第90話:次元の壁の崩壊と、絶対虚無(ブルー・オーシャン)への『新規参入』
第90話:次元の壁の崩壊と、絶対虚無への『新規参入』
大日本・多元宇宙商会による、全次元の完全独占を祝う究極の大宴会。
無限のエネルギーを生み出すアザトスのボイラーから供給された「神殺しの大吟醸」と、全宇宙の極上の素材をバイオプラントで練り上げた超絶美味によって、何兆という社員たちは心身の疲労を完全に回復させていた。
だが、ブラック企業たる大日本商会に「長期休暇」という概念は存在しない。
宴の熱気が最高潮に達したその時、代表取締役たる第六天魔王・織田信長は、既存の大宇宙という枠を飛び出し、すべてが白紙の領域――【絶対的な虚無】への新規事業開拓を宣言したのである。
「ガハハハハ! 宴会のシメが新しい戦場へのカチコミとは、ウチの会社らしくて最高だぜェ!」
オークの猛将・権六が、巨大な酒樽を放り投げて超絶・次元晶戦斧を担ぎ直す。
「へっへへへ! 宇宙の外側! まだ誰も手をつけてねェ、純度一万パーセントの未開拓市場! どれほどのシノギが眠っているか、想像しただけでソロバンが弾け飛びそうでさァ!」
大蔵省長官の猿ことトックス(猿獣人)が、ドル袋の目を輝かせて歓喜のダンスを踊る。
キャンバスの外側(絶対虚無)の恐怖
だが、歓喜に沸く武功派たちとは対照的に、戦略室の佐吉は魔導盤のスクリーンに凄まじい警告の数式を並べながら、青ざめた顔で眼鏡を押し上げた。
「お、御館様……! 皆も落ち着いてください! 『宇宙の外側』というのは、未開のジャングルや新大陸のような生易しいものではありません!」
佐吉の悲痛な声に、周囲の役員たちが静まり返る。
「私たちが今いる『真・戦国宇宙』の果て。……次元の壁の向こう側は、空間も、時間も、物理法則も、そして【存在という概念】すらも無い、完全な『無』の領域です!」
佐吉は、魔導盤に「真っ白な空間」を映し出した。
「もし、何の対策もなしにその領域に足を踏み入れれば、我々の肉体も艦隊も『最初から存在しなかったこと』として、音もなく【完全消去】されてしまいます! 絵の具が、キャンバスのない空中に絵を描けないのと同じです!」
「ヒィィィッ!? 行ったら即座に消滅するってのかィ!? そんなの開拓のしようがねェじゃねェですか!」
猿が毛を逆立てて悲鳴を上げる。
「……なるほど。相手の攻撃で死ぬのではなく、環境そのものが我々の存在を許さないと」
金柑ことルーギス(ハイエルフ)が、銀の杖を構えたまま冷や汗を流す。
「いかに無敵の大艦隊であろうと、浮かべる『海』がなければ進むことはできませんわね」
究極の『インフラ敷設(資本舗装)』
「……キャンバスがねェなら、俺たちの手で描き足せばいいだけだろうが」
絶望的な説明を聞いても、黄金の玉座の前に立つ信長は、愛用の『魔力火縄銃』の手入れをしながら極悪な笑みを浮かべていた。
「道がねェなら道を造る。空気がねェなら空気を持ち込む。……それが『開拓』ってもんだ」
信長は、ドワーフの鍛冶長・五郎左の方を振り向いた。
「五郎左! 大日本商会の誇る全艦隊の船首に、『概念舗装ロール』を装着しろ! アザトスの無限資本をドロドロに溶かして、宇宙の外側の虚無に直接【黄金の道】を敷きながら進むぞ!」
「ガハハハハ! 合点承知だぜェ、御館様! 何もない空間に、札束と永楽銭で無理やり『存在の道』を造り上げりゃあ、そこは立派な俺たちの領地ってわけだな!」
五郎左が特大のスパナを振り回し、全艦隊に究極の改造(ブラック労働)を指示する。
「御館様、狂っています……! ですが、それこそが我が主君!」
蘭丸が、白銀の神気を滾らせながら『天叢雲』を構え、信長の傍らに跪く。
「さあ、全社員(家臣)ども! この大宇宙の壁をブチ破り、永遠に終わらねェ俺たちの市場を広げに行くぞ!」
次元の壁の崩壊と、新規参入
ズゴォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!
大日本の全艦隊が、アザトス・ボイラーを限界突破させ、真・戦国宇宙の果て――『全次元の境界の壁』へとその砲門と船首を向けた。
「大日本・多元宇宙商会、新規市場開拓部! ……出発だ!!」
信長が火縄銃の引き金を引くと同時、無量大数の大艦隊が一斉に主砲を放った。
放たれたのは、次元の壁を物理的に破壊し、強引に「出入り口」をこじ開ける【超次元・新規参入覇王弾】。
パキィィィィィィィィィィィィィンッ!!!!!
宇宙の果ての壁が、まるで巨大なガラスが割れるように砕け散り、その向こう側に「色も音もない、果てしない白灰色の虚無」が口を開けた。
「全艦隊、資本舗装開始! 黄金の道を敷きながら突撃しろォォッ!」
五郎左の号令と共に、先陣を切る特攻艦隊の船首から、ドロドロに溶けた純度一万パーセントの『新・永楽銭』のエネルギーが滝のように射出される。
虚無の空間に触れた黄金の資本は、瞬時に固まって【存在を維持する絶対的な領土(黄金のレール)】へと変貌し、大艦隊はそのレールの上を爆走して、ついに「宇宙の外側」へと足を踏み入れたのである。
非存在の捕食者
「スゲェ! 本当に何もない空間に、俺たちの道ができてやがる!」
権六が、艦の甲板から身を乗り出して、眼下に敷かれていく黄金のレールを見て歓喜する。
「へっへへへ! 我が社の資本力があれば、無の空間すらも一等地に変えられるってわけでさァ!」
だが、その時。
『――ピーッ! 前方より、未知の存在……いえ、「非存在」が急接近してきます!』
佐吉が悲鳴のような警告を上げる。
白灰色の虚無の海。そこは完全な「無」であるはずだった。
しかし、その無の中に、まるで深海を泳ぐ巨大なサメのような【輪郭のない歪み】が無数に発生し、大日本艦隊へと猛スピードで襲いかかってきたのだ。
「なんだありゃあ! 姿が見えねェぞ!」
市松が大斧を構える。
ズバァァァァンッ!!
先頭を走っていた偵察艦の一隻が、その「歪み」に噛み付かれた瞬間。
爆発も、破壊の音もなかった。ただ、その偵察艦のデータが、空間ごと「スッ……」と無音で消え去ったのである。
「ヒィィィッ!? 船が丸ごと消えちまいやしたぜ!?」
猿が腰を抜かす。
「奴らは【非存在の捕食者】です! 虚無の世界において、『存在するもの(我々)』を異物として認識し、無へと還そうとする【宇宙の白血球】のような概念です!」
佐吉が分析結果を叫ぶ。
「奴ら自身が『存在していない』ため、我々の物理攻撃も魔力も……一切命中しません!」
「オラァッ! 当たんねェなら、当たるまで振り回すだけだァ!」
権六が跳躍し、虚無のサメに向けて次元晶戦斧をフルスイングする。
しかし、その凶悪な斬撃はサメの身体を「すり抜け」、空しく虚空を斬っただけであった。
「チィッ! 手応えが全くねェ!」
逆にサメの反撃(消去の牙)が権六に迫る。
「権六殿! 危ない!」
蘭丸が間一髪で白銀の結界を展開し、権六を黄金のレールの上へと引き戻す。
強制法人登記
「存在してねェから、攻撃が当たらねェだと?」
大艦隊が虚無の群れに包囲され、次々と「消去(減損処理)」の危機に瀕する中、信長は全く慌てることなく、愛用の火縄銃を肩に担いで前に出た。
「……フン。幽霊相手の商売は、これが初めてじゃねェ」
信長は、極悪な笑みを浮かべ、虚無の空間を泳ぐサメの群れを真っ直ぐに睨み据えた。
「存在しねェなら、俺の会社の帳簿に無理やり名前を書き込んで【存在させて】やればいいだけのことだ!!」
「な……!?」
佐吉が目を見開く。
「存在しない概念に、無理やり『価値』を付与して、物理世界に引っ張り出すというのですか!?」
「佐吉! 俺の火縄銃に、大日本商会の『法人登記システム(名簿)』を直結しろ! 奴らに我が社の【マイナンバー】を割り振ってやる!」
「りょ、了解しました! 全資本エネルギーを『存在の強制付与』に変換します!」
信長の火縄銃が、黄金の光と共に、無数の「契約書」や「社員証」のホログラムを纏ってパンパンに膨れ上がる。
「てめェら! 虚無の世界でウロウロしてるだけの無職は終わりだ! 今日から俺の会社で、実体を持って血反吐を吐くまで働け!!」
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
信長が引き金を引いた。
放たれたのは、破壊の弾丸ではない。相手の「非存在」という概念に対し、大日本商会の莫大な資本力を強制的に貸し付け、相手を【価値のある資産(物理エンティティ)】へと強制変換する『強制法人登記・覇王弾』。
黄金の光が虚無のサメたちを撃ち抜いた瞬間。
『……!? ギ、ギギギギギギッ!?』
輪郭がなかったサメたちの身体に、黄金の『新・永楽銭』の模様が浮かび上がり、その身体が強引に「物理的な肉体(巨大な装甲ザメ)」へと書き換えられて実体化したのだ。
「ガハハハハ! 実体が出たな! これで俺の斧が届くぜェ!」
権六が、実体化したサメの顔面めがけて、今度こそ完璧な手応えと共に戦斧を叩き込み、脳天から真っ二つに粉砕した。
「ウフフ、存在してしまったのなら、私の猛毒も効くということですわね」
ベルゼビュートと官兵衛のコンビが、実体化した群れに一斉に猛毒を散布し、次々とドロドロに溶かしていく。
虚無の開拓(ブルー・オーシャンの制覇)
「へっへへへ! 御館様! 奴らを倒した残骸から、見たこともない純度の『虚無エネルギー』が回収できやすぜ! これをレールに加工すれば、インフラ敷設の速度がさらに上がりまさァ!」
猿が、倒したサメの残骸を即座に「建築資材」として回収し、黄金の道をさらに先へと延ばしていく。
「……フゥ。どんな世界だろうが、俺の野心が届かねェ場所はねェ」
信長は、硝煙を吹き消し、どこまでも続く白灰色の虚無と、その真ん中を一直線に貫く大日本商会の『黄金のレール』を見渡した。
全次元を支配し、ついには大宇宙の枠すらも飛び越えて「無の領域」への開拓を始めた第六天魔王。
いかなる未知の脅威が現れようとも、彼らはそれを「新たな利益」として喰らい尽くし、永遠に歩みを止めることはない。
全100話の完結へ向けて、大日本・多元宇宙商会の「究極のインフラ敷設(陣取り合戦)」は、ブルー・オーシャンの最深部に眠る【大宇宙の真の根源】へと向けて、狂気のアクセルを踏み抜いていくのであった。
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