第1話 黄金色と陽炎①
始めまして。鋳氷と申します。
もし、旧アンダラを読まれていた方がいるのであれば、超絶お久しぶりです。2年ぶりくらいでしょうか。
詳細はあとがきに乗せますが、完成済みの短編(全3話)を投稿させていただきます。
夕暮れ。石造りの家々が成す、地平線に太陽が半分沈んだ頃。耳をつんざくような罵声が路地裏に響く。私は、近くの煉瓦屋根の上に屈み、その光景を眺めていた。
「...お、おい! ガキがどうなってもいいのか...!?」
浮浪者。こんな時間とはいえ、中心街から2、3本外れた程度だというのに。
男はまだ6歳にも満たない幼子の首元に、尖った石の先端を押し当てる。いくらホームレスとはいえ、脅すためのナイフすら無いのか。
罵声の対象は、視界の先。朱色の髪を 靡かせる華奢な少女へ。もしこれが物理的な戦闘なら、仮に正面からのステゴロだったとしても、あの男が負ける道理はないだろう。
「そっちこそ、今の内に解放した方がいいんじゃない?」
少女は、強気な姿勢を崩さない。右手を左手で支えて、男に掌を向けるようにして構える。その動作に続いて、無風だった路地裏に風の音が響き始めた。
恐らく彼女は、"使える"側の人間なのだろう。彼女の掌から先。彼女の肩幅ほどの直径をなす球体が、周囲の空気を歪ませている。
魔術。本人の才能に依存した技術。魔力を起点に現象を誘発し、それを操る。彼女が繰り出す"風"は、男の行動を縛るには十分だ。
...だが。
「.........いい加減にしないと、撃つわよ!」
声が震えている。ここまでに使っていたのか、限界が近そうだ。あまり時間はない。
右足側の螺子をキツく締め直した。
「撃つ、ねぇ。はっ。くっだらねぇ脅し!実際はガキにビビって、撃てもしないくせによく言うよ。...あぁ、そういえば俺の部下の魔導士崩れが言ってたなぁ。魔導士で一番早死にするのは、お前みたいなタイプだって!」
今度は笑い声が、路地裏に響く。それに続いて、子供の喉を絞めたのか、せき込む声が路地裏に響く。少々、眉間に皴が寄ったような気がする。だが、その無駄な動作のおかげでこっちも準備が終わった。ゆっくりと、姿勢を低くして立ち上がる。
「....さて、うまく動いてね。"フェーダー"」
屋根を強く踏みしめ、日の落ちた空へと、飛び出した。
――――――
....そこから、大体1日が経った。落ち着いた図書館の片隅。昼過ぎの心地よい微睡に身を預け、昨日の出来事を振り返る。いやぁ、我ながらかっこよく決まったなぁ。
背もたれに身を預け、のんびりとページを眺める。
パン! 耳から入った音に、妄想は吹き飛んだ。
「ふぇ!?」
「あ、やっと気づいた。レアル? 頼まれた本持ってきたけど、ここ置いとくよ?」
どうやら耳元で手を叩かれたらしい。マジでびっくりした。いくらここの司書だからといって、横暴じゃないだろうか。...よく考えたら本持ってきてって頼んだの私だった。
「あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた。」
「何かいい事でもあったの? 表情がここ最近で一番ふわふわしてたよ?」
「ん...まぁ、ちょっとね。」
そんなにふわふわしていただろうか。まぁ確かにいつもより気は緩んでいたかもしれないが。
ともかく、彼女に礼を言って、預かった本を机に置いた。
「貸出厳禁だから、帰るときに返してね。」
それだけ伝えると、司書は再び入り口の方へと戻った。
...両腕を天井に向け、少し伸びをする。欠伸をして、窓の方へ目をやる。うん、春の日差しが気持ちいい。窓の外の街路を行きかう人の表情も、休日というだけあって爽やかだ。そう、例えばあの朱色の髪の子...
目が、合った。お互い、豆鉄砲を撃たれたような顔をしたことだろう。....ちょっと今は会いたくなかった。ひとまず逃げる用意とかしようかな。
彼女は走り出した。図書館のドアが開いた。迷いなく此方へ歩いてくる。まだこっちは席から立った所なんだけど。うーん....申し訳ないが、最終手段を取らせてもらおう。
彼女との距離が縮まる。彼女が一歩進むたび、私も一歩進む。
本棚3つ分、2つ分...
「あの、」「.....」
申し訳ないが、声をすり抜けるように、軽く頭を下げて彼女とすれ違った。但しこれは、彼女と私、お互いの幻想を守るためだ。悪く思わないで欲しい。
後は本を返却して、さっさとここから出るだけだ。左手の本を、司書に手渡す。
「ちょっと急用ができてね。また来る。」
よし、これでひとまず。この場は凌げ――
「返却処理にちょっとかかるから、ゆっくりしていってね。」
なかったね。これは。苦い笑みが、自然と零れたような気がした。
「...どうしても、じゃだめ?」
「そこの子と話すんだったら考えてもいいよ? どうせ、あんたが何かやらかしたんでしょ?」
ジト目でこっちを見る。おかしい、いい事をしたはずなのに、ちょっと良心が痛んできた。観念して、後ろを振り向く。朱色の少女の困惑と躊躇を湛えた表情に、更に胸が締め付けられる。
「うん、まぁ...ごめんね? ただまぁ...ちょっと色々とね....」
色々。つまり逃げてた理由だ。本当にしょうもない理由である自覚はある。だが、いざ向き合って説明するのは少々気が引ける。
...昨日の夕暮れ。指摘の通り、少々「やらかした」のが原因だ。
――――――――――――――
あの時、私は屋根を強く踏みしめ、日の落ちた空へと身を投げ出した。
大きく飛び上がり、黄金色の髪が視界にチラつかせながら、私も"魔術"を構える。
「火炎....」
掲げられた右手を起点に、空気が陽炎のように揺れる。空気が圧縮されて、十分な質量を持つ。魔力を起点に、閉じ込めた炎が生まれる。
地面に影でも映ったのだろうか。ほとんど同時に、2人が気づいた。
順調。既に火球は、直径では私の身長よりも長い。地上にいる面々の目線は、これで奪えた。
後は...
「...砲撃!」
右手を振り下ろす。朱色の少女と浮浪者の、ちょうど中間に向かって、火球を叩きつける。もし火球が着弾すれば、地面が抉れたりとか、結構な被害が出るはずだ。
....最も、そんな事は起こらない。
手から離れて1秒足らず。火球が空中で弾けた。より正確に言えば、魔術が失敗した。...狙い通りだ。内側に溜まった空気と魔力が吹き出し、熱風と赤色の光となって、3人の視界を奪う。
私は火球に背を向けながら、熱風で勢いを殺して地面に着地する。浮浪者は、目を塞ぐために尖石から手を離している。ここまで来たら、あと少し。
「はぁ!」
浮浪者の腹を蹴り飛ばす。そして、インパクトの瞬間。猛烈な風が、蹴りをより強くする。
[フェーダー]両足、靴の下に取り付けた、魔力で強力な風圧を発生させる"魔道具"、私を空中に押し上げたトリックの正体だ。あの時は両足だったとはいえ、2個で人を空中へ吹き飛ばす風圧。その上、この不意打ちなら、受け身を取る余裕もない。風圧を借りた蹴りは、浮浪者を近くの石壁に叩きつけた。...目線を動かした先の幼子も、特に怪我はしていないようだ。ようやく、肩の力が抜けた。
.....一息ついて、汗を服の裾で拭ったのと同じくらい。風も止んで、先ほどの朱色の少女がこっちに気づいた。
「え...? 今の"魔術"は...」
その目は、興味の対象を見るかのようにキラキラ輝いているように感じた。
....まぁ、そういう反応になるよなぁ。実際最初は魔術を"構え"たし。彼女"は"魔術を使える側なんだから、当然の反応だ。....ふとここで、少し魔が差した。
「...えぇ、私の魔術よ。炎と風。少し出力を上げすぎたわね。」
思わずというか、勢い任せにというか。....まぁ、言ってしまった。
「え? ...あ、ありがとう!」
――――――――――――――――――
...真っ赤な嘘。そう、これが件のやらかしだ。なにせ今の台詞、殆どが嘘なのだから。
そもそも風は魔道具で起こしたもので、炎はともかく、風の魔術など私は使用できない。
もっと言うなら、出力の出しすぎも、魔術は調整できないだけだし、フェーダーに至っては(技術的問題により)出力が固定なのだ。
1文に3回も嘘を挟むとは、中々に酷いことをした....が、問題はそれだけじゃない。
これら全て、かっこつけたくて見栄を張った以上の理由がない。
これが最大のやらかしに違いない。おかげで恥ずかしいし余計に言い出しづらい。とはいえ今言い出して「なーんだ」みたいな反応されるのも悲しい。
というか不意打ちとはいえ良い事したんだから、「かっこいい魔術じゃなくて、小手先の魔道具でした」なんてカミングアウトで気持ちよく帰れないのはちょっと嫌だ。
とはいえ、彼女は魔術をそれなりに知っている。少し話せば、すぐボロが出て気づかれるだろう。
と、いうわけで、彼女と話すことは彼女と私の幻想を破壊することになる。証明完了だ。
....言い訳ばかり考えて、視線も合わせず一向に喋らない私に、彼女が先に口火を切った。
「昨日はありがと。私はスタッド。」「え、あぁ。うん。」
「そこの金髪はレアルだよ。」
余計な事言いよって。考えることでいっぱいいっぱいだったから、正直助かったけども。
「レアルっていうんだ。よろしく!」
彼女は屈託なく笑った。こっちも、それを見てようやく表情が綻ぶ。最初から考え過ぎていたのかもしれない。そもそも敵対関係になるわけでもないのだから、もう少し軽く接すればよかった。
「レアル、さっそくで悪いんだけど。」
「どうしたの?」
朱色と黄金色。髪同士が触れる。周りに聞こえないように、彼女が囁いた。
「昨日の魔術、失敗したの?」
「え?」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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以下、今更投稿した経緯説明(読まなくても大丈夫です。)
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端的に言うと「Under Light」をちゃんと書き直したい、というかキャラたちをもっとしっかり描きたいなと思って、少しづつ書き溜め始めています。
今回はその1~3話(予定)の話を、ひとまず投稿してみてどういう反応が返ってくるか。(PV数や、もしいただけたならコメントや評価など)を見たいと思い、短編として投稿させていただきました。
(実際に投稿する1~3話とは、少し内容が異なるかもしれません。)
また、少し先ですが、本編は一応書ききってから投稿しようと考えています。
その間に、短編なども投稿しながら「Under Light」を完結させることを目標に頑張らせていただきますので、温かい目で見守っていただけると幸いです。




