第81話:大宇宙の心臓(コア)と、原初投資神(エンジェル・インベスター)の『利益回収』
第81話:大宇宙の心臓と、原初投資神の『利益回収』
大日本・多元宇宙商会・代表取締役たる第六天魔王・織田信長が、己の純粋なる殺意と本能寺の紅蓮の炎のみで【絶対虚無の覇帝ゼロ】を両断した直後。
すべてを無に帰す混沌の特異点は完全に晴れ渡り、その奥底から、大宇宙のすべてのエネルギーの源泉たる【真の玉座(大宇宙の心臓)】がその姿を現した。
ドクン……、ドクン……。
それは、数千の銀河を圧縮したような巨大な黄金の結晶体であり、脈打つたびに『真・戦国宇宙』の全域へと莫大な生命力と闘争の概念を送り出している、まさに次元の心臓であった。
「ガハハハハ! 見ろよ! あんなバカでけェ純金の塊、今まで見たことねェぞ! こいつがこの宇宙のド真ん中ってわけか!」
オークの猛将・権六が、血まみれの身体を震わせて歓喜の声を上げる。
「へっへへへ! 御館様! あの心臓から溢れ出てるエネルギー、アザトスのボイラーすら凌駕する純度でさァ! あれを我が社のメインバンクに直結すりゃあ、名実ともに大宇宙の全資産が御館様のモンですぜ!」
大蔵省長官の猿ことトックス(猿獣人)が、よだれを垂らしながら猛烈な勢いでソロバンを弾く。
「……見事なものです。神も、バケモノも、虚無すらも打ち倒し、ついに大宇宙の頂点へと至るのですね」
金柑ことルーギス(ハイエルフ)が、主君の偉業に感嘆の吐息を漏らした。
大日本の全社員が歓喜に沸く中、信長は静かに愛刀を鞘に納め、黄金の心臓へと歩み寄ろうとした。
しかし。
『――ピーッ! お、御館様! お待ちください! 黄金の心臓から、未知の……いや、この宇宙の根幹を成す【原初のアクセスコード】が送信されてきています!』
戦略室の佐吉が、魔導盤から噴き出す凄まじい光の奔流に目を細めながら絶叫した。
「アクセスコードだと?」
信長が足を止めた瞬間。
ドックゥゥゥゥゥゥンッ!!!!!
黄金の心臓がかつてないほど大きく脈打ち、その眩い光が空間全体を包み込んだ。
光が収まると、信長たちの周囲の景色は、荒々しい戦国宇宙の星海から、白金の柱が立ち並ぶ【超越的な役員会議室】へと強制的に書き換えられていた。
原初投資神プロヴィデンス
「な、なんだァ!? いきなり部屋の中に飛ばされやがったぞ!」
市松が大斧を構えて周囲を警戒する。
白金の巨大な円卓。その最奥の「上座」に、実体を持たない、純粋な光の輪郭だけで構成された巨大な人影が座っていた。
その背後には、後光のように無数の【契約書】が神々しく回転している。
『……よくぞここまで会社を育て上げた。褒めてやろう、雇われ社長(CEO)の織田信長よ』
その声は、男でも女でもなく、老人も若者も内包したような、大宇宙の意思そのもののような響きを持っていた。
「……雇われ社長、だと?」
信長は、肩に担いでいた『魔力火縄銃』を下ろし、円卓の反対側からその光の存在を鋭く睨み据えた。
『いかにも。我は【原初投資神プロヴィデンス】。お前たちがかつていた世界も、神々のメタバースも、超次元企業どもの特区も、そしてこの真・戦国宇宙も……すべては我が撒いた【原初のシードマネー(存在の概念)】によって誕生した事業に過ぎない』
プロヴィデンスの言葉に、佐吉の顔から血の気が引いた。
「シードマネー(起業資金)……! まさか、この大宇宙の誕生そのものが、何者かによる『投資』の結果だったと言うのですか!?」
『然り。我は無数の次元に「存在」という資本を投資し、それがどのように成長し、利益を生むかを観察する者。……そして今、お前という特異点が、すべての宇宙を一つにまとめ上げ、極限の価値(利益)を創り出した』
光の神は、白金の腕をゆっくりと広げた。
『時は来た。これより、我が投資に対する【利益回収】を行う。大日本・多元宇宙商会の全資産、全技術、全社員の命運を、原初の株主たる我が名において【配当金】として徴収する』
絶対監査
「ガハハハハ! ふざけんな! 俺たちが血反吐吐いて稼いだシノギを、ポッと出の光野郎にタダで渡すわけねェだろうが!」
権六が吠え、円卓の上に跳び乗って超絶・次元晶戦斧を振り下ろした。
だが。
『――無駄だ。会社の備品が、株主に逆らうことはできない』
プロヴィデンスが指を一つ鳴らすと、権六の身体が空中でピタリと静止した。
物理的に止められたのではない。権六を構成する大日本商会の「社員データ」が、上位権限によって【凍結】されたのだ。
「オヤジ! クソッ、動けェ!」
又左と虎が助けに入ろうとするが、彼らもまた、円卓の領域に足を踏み入れた瞬間に動きを封じられてしまう。
「な、なんて力ですか……! 魔法でも物理でもない、システムそのものの根幹を握られている……!」
金柑が銀の杖を震わせる。
『我はすべての資本の源流。お前たちが使っているアザトスのエネルギーも、大日本のインフラも、すべては我が投資した「宇宙の器」の上に成り立っている。……ゆえに、我が【絶対監査】を行えば、お前たちの全権限はただちに剥奪される』
プロヴィデンスの冷酷な宣告と共に、大日本軍のキメラ社員たちが次々と光の鎖に縛られ、その生命力(資産)が吸い上げられ始めた。
「ひぃぃぃっ! お、御館様! このままじゃ、会社ごと乗っ取られちまいやすぜ!」
猿が泣き叫ぶ。
創造主たる神々も、理不尽なメガコーポレーションも打倒した。だが、すべての「土台」を作った出資者には、システム上絶対に逆らえない。それが、プロヴィデンスの持つ絶対的なアドバンテージであった。
究極の『株主総会』の開会宣言
社員たちが次々と無力化されていく絶望的な状況。
しかし。
白金の円卓の端に立つ織田信長は、己の社員たちが縛り上げられている光景を見ながら、腹の底から湧き上がるような低い笑い声を漏らした。
「……ククッ。フハハハハハ!」
『何がおかしい、雇われ社長よ。お前の役目は終わったのだ』
プロヴィデンスが冷たく見下ろす。
「おかしいに決まってるだろうが」
信長は、愛用の『魔力火縄銃』を円卓の上に叩きつけるように置いた。
「安全な高みからチマチマと金を出し、現場の連中が血反吐を吐いて会社をデカくした途端にしゃしゃり出てきて、『俺のモンだ』とふんぞり返る。……どこの世界にも、そういう胸糞悪ィ【寄生虫】はいるもんだな」
信長の全身から、先ほどゼロを両断した時の「純粋な武将としての殺意」と、大日本商会のトップとしての「極大の覇王色」が完全に融合した、漆黒の炎が燃え上がり始めた。
『……無駄だと言っている。お前の持つ資本力は、すべて我が貸し与えたもの――』
「貸したモンなら、利子をつけて返してやるよ!!」
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!
信長から放たれた常軌を逸した覇王色が、プロヴィデンスの放つ『絶対監査』の光の鎖を、理屈抜きで物理的に焼き千切った。
「ガハッ……! う、動けるぜェ!」
権六たちが拘束から解放され、床に崩れ落ちる。
『バカナ……!? 株主の絶対権限を、個人の意志の力で弾き返しただと……!?』
プロヴィデンスの光の輪郭が、初めて驚愕に明滅する。
「てめェが宇宙の最初の金を出したことは認めてやる。だがな、大日本商会をここまでデカくしたのは、俺の野心と、こいつら(社員)の働きだ。……現場に出ねェ株主が、偉そうに経営に口を出してんじゃねェ!」
信長は、火縄銃を再び肩に担ぎ、白金の円卓を蹴り飛ばしてプロヴィデンスを真っ直ぐに指差した。
「蘭丸! 佐吉! 全軍に布告しろ!」
「はっ!!」
「りょ、了解しました!!」
「てめェが持ち株(権限)を盾に会社を奪うって言うなら、受けて立ってやる。……これより、大日本・多元宇宙商会の【究極の株主総会】を開会する!」
信長の極悪な笑みと共に、背後の空間が割れ、アザトスの無限エネルギーを直結した無量大数の大日本艦隊の砲門が一斉にプロヴィデンスへと向けられた。
「議長はこの俺だ! 配当金が欲しけりゃ、俺たちの武力と暴力を全部正面から受け止めてみやがれ!!」
大宇宙の土台を創り出した「原初投資神」に対し、被出資者からの理不尽極まる『下剋上(武力反抗)』が宣言された瞬間であった。
全100話の完結に向けた最終章。大宇宙の全存在意義と、究極の所有権を懸けた、神と魔王の「血で血を洗う株主総会」が、いよいよその狂気の幕を開けるのであった。
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