第3話(最終話) 黄金色と陽炎③
スタッドの側とは逆側の入り口に、レアルは現れた。
両手から勢いよく放たれたフェーダーが、男の脇腹に命中する。スタッドの上の火球は方向を逸らし、男は地面に尻餅をついた。
スタッドはこっちを見た後、微笑みながら瞼を落とした。...そんなに安心できる状況なのだろうか。
...ひとまず急場は凌げたが、残っているのはフェーダーの片割れにボロ盾。ひとまず隠れて仕切り直しを――
「あいつ、このガキの仲間だ!」
昨日の浮浪者!? それに、もう既に気づかれている。
プランの破綻。頭が真っ白になり立ち尽くす。何を...
「おい、さっさと撃ってくださいよ!」
...怒号によって、意識が現実に戻される。男は、尻餅をついたまま...右手に火球を携えている。
「...熱放撃」
押し出すようにして放たれた火球は、こっちに向かって一直線に、地面を仄かに照らしながら飛来する。
ひとまず目の前の事だ。
...炎。厄介だが、こちらにも策がある。
方向を確認し、右手を自分の顔の前にやる。
「..."シュナーベル"!」
構えた右手に魔力を流すと、「ガシャ」っと、腕の金属サポーターから、長方形の鉄板が2枚、勢いよくスライド展開する。
模倣品。父さんが依頼で作った、魔術用の盾。あれに似せて作ったが、それとは比べ物にならない程低質になってしまった。
...だけど、小さくても粗悪でも盾。
火球は、正面で受け切る!
刹那。視界は、空を捉える。
遅れて「ドン!」...と、鉄と鉄がぶつかるような音。
腕折れた?
やっとの事で体勢を保ち、右腕に目をやる。折れてはいなかった。
だが、シュナーベルには既に大きな亀裂....ひび割れていた。
「何をしてくるのかと思ったら...そんな玩具で、本気でやるつもりだったのか? 魔術なり魔力なり。何か種があるのかと思ったが、まさか只の金属とはな。」
嘲笑ではなく困惑の声。既に、次の火球が空気を揺らして迫り来る。
...咄嗟に右手を前に出して、構える。
「火炎砲撃!」
男の物より、数倍は大きな火球を放つ。まるで夕日に照らされたかのように、夜の公園が橙色に揺らめき、直ぐに小さな火球を飲み込んでしまった。
「なっ!?」
男は目を見開いた。想像を軽く超える火球、命の危機を感じる。
...が、それは男にぶつかる事なく、火球を飲み込んだ直後に霧散してしまう。
額の汗を拭う。...防げたが、体力をごっそり持っていかれた。もうあれは使えない。
「...ビビらせやがって。今度は使えない魔術か。魔道具といい、随分と中途半端だな。」
"魔術は魔力か魔術でないと受けられない。"父さんから聞いたことはあったが。身をもってそれを理解したくはなかった。
フェーダーは近づかないと当てれないし、ただの風だから魔術は跳ね返せない。(一応)虎の子シュナーベルもたった1撃で半壊と来た。 ...万策尽きた。
........逃げる?これだけ騒ぎを起こせば警備隊が来るはずだ。そうすれば、スタッドも助かるかも。...絶対とは言い切れないけど。
私はやれる事やったし、ここで離脱しても、神様も誰も責めないだろう。
そもそも、 最初からフェーダーで飛び込んでれば――
――――――――
「レアルは凄いよ。だから、もうちょっと自信持ちなって。」
――――――――
....違う。そんな事を考えるくらいなら、今はできることを。
前を向くと、男はスタッドから離れている。生垣越しの街灯。その薄明かりに照らされるように。
片腕で、炎を顔の左前程に持ち上げ、放つ前準備を終えたらしい。
「...まぁ、恨むなら自分じゃなくて俺を恨め。これは、お前の力不足じゃなくて俺の所為だからな。」
何かを吐き捨てるように口に出した後。
「....今更、綺麗事言ってもか。.....熱放撃」
炎が、再びレアルに放たれた。一直線、空気が歪み、地面が照らされる。...だが、それを防ぐ手段は――
「魔術は魔力か魔術でないと受けられない。」
「いや、魔力だけは一級品か。」
シュナーベル、魔力を込めたら盾が開く。
...父さんの盾は、なんで魔術を弾けた?
向かってくる炎を前に、手で展開した盾を閉じた。幸い、破損でそこが壊れることはなかったようだ。
***
スタッドはふと、目を覚ました。レアルを見た瞬間に安心して気絶してしまった。そうだ、レアルは?
「....今更、綺麗事言ってもか。熱放撃」
思考を崩す男の声。魔導士崩れはまだ生きていた。そして、入り口側で相対するレアルは。
丸腰?
顔の前に右手を覆うようにかぶせて、受けるつもりだ。
....理解ができない。魔術を生身で受けるなんて、自殺行為だ。必死に叫ぼうとする。手を伸ばして火球に魔術を放とうとする。
だが、それよりも早く。火球は、レアルの体を捉え――
「"シュナーベル"!」
金属が擦れる音。その次に小さな衝撃音。
レアルは倒れない。代わりに、公園の奥、雑木林の木が一本、倒れた。え。何が起こったの?
***
...軌道が逸れた?...俺の「熱放撃」は、確実にあいつを捉えたはずだ。
...弾いたのか?
最初の自動展開からして、あの盾は恐らく魔道具。だが、1発目の熱放撃は防げていなかったから、魔力が通っていないから弾き返すなんてのはあり得ない。
....待てよ?仮にあれが魔道具なら、最初の展開する瞬間は魔力は通っていてもおかしくない。
いくら何でも強気すぎる。未熟のくせして....まるで――
黄金色の少女は、こちらへと走りながら、再び盾を閉まった。
***
弾けた...! やっぱり、盾を展開する瞬間に魔術を受ければ、流れた魔力が、そのまま緩衝材になる!
盾を閉じながら、浮浪者に向けて走り出す。男は再び、手から火球を放った。
...来る!
「シュナーベル!」
振り払うように右腕を横に振る。と、同時に展開した盾が魔術を受け流し、またどこかの木が倒れる。
詰めれた! 男との距離も後僅か。フェーダーを持った左手を前にする。....刹那。
「...熱弾!」
男の魔術、先ほどより小さな炎が、レアルの眼前に浮かび上がった。
....弾いたばかりだし、シュナーベルは間に合わない。のけ反って、足を一歩後ろに引く。瞬間。
「風弾!」
横から、小さな風の弾が炎にぶつかり、相殺された。スタッドの方からだ。視線を回す。
スタッドは気絶したままだ。こんな状況でまで無理をさせるのに、少々罪悪感が募る。
だが、おかげで、もう障壁は何もない。少し屈んで、男を左手で下から殴る。同時に。
「フェーダー」
左手の魔道具。旋風が男を、空へと突き上げた。
ドサッ。と、軽い音がする。魔術を地面に撃って衝撃を殺したのだろう。落下地点に走り、フェーダーを男の上から突きつけた。
「....負けだ。俺の。」
男は両手の平を地面に付け、レアルの目を見る。
「...はは、やっぱ似てるな。そのキラキラした目。」
男は溜息をついた後、満足そうな表情でこちらを見ていた。その笑みには、既に敵意はなさそうだった。...もう一人を除いて。
「お前...こんなガキに負けやがって!払った報酬返せよ!」
夜の公園にて、唯一不満そうにしていた浮浪者が一人叫んだ。
「悪い。ちゃんと後で満額返す!」
男は少しも顔をしかめず、浮浪者の方に首を向けて答えた。...だが、その応答は浮浪者を満足させるのに足りえなかったようで。
「クソが!だったらせめてこっちのガキだけでもやってやる!」
浮浪者の獲物、尖った石が、月明かりに反射する。ドタドタと、浮浪者がスタッドへ駆け出す。....追いつけない!
「やめ――」
「熱放撃!」
...これまでで一番、早く、鋭い火球が浮浪者を捉える。
叫びながら吹き飛び、ゴロゴロ転がって、木にぶつかって気絶する。
男は再び掌を地面に付け、公園は静寂に包まれた。
「....ありがとう。でも、なんで.....?」
「お前とあの子への、せめてもの謝罪のつもりだ。それに――」
男はニヤッとしながらそれに返した。
「少し、昔を思い出したんだ。まだ俺が真面目に魔導士やってた頃をな。」
「...こんな俺でも、昔はお前みたいにキラキラした目をしてたんだ。魔導士学校でもそれなりの成績を取れるよう頑張ったし、警備隊に入ってからも、少しでも平和の為になるよう頑張ったんだよ。」
「...じゃあ、なんでこんな所にいるのよ。」
「まぁ...嫌ってた上司の身代わりにされてな。おかげで今じゃ、家も金もなくなってこの様だ。」
呆れからだろうか。男は少し笑みをこぼした。
....それに続いて、遠くから何人からの声が聞こえて来た。
「噂をすればなんとやら。仕事の遅い奴らが、ようやくお出ましか。」
男は静かに立ち上がり、懐から何かを取り出す。
「...正直俺の金でもないんだが、まあ警備隊に取られるよりはいい。お前と。あの朱色の子。その迷惑料、或いは慰謝料とでも思って持っといてくれ。」
「.....」
静かに、それを手に取る。正直学生には余りある金額だ。私の表情を見て、男は続ける。
「使えないんなら、俺が釈放された後に返してくれればいい。俺からあいつに渡しておこう。」
男は浮浪者の方を向き、思い出したようにこちらに尋ねた。
「そうだ。最後に1つ。...嬢ちゃん、名前は?」
男は浮浪者の方へと歩いていく。
「.......レアル・スプリング。魔道具技師を目指してる。」
浮浪者を担ぎ上げた後、男は少し振り向いて、笑顔で答えた。
「強くなれよ。レアル。」
.....それだけ言い残し、男は公園の外へと歩いていった。
***
「...レアル・スプリングか。いい名前じゃないか。」
「.........禊を終えたら、もう1回。何か別の仕事を探そうかな。魔導士や警備隊は無理でも。」
「嬢ちゃんを見たら、もう少しだけ頑張れる気も、してきたしな。」
魔導士崩れ....男は、浮浪者を背負い、警備隊の方へと歩いて行く。
...その時だった。
浮浪者の足が、男の脇腹を深く蹴りつける。さっきの魔道具の打撃と同じ場所。
男は体制を崩し、道に倒れ込む。
「お前...いつ.....起きた....」
肩で息をしながら、どうにか足を掴む腕を振り払う。
「こんな所で、終わってたまるか!」
道も分からぬまま、ただひたすらに宵闇に駆け出す。
よほど蹴りが効いたか、男は魔術を使ってこない。
いくつもの建物を横切り、裏路地に入る。奥には古い廃墟がある。ひとまずそそこで――
体が深く沈む。階段から足を踏み外すように。
「なっ」
階段ではない。段差ですらない。只の地面だった場所。
「うおおおおおおおぉぉぉぉ!?」
そこは、既に裂けていた。
***
レアルは、近くのベンチにスタッドを寝かしつけ、その様子を見ていた。
「...んん?」
そこそこ心配していたのだが、欠伸をしながら起きてきた辺りでその必要はなかった気がしてきた。
「あ、起きた。大丈夫?」
スタッドは少し辺りを見渡した後。
レアルの肩を掴んで、感謝とそれに続いた質問攻めをしてきた。終わったころには日が昇り始めてたし、...あれについて思い出すのも億劫になってきた。
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まぁ、そんな事件から3日が経った。
朝、コーヒーを飲み干した私は、制服の袖に腕を通し鞄を背負って、あの公園へ向かう。
そこには、同じような格好をしたスタッドがいた。3日前の傷はもう既に治っている。
「レアルおはよ!」
元気そうな声が頭にキーンと響く。私は欠伸をしながら、それに返した。
「...おはよ。」
「めっちゃ眠そうじゃん。」
「今日は入学式なんだから、そっちでも友達作れるように、ちゃんと起きてなよ?」
私は今日から、魔導士学校の魔道具学科に入学する。
今はまだ、魔道具技師になりたいってだけで、ぼんやりとしてるけど。
....ようやく、夢への一歩を踏み出せる気がする。
黄金色と陽炎 了
短編はここで、ひとまず完結となります。本投稿まではまだ少々じゃないくらい時間がかかりますが、少しずつ書いていこうと思うので、よろしくお願いします!
よろしければ、評価・コメント・批評など頂けると執筆の励みになります!
改めて、ここまで読んでいただきありがとうございました!




