状の風の軌跡。何かにぶつかった魔導士崩れが、左側に体制を崩す。魔術を解除し、素早く受け身を取った。

 「ぐっ、なんだ...」

 魔導士崩れは、立ち上がりながら、自身を吹き飛ばしたそれを拾い上げる。

 「何だ、これ。ベルトの付いた靴.......魔道具か?」


 ここで。ようやく私は右を振り向く。

 

 月の光に煌めく、美しい黄金色のミドルヘアと双眸。

 それと対称的に、息も絶え絶えで肩を揺らす背格好。

 そして、少しだけ安堵に微笑んでいる少女が。


 レアルが、そこにいた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


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