表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

第1話 黄金色と陽炎①

始めまして。鋳氷と申します。

もし、旧アンダラを読まれていた方がいるのであれば、超絶お久しぶりです。2年ぶりくらいでしょうか。

詳細はあとがきに乗せますが、完成済みの短編(全3話)を投稿させていただきます。


 夕暮れ。石造りの家々が成す、地平線に太陽が半分沈んだ頃。耳をつんざくような罵声が路地裏に響く。私は、近くの煉瓦屋根の上に屈み、その光景を眺めていた。

 「...お、おい! ガキがどうなってもいいのか...!?」

 浮浪者。こんな時間とはいえ、中心街から2、3本外れた程度だというのに。

 男はまだ6歳にも満たない幼子の首元に、尖った石の先端を押し当てる。いくらホームレスとはいえ、脅すためのナイフすら無いのか。

 罵声の対象は、視界の先。朱色の髪を 靡かせる華奢な少女へ。もしこれが物理的な戦闘なら、仮に正面からのステゴロだったとしても、あの男が負ける道理はないだろう。

 「そっちこそ、今の内に解放した方がいいんじゃない?」

 少女は、強気な姿勢を崩さない。右手を左手で支えて、男に掌を向けるようにして構える。その動作に続いて、無風だった路地裏に風の音が響き始めた。

 恐らく彼女は、"使える"側の人間なのだろう。彼女の掌から先。彼女の肩幅ほどの直径をなす球体が、周囲の空気を歪ませている。

 魔術。本人の才能に依存した技術。魔力を起点に現象を誘発し、それを操る。彼女が繰り出す"風"は、男の行動を縛るには十分だ。

 ...だが。

「.........いい加減にしないと、撃つわよ!」

 声が震えている。ここまでに使っていたのか、限界が近そうだ。あまり時間はない。

 右足側の螺子をキツく締め直した。

 「撃つ、ねぇ。はっ。くっだらねぇ脅し!実際はガキにビビって、撃てもしないくせによく言うよ。...あぁ、そういえば俺の部下の魔導士崩れが言ってたなぁ。魔導士で一番早死にするのは、お前みたいなタイプだって!」

 今度は笑い声が、路地裏に響く。それに続いて、子供の喉を絞めたのか、せき込む声が路地裏に響く。少々、眉間に皴が寄ったような気がする。だが、その無駄な動作のおかげでこっちも準備が終わった。ゆっくりと、姿勢を低くして立ち上がる。

 「....さて、うまく動いてね。"フェーダー"」

 屋根を強く踏みしめ、日の落ちた空へと、飛び出した。

 

――――――

 

 ....そこから、大体1日が経った。落ち着いた図書館の片隅。昼過ぎの心地よい微睡に身を預け、昨日の出来事を振り返る。いやぁ、我ながらかっこよく決まったなぁ。

 背もたれに身を預け、のんびりとページを眺める。

 パン! 耳から入った音に、妄想は吹き飛んだ。

「ふぇ!?」

「あ、やっと気づいた。レアル? 頼まれた本持ってきたけど、ここ置いとくよ?」

 どうやら耳元で手を叩かれたらしい。マジでびっくりした。いくらここの司書だからといって、横暴じゃないだろうか。...よく考えたら本持ってきてって頼んだの私だった。

「あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた。」

「何かいい事でもあったの? 表情がここ最近で一番ふわふわしてたよ?」

「ん...まぁ、ちょっとね。」

 そんなにふわふわしていただろうか。まぁ確かにいつもより気は緩んでいたかもしれないが。

 ともかく、彼女に礼を言って、預かった本を机に置いた。

「貸出厳禁だから、帰るときに返してね。」

 それだけ伝えると、司書は再び入り口の方へと戻った。

 ...両腕を天井に向け、少し伸びをする。欠伸をして、窓の方へ目をやる。うん、春の日差しが気持ちいい。窓の外の街路を行きかう人の表情も、休日というだけあって爽やかだ。そう、例えばあの朱色の髪の子...

 目が、合った。お互い、豆鉄砲を撃たれたような顔をしたことだろう。....ちょっと今は会いたくなかった。ひとまず逃げる用意とかしようかな。

 彼女は走り出した。図書館のドアが開いた。迷いなく此方へ歩いてくる。まだこっちは席から立った所なんだけど。うーん....申し訳ないが、最終手段を取らせてもらおう。

 彼女との距離が縮まる。彼女が一歩進むたび、私も一歩進む。

 本棚3つ分、2つ分...

 「あの、」「.....」

 申し訳ないが、声をすり抜けるように、軽く頭を下げて彼女とすれ違った。但しこれは、彼女と私、お互いの幻想を守るためだ。悪く思わないで欲しい。

 後は本を返却して、さっさとここから出るだけだ。左手の本を、司書に手渡す。

「ちょっと急用ができてね。また来る。」

 よし、これでひとまず。この場は凌げ――

「返却処理にちょっとかかるから、ゆっくりしていってね。」

 なかったね。これは。苦い笑みが、自然と零れたような気がした。

「...どうしても、じゃだめ?」

「そこの子と話すんだったら考えてもいいよ? どうせ、あんたが何かやらかしたんでしょ?」

 ジト目でこっちを見る。おかしい、いい事をしたはずなのに、ちょっと良心が痛んできた。観念して、後ろを振り向く。朱色の少女の困惑と躊躇を湛えた表情に、更に胸が締め付けられる。

「うん、まぁ...ごめんね? ただまぁ...ちょっと色々とね....」

 色々。つまり逃げてた理由だ。本当にしょうもない理由である自覚はある。だが、いざ向き合って説明するのは少々気が引ける。

 ...昨日の夕暮れ。指摘の通り、少々「やらかした」のが原因だ。

 

 ――――――――――――――

 

 あの時、私は屋根を強く踏みしめ、日の落ちた空へと身を投げ出した。

 大きく飛び上がり、黄金色の髪が視界にチラつかせながら、私も"魔術"を構える。

 「火炎(ブレイズ・)....」

 掲げられた右手を起点に、空気が陽炎のように揺れる。空気が圧縮されて、十分な質量を持つ。魔力を起点に、閉じ込めた炎が生まれる。

 地面に影でも映ったのだろうか。ほとんど同時に、2人が気づいた。

 順調。既に火球は、直径では私の身長よりも長い。地上にいる面々の目線は、これで奪えた。

 後は...

 

 「...砲撃(キャノン)!」


 右手を振り下ろす。朱色の少女と浮浪者の、ちょうど中間に向かって、火球を叩きつける。もし火球が着弾すれば、地面が抉れたりとか、結構な被害が出るはずだ。

 ....最も、そんな事は起こらない。

 手から離れて1秒足らず。火球が空中で弾けた。より正確に言えば、魔術が失敗した。...狙い通りだ。内側に溜まった空気と魔力が吹き出し、熱風と赤色の光となって、3人の視界を奪う。

 私は火球に背を向けながら、熱風で勢いを殺して地面に着地する。浮浪者は、目を塞ぐために尖石から手を離している。ここまで来たら、あと少し。

 「はぁ!」

 浮浪者の腹を蹴り飛ばす。そして、インパクトの瞬間。猛烈な風が、蹴りをより強くする。

 [フェーダー]両足、靴の下に取り付けた、魔力で強力な風圧を発生させる"魔道具"、私を空中に押し上げたトリックの正体だ。あの時は両足だったとはいえ、2個で人を空中へ吹き飛ばす風圧。その上、この不意打ちなら、受け身を取る余裕もない。風圧を借りた蹴りは、浮浪者を近くの石壁に叩きつけた。...目線を動かした先の幼子も、特に怪我はしていないようだ。ようやく、肩の力が抜けた。

 .....一息ついて、汗を服の裾で拭ったのと同じくらい。風も止んで、先ほどの朱色の少女がこっちに気づいた。

 「え...? 今の"魔術"は...」

 その目は、興味の対象を見るかのようにキラキラ輝いているように感じた。

 ....まぁ、そういう反応になるよなぁ。実際最初は魔術を"構え"たし。彼女"は"魔術を使える側なんだから、当然の反応だ。....ふとここで、少し魔が差した。

 「...えぇ、私の魔術よ。炎と風。少し出力を上げすぎたわね。」

 思わずというか、勢い任せにというか。....まぁ、言ってしまった。

 「え? ...あ、ありがとう!」

 

 ――――――――――――――――――

 

 ...真っ赤な嘘。そう、これが件のやらかしだ。なにせ今の台詞、殆どが嘘なのだから。

 そもそも風は魔道具で起こしたもので、炎はともかく、風の魔術など私は使用できない。

 もっと言うなら、出力の出しすぎも、魔術は調整できないだけだし、フェーダーに至っては(技術的問題により)出力が固定なのだ。

 1文に3回も嘘を挟むとは、中々に酷いことをした....が、問題はそれだけじゃない。

 これら全て、かっこつけたくて見栄を張った以上の理由がない。

 これが最大のやらかしに違いない。おかげで恥ずかしいし余計に言い出しづらい。とはいえ今言い出して「なーんだ」みたいな反応されるのも悲しい。

 というか不意打ちとはいえ良い事したんだから、「かっこいい魔術じゃなくて、小手先の魔道具でした」なんてカミングアウトで気持ちよく帰れないのはちょっと嫌だ。

 とはいえ、彼女は魔術をそれなりに知っている。少し話せば、すぐボロが出て気づかれるだろう。

 と、いうわけで、彼女と話すことは彼女と私の幻想を破壊することになる。証明完了だ。

 ....言い訳ばかり考えて、視線も合わせず一向に喋らない私に、彼女が先に口火を切った。

「昨日はありがと。私はスタッド。」「え、あぁ。うん。」

「そこの金髪はレアルだよ。」

 余計な事言いよって。考えることでいっぱいいっぱいだったから、正直助かったけども。

 「レアルっていうんだ。よろしく!」

 彼女は屈託なく笑った。こっちも、それを見てようやく表情が綻ぶ。最初から考え過ぎていたのかもしれない。そもそも敵対関係になるわけでもないのだから、もう少し軽く接すればよかった。

 「レアル、さっそくで悪いんだけど。」

 「どうしたの?」

 朱色と黄金色。髪同士が触れる。周りに聞こえないように、彼女が囁いた。

 「昨日の魔術、失敗したの?」


 「え?」


ここまで読んでいただきありがとうございます。

よろしければ、評価・コメント・批評など頂けると執筆の励みになります!


以下、今更投稿した経緯説明(読まなくても大丈夫です。)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 端的に言うと「Under Light」をちゃんと書き直したい、というかキャラたちをもっとしっかり描きたいなと思って、少しづつ書き溜め始めています。

 今回はその1~3話(予定)の話を、ひとまず投稿してみてどういう反応が返ってくるか。(PV数や、もしいただけたならコメントや評価など)を見たいと思い、短編として投稿させていただきました。

(実際に投稿する1~3話とは、少し内容が異なるかもしれません。)


 また、少し先ですが、本編は一応書ききってから投稿しようと考えています。

 その間に、短編なども投稿しながら「Under Light」を完結させることを目標に頑張らせていただきますので、温かい目で見守っていただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ